「いちばん好きなのは、刈りたてのあの香り」 料理プロデューサー・狐野扶実子さんインタビュー

出張料理人など独自の活動で注目を集め、そのナチュラルな感性で魅惑の味わいを導く料理プロデューサー・食ジャーナリストの狐野扶実子さん。今も世界を舞台に活躍する狐野さんですが、実はhueのキッチンスタジオも、ご縁あってよくご利用いただいています。今回は特別に、愛犬のアローとともに狐野さんにお越しいただき、リラックスしたい休日など、どんな日々を過ごされているのかお話を伺いました。

愛犬アローとの出会いは?
私がパリからニューヨークに引っ越した時です。知り合いの情報で、となりのニュージャージー州のお宅で飼っていたゴールデンレトリバーが子供を産んだと聞いて見に行ったのがきっかけです。それまでは、週末もなにもなく、犬を散歩させるような暮らしとはかけ離れた生活をしていましたので。生まれた子犬は12匹。そのなかでさびしそうにひとりぽつんと兄弟たちから離れてたたずんでいたのがアローでした。はじめは別の子犬をもらうことに決めていたのですが、2回目に伺った時にアローの姿を見て、その場で心変わり(笑)してしまったんです。

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今でもパリの生活を思い出すことは?
あります。たまたまですが、昨夜の夢がそうでした。食材がないところで何か料理を作らなくてはいけない。なにもないのに一生懸命料理をするのですが、トマトの中になにかを詰めようしてトマトが潰れてしまう…。デザートのサクランボに、これまたなぜかナッツを細かくして詰め込もうとするのですが、なかなかできない…。そんなふうにあたふたしているうちに目が覚めました。あの頃のたいへんな生活がよみがえる、なんだか辛い不思議な夢で(笑)。

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いちばん癒やされる休日の過ごし方は?
今は、出張も結構多いので、休日はできるだけからだを休ませることが多いですね。主人も休みだったりすると、家族とアローで一緒にのんびり過ごします。でも、休日ちょっと入ったカフェでインスピレーションがわいたりすると、スマホのメモに入りきらないほど書き込んでしまう。休みの時も料理や食のことをつい考えてしまって。

ときどきアローを連れて、クルマで1〜2時間くらいのちょっと遠くに出かけることもあります。泳ぎが得意なゴールデンレトリバーなので、湖に連れいって木の枝などを投げると、すごい勢いで泳いで取って帰ってくるんですよ。その喜んでいる姿を見るのが、いちばん癒やされる休日の過ごし方ですね。

湖の近くでバーベキューをすることもあります。近くのスーパーや直売所で野菜などを仕入れて。ついタレに凝ってしまったり、コショウの香りは引き立て役だから焼いた後になどとこだわったり。どうしても半分、仕事モードになってしまうのですが。

今、おすすめの散歩スポットは?
こちらのスタジオのすぐ近くですが、天王洲の界隈が今、面白いですね。大胆に木を使った建物が水上にできたり、壁に大きな絵が描かれたり、次々に新しいものができていて。アートもたくさんあって、どんどん変化していくので、散歩しながら発見する楽しみがあります。アローが大好きなパン屋さんもあって、一緒に散歩するにはとてもよいところですね。

私は、仕事のために五感を磨くなにか特別なことをやっているわけではないですが、こんなふうに散歩したりすることが磨くことにつながっているかもしれません。散歩していると、ふわりとキンモクセイが香っているとか、いろいろなことに触れることができる時間になりますよね。


リラックスに欠かせないものは?
歳を重ねてきたのもあると思いますが、その時その時を大切にしようと思うようになりました。若い時は追いまくられてとりあえず1日終わって、またすぐ次の日がやってきてみたいな感じでしたが。今は、一つひとつの時間を大切にして、日常を豊かにしたい。そのためか、高価なものではなくても、なにか歴史を感じるアンティークなものや温かみを感じるものを、身のまわりに置きたくなりましたね。そうしたものに囲まれているとほっとします。

料理も、お皿でのプレゼンテーションを無理矢理きれいにしようとするのはもうやめて、そのときどきで良いもの、必要なものだけでやっていきたいと思うようになりました。見た目をきれいにするために、料理の味が変わってしまっては本末転倒なんですよね。きれいなお皿を創るためにどうしたらよいかではなくて、主役になるものをシンプルに置いていきたい。もちろんまだ、きれいにしようとする私と、いやそうじゃないと思う私、そのふたりの私が葛藤する時があるのですが。

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料理にも関わる香りで好きなものは?
ハーブ系のレモングラスやローズマリー、タイムなども好きですが、特に今、気になっているのは春菊です。私がプロデュースしている機内食でも食材として使っています。機内では気圧の関係で味覚が低下すると言われていて、香りのあるものが味を引き立ててくれるんです。南仏などでは、ワサビや柚子だけでなくいろいろな日本の食材にシェフが興味を持っていて、春菊を作っているところもあるんです。日本でも生のままサラダに入れて香りを楽しんだりするようになってきていますよね。

でも、実は私がいちばん好きなのは、芝を刈ったあとの、あの青臭い香り。散歩途中に大学のグラウンドがあって、ときどき芝を刈っています。その刈りたての匂い、あれが大好きなんです。これはなかなか料理では楽しめない香りですね。単純に好きな香りと言っても、そのときどきによってもちがってきます。例えば、キンモクセイも昼間の強い香りは苦手で、夜のほのかな香りのほうが好きだったりしますね。

私がパリのレストランにいた頃に、“鼻で掃除する”というのがあって。まだ入りたての時、まな板をきれいに洗うわけです。次の朝、シェフが匂いをかいで「あなたの昨夜の洗い方は足りていない」と怒られる。まな板だけでなく、調理台も鼻をつけてかぐんですよ。匂いがあるかないかで、きれいかどうかを判断する。見た目がきれいかではないんですよね。目に見えないところは匂いでわかる、だから“鼻で掃除する”と。

犬は、人間と比べものにならないくらいの優れた嗅覚を持っているらしいですが、アローはそんなにわかっているのかしら? 自分が食べたいものにしか敏感になっていない気がするけど(笑)。

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狐野扶実子・プロフィール

パリの名門料理学校「ル・コルドン・ブルー」を首席で卒業後、3ツ星レストラン「アルページュ」でアラン・パッサール氏に師事。3年でスーシェフ(副料理長)に就任。
退職後は、パリを拠点に出張料理人として独立。素材を生かした繊細かつエレガントな料理が話題となり、シラク元大領夫人をはじめロンドンやスイス、中東や北米など世界のVIPから注目を集める。その後、パリの老舗「フォション」で初の女性・東洋人のエグゼクティヴ・シェフに抜擢。
現在はレストランやイベントのメニューをプロデュースするほか、パリのアラン・デュカス氏主宰の料理学校「エコール・ド・キュイジーヌ・アラン・デュカス」で講師を務める。 JAL国際線ファースト&ビジネスクラスの機内食メニューの開発担当。雑誌『家庭画報」『エクラ」に連載。若手料理人の登竜門「RED U-35」の審査委員など。 


 

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