人の気配を伝え、「そこに行きたい」と思わせたい。Interview with hue’s Photographer #1 大野咲子

hueという社名は英語の“色調“が由来。自分の「色」を持った多様なフォトグラファーが多く揃っている、という意味も込めてあります。たとえば、それは、こんな色―。

hueフォトグラファー・インタビュー。
第1回目は“人“を感じさせる画づくりに定評がある、大野咲子さんにお話を伺いました。

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―普段はどんなお仕事が多いのでしょうか?

化粧品の撮影などもありますが、やはり食品メーカーや惣菜チェーンなど食関連の広告撮影が中心ですね。もっとも、私の場合は、いわゆる「シズル」撮影を手掛けることは、少ないんです。 

―確かに、大野さんの写真は「料理の質感をぐっと引き出す」というより、「食がもたらす雰囲気をふわりと伝える」ものが多い印象です

はい。料理は、作るも食べるも、必ずその周りには人がいます。私は、そんな人の気配や息遣いを感じさせる写真のほうが、むしろ食がもたらす何かを印象深く伝えられると考えているんです。そういう写真を好んで撮るうち、「商品は手前に見えているけれど、奥にグラスがあって家族が集っている雰囲気で…」「プロヴァンスに憧れる女の子の部屋のイメージで…」といった依頼を多くいただくようになりました。

“ひとけ”ある写真を支える、密やかな空想

―生活感がありながらも、スタイリッシュな雰囲気の写真になっているのは、ご自身もそうした生活をしているからでしょうか?

たまに言われますが、そうではないんですよ。頭の中で「日常生活をひと工夫しているような女の子はこんなクロスを敷いて、こんな風に食器を置くだろうな」などとイメージしてつくりあげています。そもそも普段から空想するのが好きなんです。たとえば、通勤電車の中でも最初は今日の撮影の段取りを考えているのですが、気が付くと「あの席に座っている女性は、どんな休日を過ごしているのかな…」と勝手に頭の中で遊んでしまうほどです。

―そうした日々の空想が、撮影イメージの引き出しになっているわけですね

だと思います。例えば下の2点は「夢中のとなり」と題した連作。上は「食事終わりに話に夢中になっている人がいる」空想。下は「戯れた後のカップルがいる」というイメージから撮りました。メインとなるそのものの出来事より、こうした何気ない空間のほうが意外と人の記憶に残るよねと、そんな思いで撮りました。

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「何か好き」「何となくいいよね」を狙っている

―フォトグラファーを目指したきっかけは?

中学1年から高3までずっとスポーツをしていたんです。でも高校の部活の顧問がとても厳しい人で、「お前はセンスがあるが、伸びない」といつも怒られていました。「それなら最も自分にセンスが無さそうな世界に飛び込んで、努力だけで結果に現れることをしてみたい」と反発しちゃいまして。小さなころから絵を描くのが苦手だったので「それなら美大へ」と東京造形大でグラフィックデザインを学ぶようになりました。最初はADを考えましたが、写真の方が向いているかなと思い、大学卒業後、改めて専門学校で写真を学び、hueに入社したというわけです。

―ユニークな経緯ですね。「食」にこだわりは強かったのですか?

食べるのは好きでした。ただ、食の撮影を希望していたわけではありませんでした。偶然、友達がカフェを開いて「店舗用の写真を撮って欲しい」と頼まれたときの写真を作品として面接で見せたら、それを評価されて食の世界へ。ただ、あまり気取りすぎていない食の世界の写真は、すごく私にフィットしたなと思います。

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―撮影するうえで、大切にしていることは何ですか?

とにかく「自然に撮る」ことです。まばたきでもするように、リラックスした状態で、当たり前に構図を決め、すっとシャッターを押したい。繰り返しになりますが、私の写真は、自然な日常の雰囲気を求められることが多いんです。一方で、写真は撮る人の人柄が必ず映り込みます。私自身がムリせず、自然な心持ちと振る舞いができていないと、そうした日常の空気感は出せないと思っています。だから、撮影中もそれ以外の日常でも、できるだけ「自然にいよう」と考えながら、過ごしています。なかなか難しいんですけど(笑)。

―「女性らしさ」を感じさせる写真が多いのは、大野さんの内面が出ている?

そう言っていただけるとうれしいです。実は私自身、これまでほとんど「女性らしい写真を撮ろう」とは思ったことがないんですよ。けれど、私が女性である以上、どこかでそれは滲み出てくる。だからこそ普段から自分自身を磨いていくことが大切だなと考えています。

―機材で特にこだわっているものは?

唯一あるとしたら照明用のディフューザーですね。いわゆる撮影用のものではなく、イタリアで買ってきた普通の布を使ったりしています。照明機材ではなく、部屋にあるカーテンのようにセッティングすれば、より自然な写真が撮れると感じているからです。軽くて持ち運びがラクだし、背景に何か足りないときにも使えますからね。また建築のこともとても意識して撮影に望みます。窓がどこにあって大きさはどれくらいで、窓との距離がどれくらいで…と考えながら、照明を決める。これも「自然に撮りたい」という思いから意識しはじめたことですね。

―仕事をしているうえで、楽しさを感じるときは?

二つあって、まずは撮影を通してチームが一つになる瞬間があるんです。それは私たち撮影クルーだけじゃなく、クライアントも含めて、皆が同じ方向をむいて「あ、この写真いいね」となるとき。その瞬間はすごくうれしいし、良い雰囲気が良い作品に繋がるという、好循環も生まれます。もう一つは、写真をみて「何か好き」「何となくいい」と言われたとき、でしょうか。

―「何となく」ですか?

はい。「何となく」みたいな説明できないけれど好き・嫌いという判断って、実はとても大切だと思うんです。考えてみればモノを買うときも、どこかに行きたいと思うときも、人を好きになるときも、理由を考える前に何となく魅かれて、直感的に判断しますよね。あとから理由づけしているだけで。だから「何か好き」「何となくいい」と言われると、見る人の無意識に響いたのかなと感じて、すごくうれしいんです。

―それこそ、自然な写真で、自然に人の心を動かすイメージでしょうか

そうですね。またそうした人の気配を感じさせて、人の心を動かすような写真は、国籍を問わず響くものだと考えているんですよ。

―具体的に、すでにイタリアでの個展が決まっているらしいですね

はい。実は昨年ミラノのいくつかの書店やギャラリーに自作の写真集を送り、自ら売り込んだ結果、今年の5月12日から22日の間に『GOGOL&COMPANY』という書店で作品展示させてもらうことが決まりました。それこそ「まばたきをするように撮影する」ことを実現させた作品たちです。海外の方にどんな反応があるか楽しみですね。

積極的で行動的? いいえ。海外でも撮りたい、と思ったから動いただけなんです。自然に。

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大野咲子 Ohno Sakiko/1980年茨城県生まれ。2004東京造形大学デザイン学科卒業。東京ビジュアルアーツ写真学科卒業。06年株式会社ヒュー入社。趣味は雑貨店巡り、スポーツ観戦。

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著者プロフィール

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箱田高樹(はこだ・こうき)
1972年新潟県生まれ。株式会社カデナクリエイト所属。ビジネスマン向けの媒体を中心に「仕事」「経営」「ライフスタイル」に関するライティング・編集を手がける。『月刊BIG tomorrow』(青春出版社)、『Discover Japan』(エイ出版社)、『週刊東洋経済』(東洋経済新報社)、『マイナビニュースbizトレンド』等に寄稿。著書に『カジュアル起業』等がある。

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