「美味しい」と共にある、食が持つポジティブな要素を伝えたい。Interview with hue’s Photographer #4 鈴木孝彰

640suzuki_sakuhin0022.jpgPHOTO:Takaaki Suzuki

hueという社名は英語の“色調“が由来。自分の「色」を持った多様なフォトグラファーが多く揃っている、という意味も込めてあります。たとえば、それは、こんな色――。

 hueフォトグラファー・インタビュー。
第4回目は、温和で誠実な性格が写真からも滲み出る、鈴木孝彰さんにお話を伺いました。

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鈴木孝彰/フォトグラファー

 ――スープを注ぐ様子を上から撮ったものや、フレンチフライと塩がフライパンの上で踊っている画など、躍動感やライブ感のある食の写真が、とても印象的です。

ありがとうございます。観る方に「あ、ちょっとこういうアングルなかったよね」と感じてもらえるようなインパクトを与えたいと思い、ここ2年くらい、そうした動きのある写真を多く撮っています。あと、僕は食が持つ「楽しさ」みたいなものを伝えたい意識が強いんですよ。

 ――食が持つ「楽しさ」ですか?

料理や食べ物から僕らが感じるポジティブな感情というのは「美味しい」「美味しそう」以外にも多いですよね。「料理しているときのワクワクする高揚感」や「誰かのために食事をつくるときの愛情やぬくもり」とか、もちろん皆で料理を囲んだときの「心地よい一体感」とか。舌や胃袋だけじゃなく、心も満たしてくれる。そんな食がまとったいろんな感情を写真で表現したいと考えているんです。その一つが、料理の中にある“動き”。それを切り取って、気持ちの昂ぶりみたいなものを共感してもらえたらうれしいなと考えています。

 ――コントラストの強い独特の陰影も、鈴木さんの写真の特徴でしょうか。

自分の作品に関しては、そうですね。トーンを残しつつ暗さと明るさが同居するような写真が好きなんです。そのために僕は専用のライトボックスを自前で購入して使っています。それはhueでは僕しか使っていないので、一つ自分らしい写真の特徴にはなっているかもしれません。

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640suzuki_sakuhin0019.jpgPHOTO:Takaaki Suzuki

母親との買い物中に見たカレーの写真に、魅かれた。

 ――最初に写真への興味を持ったきっかけが、食品パッケージだったと伺いました。

はい。小学校1年生くらいだと思うのですが、母親と夕飯の買い物のために行ったスーパーで、ズラリと並んだレトルトカレーのパッケージに、ある日、とても興奮したんですよ。「わあ、この写真、美味しそうだなあ」といった漠然としたものだったのですが、それが今に続く原風景になった気がしますね。また叔父が店舗デザインの仕事をしているような人で、いつも一眼レフを持ち歩いていて「カメラって、メカニカルでカッコイイな」という少年らしい興味もありましたね。

 ――実際にカメラを最初に手にしたのは、いつ頃ですか?

大学の3年くらいになってからですね。ちょうどデジタルの一眼レフが一般的になってきた頃で、ニコンのD70を買い、友達や風景写真などを撮って遊んでいました。実はそれ以前の高校卒業のタイミングなどで、カメラを真剣に学びたいという思いや、カメラマンという仕事への興味もあったのですが、どこか飛び込む勇気が無かったんです。だから、いわゆる普通の大学に進んで、一度、普通に新卒で就職しました。

 ――どのような仕事に就かれたのでしょうか?

家電量販店の販売員です。人と話すのが結構好きなところがあったのと、やっぱりカメラに関する仕事がしたくて某家電量販店に入社しました。もっとも、カメラ売り場に配属されるのは、相当に高いハードルがあって、僕は白物家電の担当でしたけどね(笑)。ただ、1年くらいしたときに「やっぱりフォトグラファーになりたい」という気持ちがいっそう強まって、転職を。都内のスタジオにアシスタントスタッフとして入り、2年半ほど現場で写真を学んだあと、ちょうど食に特化した制作をしているhueが採用募集をしていることを知り、入社したという経緯です。

 ――「やはり食の写真を!」と小学校の頃の思いが沸き立った?

それもありますが、実際に撮影現場に身を置く中で、僕は食べ物の撮影が合っているかなと感じたことも、もう一つの大きな理由です。以前いたスタジオでは、モデルさんやタレントさんを使う撮影も多かったのですが、どうしても時間の制約がシビアになり、張り詰めた空気が流れがちだと感じた。一方で、食の撮影は比較的、ゆったりとした空気の中で「いいものをじっくり撮りましょう」という一体感が強いなと僕には思えたんですよ。それこそ、食が持つポジティブな力の一つなのかなとも感じました。実際に、hueに入って再びアシスタントからスタートしましたが、厳しいながらも、そんな現場の雰囲気の良さは、この世界に踏み込んでよかったなと感じてきました。もちろん、今も。

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――hueでのアシスタント期間はどれくらいだったのですか?

僕は丸3年ですね。たぶん、スタートが遅かった分、他よりも時間がかかったんじゃないでしょうか。それこそ前回のインタビューにも登場している石川さん(石川寛氏のインタビュー)をはじめとした多くの先輩方の下について、しっかりと料理の写真について学べたのは、とても貴重な経験でしたね。

 ――フォトグラファーになってから印象的なお仕事というと?

どれも印象的ですが、やはり最初のレギュラー案件となった日清シスコの『ごろっとグラノーラ』シリーズですね。もともとは石川さんが担当していたお仕事を引き継いで撮影させてもらったところ、評価してもらい「継続的に鈴木に…」と指名をいただくようになった仕事ですので、思い入れは強いですね。

 ――ミルクがまさに今、注がれている感じは、鈴木さんらしい表現でもありますね。

以前から引き継いだアイデアですが、結果として得意な撮影にはなりました。ただ、最もこだわったのは、具材がいかに自然においしく見えるかというバランスですね。ドライフルーツなどの具材と、グラノーラのバランスをみながら、ピンセットで地道にそろえたのですが、作りこみすぎると、朝などにさっと食べられるグラノーラの良さみたいなものが消えてします。ベストなバランスを探りながら、実は相当に時間をかけて撮っています。

 ――最初に店頭に並んだときは、感慨深かったのではないでしょうか。

そうですね。母親とスーパーを歩いていた過去の自分に自慢したいくらいでしたね(笑)。どこかのお店で、誰かが僕の撮ったパッケージをみて、なんの気なしに「うわあ、美味しそうだなあ」と思ってくれていたら、これほどうれしいことはないです。

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喜んでもらいたいから、一生懸命、慎重に――。

 ――いまフォトグラファーとして、一番おもしろいと思う瞬間はどんなときですか?

自分の満足いく写真が撮れたときももちろんうれしいのですが、やはりお客さんに喜ばれたときですね。言うまでもなく、撮影写真の質もそうですが、現場の雰囲気も含めて「いい撮影だったね」と思われるような仕事がしたいし、そう思われたときが最もうれしいです。僕はけっこう臆病な性格だから、撮影の準備はものすごく時間をかけて慎重にするんですね。だからこそ、なお撮影が終わったときの「いい撮影だった」「いい写真ができた」と思ってもらえる瞬間が、一番ですね。

――料理や食事がまとった楽しさのようなものを、ご自身の撮影の中でも感じてもらいたいという感じでしょうか。

そうですね。料理を待つ間の賑わいや楽しさと、おいしい料理が繋がっているように、よい撮影現場と作品をつくりたいと、いつも思っています。

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Takaaki Suzuki1984年東京都生まれ。大学卒業後、家電量販店に就職。2008年都内スタジオでのアシスタント経験を経て、2010年株式会社ヒューに入社。最近の趣味はコーヒー。


※hue’s Photographer #1 大野咲子のインタビューはこちらから

※hue’s Photographer #2 石原逸平のインタビューはこちらから

※hue’s Photographer #3 石川寛のインタビューはこちらから


著者プロフィール

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箱田高樹(はこだ・こうき)
1972年新潟県生まれ。株式会社カデナクリエイト所属。ビジネスマン向けの媒体を中心に「仕事」「経営」「ライフスタイル」に関するライティング・編集を手がける。『月刊BIG tomorrow』(青春出版社)、『Discover Japan』(エイ出版社)、『週刊東洋経済』(東洋経済新報社)、『マイナビニュースbizトレンド』等に寄稿。著書に『カジュアル起業』等がある。

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