人が集まる「場」であり続けたい。 フードプランナー・大皿彩子さんの大きな夢

彼女の周りにいる人は、みんな笑顔だ。
こんな味になるなんてね〜。簡単でラク! おいしい!
幸せな言葉を発して、弾けるような笑顔を見せている。なぜだろう?

今回ご紹介する大皿彩子さんは、「おいしい企画」にまつわるさまざまな仕事をこなしています。その内容は、雑誌など媒体へのレシピ提供、テーブルや空間のプロデュースやコーディネート、イベントそのものの企画立案から仕切りまで、実に多彩。

自社「さいころ食堂」を運営し、huerepにも所属してさらに忙しさを増す大皿さんに、食の仕事に関わることになった経緯や、仕事に対する想いについて伺いました。
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アイデアがもっとダイレクトに届けられる仕事を

現在、食の分野で大活躍中の大皿さんですが、新卒で入った会社は広告代理店。営業として7年半、働いていたそうです。もともと高校生の時から広告業界に興味があり、卒業論文では過去のCMを研究し広告表現に関して書き上げたほど。

 大皿さん「自分の考えたことや形のないアイデアが誰かに届き、それに対して反応がある瞬間がすごく楽しいと思いました。ただ、広告はクライアントあってこそのところもあり、取り扱う商品が自分と関係のない場合もあって、もっとダイレクトに届けられる仕事はないかと考えました」

 広告の制作現場は、基本的に多くの人数が動き、作ったものがいかに多くの人に届くかを目標にします。大皿さんの場合、目の前の1人の笑顔があればいい。よりダイレクトに、よりスピーディに、その人に働きかけられるかを目指したい。そんな気持ちが芽生え始めていたのでした。

 体調をくずしてしまったこともあり、「食べ物で何かをする」ということだけを決めて、会社を辞めた大皿さん。ここから現在の「さいころ食堂」設立へと動き出すのですが、それにしてもなぜ突然「食」の分野に行こうと思ったのでしょうか。

 実は、小学生の頃から料理をしていて、何かを作っては人にあげるのが好きだったという大皿さん。ある日、自分で何かを表現してクラスのみんなの前でプレゼンテーションを行うという授業があったそうです。大皿さんが作ったのはマフィン。しかもクラス全員40人分のマフィンを焼き、相手のイメージに合わせて中身をすべて変えたそう。そして「食べ物は人を表す。誰にどんな中身が合うかを考えて作り、それを食べている人を想像するのが好き」とプレゼンテーションを行いました。

 食べ物を作って誰かに届けるという行為をごく自然に行ってきた大皿さんにとって、「食」を仕事にすることもまた自然な流れでした。自分が思い描いたことで誰かがワクワクしてくれる瞬間がうれしい。しかもそれがダイレクトに返ってくる。目の前の人の笑顔を引き出す「食」という仕事が、大皿さんの天職となった瞬間でした。

 「私は、自分のアイデアに対するある欲求がありました。それは、自分でないとできないこと、考え出せないようなことで、人をびっくりさせたいという思いです。その手段には、食べ物がいちばん。自分の勝手で“こうしたい”と企てたことが、食の世界であれば認めてもらえる。それは、相手のことを思っておいしいものを作ることにつながるからです。人を笑顔にさせることで認めてもらえる。なんて優しい世界なんだと思いました」

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人を楽しませるには、まず自分が楽しむこと

身一つで「さいころ食堂」を始めた大皿さん。会社設立のPRはFacebookに掲載しただけでしたが、代理店時代を知る人からプランニングの仕事が舞い込み始めます。企画立案だけでなくシェフなどのスタッフをアレンジしたり、自分で手を動かしたりと持ち前のがんばりで仕事をこなしているうちに、いつの間にか代理店を通さずにクライアントからダイレクトで相談がくるようになったそう。何を相談されても必ず対応しよう、お返しをしようと誠実に向き合っていったことが、仕事の広がりにつながりました。

 大皿さん「実行できない企画は立てないので、企画立案してから現場の仕切りまで、人まかせにしたりはしません。大切にしているのは、“自分が楽しいか”ということ。私自身が楽しくないと、どんなにクオリティを上げても楽しんでいない辛さがどこかににじみ出て、そこそこの味、そこそこの企画にしかなりません。人を楽しませるには、まず自分や関わるスタッフが楽しいと思うことが大事だと考えています」

「さいころ食堂」のさいころは、学生時代のニックネーム「大皿彩子→さいこ→さいころちゃん」から。また、さいころはコロコロ転がって必ず答えを出すことから、どんなことにもきちんと考え答えを導くという大皿さんの生き方にも直結しています。


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気軽に立ち寄ってもらえる、そんな“場”でありたい


 
そして「食堂」の由来。大皿さんには、自分の夢を常に3段階に分けて考える癖があることに起因しています。
1つ目は、「小さな夢」。これは小学生の頃なら「運動会でがんばる」といった具体的なこと。
2つ目は、「中くらいの夢」。たとえば、将来ファッションデザイナーになる、といった少し先の未来のこと。
そして3つ目は、大きな夢。これは、おばあちゃんになってから小さな食べ物屋さんをやって、そこに人が集まってくる。自分のことに興味がなくても、食べ物に吸い寄せられて人が来るかもしてない。そんなふうに人と関わり合いながら生きていきたい、という夢です。

 1つ目と2つ目の夢は、人生の時期によって変わりましたが、3つ目の夢だけは小さい頃から変わらないまま。人と関わっている、誰かとつながっている時間は、それだけで救われるような和やかな気持ちになるものです。お腹がすいている人に振る舞うくらいの食事を作ることができれば、誰かがふっと食べに来てくれる。そうやって人とかかわり合いながらの暮らしがいいなと思い、その単位が「食堂」という名前に結びついたのでした。

 大皿さん「“食堂”というのは、自分が“場”でありたいという気持ちの表れかもしれません。いろいろな人が集まってチームとして仕事を進めていくときに、肩に力が入った状態ではなくふらりと気軽に立ち寄ってもらえるような、“食堂”のような感覚でいたい。仕事をしていく上でも生きていく上でも、そのような“場”でありたいというのは自分の信条でもあります」
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「さいころ食堂」ができてまもなく4年。大皿さんの仕事の幅はさらに広がり、雑誌でのレシピ紹介では「流行っているみたいだから、パクチーで何かレシピを」のような自由度の高い依頼が来ることも。読者層を考え、楽しく読んでもらい「おもしろそう! やってみたい!」と思ってもらえる構成や演出を心がけているせいか、ページを一緒に作り上げた編集者から「こんなページになるとは思わなかった。大皿さんに頼んでよかった」という感想をもらうことも多くあるそうです。想像通りのクオリティで作るのはプロとして当たり前。想像の上をいく意外性があり、クオリティも伴っていれば、「次は何を作ってくれるんだろう」と依頼する側もワクワクします。

 大皿さんが作り出す「ワクワク」は、イベントにも表れます。その1つが「のみパン」。 これは平日夜8時からの開催で、会社帰りに飲み会に行くかのような気軽さで立ち寄れるというパン作り教室。すでに97回も開催されており、100回目ももうすぐです。
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 教室とはいっても、現場はとてもリラックスした雰囲気。粉をこねるところから作り始めますが、発酵を待っている間に飲んだり食べたり。またこねて成形して発酵を待っている間に飲んだり食べたり。そうこうしているうちに、おいしいパンが焼き上がります。

熱々のパンを前に「おいしそう!」「ふわふわ!」と、大の大人が歓声を上げるのを目の当たりにして、いちばんうれしそうなのは大皿さん。物事を考えるときは常に「視座」を意識しているそうですが、どの角度から見て考えると楽しさと喜びが生まれるのか、ぐるぐる回しながらアイデアを出した醍醐味が、ここにあります。

 そんな大皿さんの今後の夢は、さまざまなスキルを持った人が一堂に介して、みんなで一緒に仕事をできる場を提供できる場所を持つこと。それがどんな姿をしているのかはわかりませんが、いつもわたし自身が「場」でありたいという気持ちを貫き「さいころ食堂」という場所をもっと成長させたいと想いを馳せています。

 「限界の線を自分で引いてはいけないと思っています」と語る大皿さん。大きな夢がどこまで大きくなるのか、さらなる活躍が楽しみです。

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 info 大皿さんが手掛けられた「おいしい企画」のお話など、自ら執筆する記事を、シズル・ブログで連載予定です。お楽しみに!



著者プロフィール

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大橋智子/ライター
静岡県生まれ。編集者、ライター。文化出版局、ハースト婦人画報社で、女性誌や企業誌の編集・制作に携わった後、フリーランスに。旅や食、人物インタビューなど、カルチャーやライフスタイル関連の記事制作や編集業務をこなす。

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