“ハレ”の場を支えるフードクリエイター vol.1 大倉千枝子さん(おむすび まるさんかく/東京・神宮前)

 人と人の出会いを深める「食」は、パーティーやイベントのオープニングなどで欠かせない存在です。現代の「ハレ」の場が多様化する中、食を支える仕事もケータリング専門の会社だけでなく、飲食店や個人が担うものへと広がっています。この連載では食のシーンを支えるフードクリエイターの仕事に注目し、「食を通じて喜びと幸せを生み出す」という根っこにある思いを掘り下げます。

 第1回は、ハレとケでいえばどちらかというと「ケ」の日常食にあたる「おむすび」を、「ハレ」の食として提案する大倉千枝子さんをお訪ねしました。

_W4A9886.jpg

定番から季節限定品まで大倉さんが考案してきたおむすび。左からセリとお揚げの細切り、桜の花の塩漬け、セロリとちりめんじゃこ、ドライトマトとディル、そして山椒の実とじゃこのおむすび。

おどろきとアート性が記憶に残るおむすび

 トマトとディル、レモン、そしてセロリとちりめんじゃこ…… はじめて大倉さんのおむすびをいただくと、誰もが抱く「おむすび」のイメージを越えた、意外性のある具材に驚きます。そしてひと口いただくと、ご飯と具材が不思議に仲良く落ち着いていることに気づくのです。彩りの美しさと素材の香りの豊かさに惹かれて、思わずもうひとつ、と手を伸ばしてしまう。大倉さんはアート性と美味しさが記憶に残るおむすびを中心に、季節を盛り込んだメニューのケータリングを提供しています。機能的で清潔なオープンキッチンを備える大倉さんのお店「おむすび まるさんかく」では、おむすび弁当の販売とランチの営業もしていて、開店とともに青山周辺で働く人々が次々と立ち寄り、おむすびを買ったり、カウンターに座っておむすびと日替わりのお味噌汁であたたまりに訪れます。

_W4A9991.jpg

おむすび弁当に必ず入るのは塩むすび。この日は手づくりの梅干し入り玄米むすびとともに、彩りとバランスと楽しさを感じる野菜中心のお惣菜を、大倉さんが手際良く竹皮の容器に入れていきました。

おむすびとの関わりは、ワークショップからライフワークへ

 大倉さんはハウスメーカーの商品開発を経て、都市計画、医療施設や高齢者施設などを中心に色彩計画に従事してきました。カラーリストとして空間設計や商品開発をする中で、専門知識を生かして「色」をテーマとした子ども向けのワークショップをプライベートで開催するようになります。はじめは色水遊びからはじめたのですが、もっと親しみが持てる食べ物を教材に入れてみたいと、誰もがつくることができる「おむすび」を選んだのです。季節をむすぶというテーマで彩りや具材の組み合わせを一緒に楽しんでいると、野菜嫌いな子どもたちも自然と食べるようになる、という発見がありました。

 またカラーリストとして色を考える探究心は、大倉さんを食材へと導きます。30年来梅の保存食をつくってきたこともあり、お米をはじめとした生産者との交流や、生まれ育った山形県庄内地方の特性を生かした塩のプロデュースにも発展。「きちんとお出汁をとったり、丁寧に炊飯したご飯でつくる塩むすび。子どもはそんなシンプルなものが大好きです。もしおむすびづくりに“極意”があるとしたら、素材の良さを生かすために、少しの手間も惜しまないことでは」。おむすびは次第に大倉さんのライフワークへと変化していったのです。

_W4A9934.jpg

オーガニックコットンメーカーのケータリングでつくったおぼろ昆布を巻いたおむすび。おぼろ昆布の質感にコットンボールを見立てた、ふわふわ真っ白なおむすびの並んだお皿が現れたとき、パーティー会場では歓声があがったそうです。

ワインイベントへと広がったおむすびケータリング

 ある時、大倉さんのおむすびを食べた友人から、ギャラリーの個展オープニングのためのケータリングを依頼されます。その会場でおむすびを食べた人が感動し、また大倉さんに依頼をして、とまるでおむすびが転がっていくように口コミでケータリングの依頼が増えていきました。

「ケータリングの面白さはテーマ性があること。例えばファッション関係の方からの依頼であれば、伝えたい色や素材を食材でどのように表現しようと考えたり。オーダーを下さった方のハレの場をつくるため、目的をより的確に汲み取ることを大切にしています」と話す大倉さん。特に、パーティーで欠かせないワインと一緒に美味しく食べられるように、と考案したさまざまなおむすびは人気のアイテムになりました。

 山形県内のワイナリーの自慢のワインを楽しむイベント「山形ヴァンダジェ」が今年もhue plusで開催されますが、大倉さんはおむすびでフードブースへの出展を依頼され、初年度から参加しています。「同じ風土で育った作物同士は相性がよいんです。ワインが生産された風土を感じながら、ワインを美味しく召し上がっていただけるおむすびを考えます」という大倉さん。もちろんご本人も大のワイン好きです!

_W4A9810.jpg

大倉さんのおむすびの美味しさの源。それは炊いてからしばらく時間を置いて食べることを考慮してお米の炊き方を考えていること。そして何よりも土鍋というアナログ炊飯を楽しんでいるところにあるかもしれません。

伝えたいことを伝えるために店をオープン

 ケータリングの仕事依頼が増えてきたとき、大倉さんはおむすびを通じて日本各地の食文化や生産者との関係性をお客さんと一緒に深められる場をつくろうと、「おむすび まるさんかく」の店舗をつくりました。早朝から仕込みをし、お弁当の販売とランチの営業をしながらもケータリングの仕事は継続。都市のハレとケの食を、おむすびを軸に発信しています。おむすびとお味噌汁、お漬け物や常備菜。そんなベーシックな料理を、きちんと選んだ素材でつくる仕事はありふれているようでいて、なかなか触れられないものです。

 場所柄、デザインやファッション関係者に連れられて来店する外国のお客様も多く、カウンター越しに眺める大倉さんの手際の美しさと丁寧な仕事のファンになることも。実際そのような外国のお客様から依頼を受けて、出汁と土鍋炊飯、おむすびづくりのセミナーをお店で開催したこともあるそうです。

_W4A9614.jpg

梅干しを筆頭に、自然の力を借りて素材を美味しくする知恵も、さまざまなメニューに生かしています。例えば大根。寒の季節、四つ割り、輪切り、皮を風乾しすると、歯触り、旨みがひと味変わります。

人と人とをつなぐおむすびの力

 「手でむすんで手で食べる。その無言の信頼関係がつくる人と食べる人の間にあるのが日本のおむすびという美しい文化だと思うの。だから私はワークショップのときに必ず“手洗い”からスタートします。米の粘り気や湿度を手で感じながらつくることは譲れません!」と、おむすびの力を語る大倉さん。日常の“ケ”の食をお店やワークショップで伝えながら、ケータリングという“ハレ”の場にふさわしいものに転化するセンスとともに、“丁寧な仕事には清らかなエネルギーが宿る”という信念が、大倉さんのひとつひとつの仕事から伝わってくるのです。

_W4A9752.jpg

「清潔なところには健やかな精神が宿るような気がするんです」ということば通りの気持ち良い厨房。大倉さんが好んで選んでいる土、木、そして竹など自然素材の厨房の道具は、目にすがすがしく映ります。

私を支える「ケ」の食

母の料理。食いしん坊になったのは母の影響という大倉さん。旬の食材を大切にして、限られた食材を美味しく食べたいと工夫したり、そんな普段の食事が原点。

忘れられないケータリング

山形県庄内地方が舞台となった、ある映画のお祝いの席のケータリング。庄内地方の酒田市出身の大倉さんは、映画のワンシーンに登場した野原で、地元の知り合いが摘んでくれたフキノトウでおむすびをつくった。

今、会いたい人・行きたい場所

人:料理家の土井善治さん、辰巳芳子さん
場所:カラーリストとして風土色の研究で数多くの国内外の出張を経験したが、今後は風土色が反映された「風土食」に触れられる場所に行きたい。

【information】

おむすびまるさんかく
営業時間 9:30-16:00
ランチタイム 11:30-15:00(L.O.)
定休日 土・日・月曜・祝日
150-0001 東京都渋谷区神宮前3-1-25
tel 03-3402-5730
http://www.omusubi-garden.com

Photo by 細見恵里

撮影・レシピ開発、その他お問い合わせはこちらまで

著者プロフィール

著者アイコン
小川彩(おがわ・あや)
東京生まれ。フリーランス、エディター、プランナー。インテリア・建築・デザイン・工芸・食など、ライフスタイルを中心としたテーマで雑誌、オンラインメディアなどで編集、執筆。日本のガストロノミーの旗手により食の社会問題提起を行う「いただきます・プロジェクト」事務局。食農育を軸としてプロジェクトネットワークをつくる「Edible Education rice ball network」エディトリアルディレクター。
お問い合わせ

関連記事