「AIロボットは蕎麦を打てるか?」 コンセプター・坂井直樹さんインタビュー

今回のスペシャルゲストは、コンセプターとして数々のプロダクトを手掛けてきたデザインコンサルティングカンパニー・株式会社ウォーターデザインの坂井直樹さんです。ライフスタイルに関することからデザイン、テクノロジーまで、幅広い分野を独特の視点で捉える坂井さんに最近、注目を集めている「食とテクノロジー」についてお話を伺いました。
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——坂井さんと食の接点はどんなところに?

以前はよく飲食関連の製品開発にも関わっていましたね。実は、あのブラックユーモア漫画『笑ゥせぇるすまん』のアニメに、ぼくをモデルにしたという人物が登場したこともあるんです。商品のヒットメーカーで飲料の開発をするお話。あの作品は毎回、最後のオチでペナルティーを課せられるのですが、ぼくの場合はタコになっちゃって(笑)。

欲張りすぎてはいけないという教訓のストーリーでしたが、今の社会ではあまりよい教育とはいえませんよね。ぼくは、むしろ「欲望全開でいきなさい」と、いろいろな方に言っているんです。なにをやるにも今は欲望がないとダメなのではないでしょうか。


——今、食の分野ではテクノロジーを用いたものが話題を集めています。

そうですね。その反対に、デジタル・テクノロジーとは一切無縁の世界を追求している人たちもいて面白いです。例えば、アメリカのライフスタイル雑誌『KINFOLK』みたいな、オーガニックであることをとことん突き詰めていく流れです。

「食とテクノロジー」でいうと今、面白いのはAIでしょうか。これは2014年に催されたものでぼくも参加したのですが、「IBMコグニティブ・クッキング」というイベント。フレンチシェフのパートナーを、自然言語を解釈し蓄積したデータを解析して自己学習もできるコンピュータシステム「IBM Watson」が務める。そして、この“ふたり”のコラボで生みだされた料理を味わうというものでした。

Watsonは、事前に世界の食材やレシピに関する膨大な情報を学習して分析。その組み合わせのパターンを抽出して、その中からオリジナルのレシピを提案したんですね。
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——実際の料理のお味はいかがでしたか?

おいしかったですね。違和感はまったくなかったです。もっととんでもないアイデアをWatson君は出していたのかもしれないですが、そのあたりは協業したシェフの力でうまく調整されていたのではないかと思います。一般的に食というのは、塩の旅なんですね。サラダも肉もパスタも。そして最後はデザートという砂糖の世界に辿り着くわけです。塩から砂糖に行って終わる。そういった料理の基本とは違った意外な組み合わせもありましたね。例えばチョコレートって、デザートではないメニューに食材として使うのには抵抗があるじゃないですか。でも、きちんとうまくまとまっていましたね。

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どうしてもAIというと、AIが何かを勝手に行うとか、人間に取って代わるという幻想があるんですが、そうはなかなかいかないです。あくまでAIと人間が共同して行うというのがスタンダードな考え方で、人間のツールとしてAIがある。このイベントでも、AIが出してきたアウトプットに対して、人間のシェフが調整を加えているわけです。

AIと人間のちがいって、何だと思います?
いろいろありますが、いちばん大きなちがいは欲望なんです。AIにはないが人間には欲望がある。そこが根本的にちがう。欲望が減退してきている方は、ちょっとAIに近づいているかもしれないので気をつけていただかないと(笑)。

——今後、さらにテクノロジーは食に近づいていくのでしょうか?

コンピュータが、おいしさなど人間の感性の部分でも使われるようになるのは確かですね。例えば、健康みたいなテーマで考えると、コンピュータの解析はきっと優れているのではないでしょうか。体質を分析して、それぞれの人に合わせてどんな処方がよいか緻密に行うことができる。特に栄養管理がシビアなアスリートの方などには、人間が行うよりも的確にできるのではないでしょうか。食のマネジメントをAIがやってくれるわけです。

手軽なところでは、食品中の塩分濃度を測定してくれる料理器具「Mr. Sam」。スプーンの先の部分にセンサーが付いていて塩分を測定できる。そして、スマートデバイスにつなげば塩分摂取の管理を簡単に行うことができるようになっています。使うことを楽しみながら管理ができそうでよいですよね。

今、電子レンジが各家庭にあるように、10年後くらいには当たり前のようにAIロボットがキッチンにいるかもしれないですね。最近、割れた腹筋の“シックスパック女子”が流行っているらしいですが、女性がシックスパックになるには相当な運動と食生活の努力が必要だと思います。AIなら、そうした過剰な欲求にも応えてくれるかもしれないですね。

AIというのは、人間のやりたくないことから解決していくはずです。みんなが料理をやりたいかというと、そうでもないですよね。であれば実現していく可能があります。人間が避けたい仕事を“3K(危険・汚い・きつい)”みたいな言い方を昔はしていましたが、そうしたことはおそらく順番にAIがやっつけてくれるのではないでしょうか。そして最後は、人間が自分でやりたいことだけ残る。

でも、日本は食に対してとてもセンシティブだから、そう簡単にはいかないかもしれないですね。話題の3Dフードプリンターでお寿司をつくるなんて、考えただけで気持ち悪い(笑)。意外とAIロボットがいちばん手を焼くのは、蕎麦かもしれませんね。あれはすごく繊細で、特に十割蕎麦は最後の水一滴で決まりますから。
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坂井直樹
1947年大阪府生まれ京都育ち。コンセプター。ウォーターデザイン代表取締役。京都芸術大学に入学し、その後渡米と同時に起業。85年日産「Be‒1」のコンセプトワークに関わり、フューチャーレトロブームを創出。2004年株式会社ウォーターデザインを設立。 以降、数多くのプロダクトを手がける。2013年3月まで慶應義塾大学SFC教授に就任し、その後2015年まで成蹊大学客員教授。現在ブログ「坂井直樹のデザインの深読み」を連載

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株式会社ヒュー
株式会社ヒューは「食」を中心とした広告や商品パッケージの撮影から、レシピの開発・提案・クッキングの手配や出版物・WEB・デザイン・SNSを使ったコミュニケーションツールなど多彩にご提案が出来る「食の総合プロデュース会社」です。

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