うつろう時や音、そして味が伝わる画を求めて――。 Interview with hue’s Photographer #2 石原逸平

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Photo:Ippei Ishihara

hueという社名は英語の“色調“が由来。自分の「色」を持った多様なフォトグラファーが多く揃っている、という意味も込めてあります。たとえば、それは、こんな色――。

hueフォトグラファー・インタビュー。

第2回目は、骨董の器を被写体にした作品が印象的な、石原逸平さんに伺いました。

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石原逸平/フォトグラファー


――京都の骨董に、料理や草花を掛けあわせた作品群(上記のタイトル画像及び下画像)は、凛とした静けさと情緒を感じさせてくれますね。

京都に『大吉』という骨董店があるんですね。そこのホームページを眺めていたら、古伊万里や鉄器などに、女将さんが花を刺して撮影し、それをアップしていた。スマホで何気なく撮ったものでしたが、数百年前に作られた器に、見る間に朽ちていく生花のコントラストがいいなと感じて、こちらからお願いしてコラボレーションさせていただきました。長い時を生き抜いた骨董と、命短い草木や料理が対照的なだけに、「時」を感じてもらえる写真になったと自負しています。

――独特の雰囲気は、どのように撮影されたものなのですか?

60秒ほどの長時間露光でじっくりと撮影したものです。器の味わい深い表情はもちろんですが、そこに染み込んでいる時代の温度や湿度、通り過ぎていった季節や、時の刹那のようなものまで、写真1枚で伝えたい。そんな思いで撮りました。

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Photo:Ippei Ishihara

※石原逸平の作品はこちらから

――一方で、料理の美味しさを正面から伝えるようなシズル写真も撮る、「オールラウンダー」でもありますね。

意識的に「自分を限定しない」ようにしています。それは作風だけではなく、撮影におよぶ際のモノの見方や着想、技法も含めて。というのも、写真は現場で偶然に近い形でおもしろいアイデアが生まれて、予想以上に良い画が撮れることがままあるからです。あまり「自分はこんな作風だ」「こういう被写体はこう撮るべきだ」と凝り固まっていると、そんな偶発性がスポイルされる気がするんです。

――ただ、どんな作品でも、「緻密さ」を感じさせるのが共通点でしょうか。

“凝り性”なんですよ。加えて、撮影対象とじっくりと向き合って、それをどう配して、どう見せるかというところをすべてコントロールできるところに、食のみならず物撮りの醍醐味があると僕は考えている。だからこそ、いまこの仕事をしている面があります。

――昨年のミラノ万博日本館での「フューチャーレストラン」(下画像)の写真と動画は、まさに緻密で凝り性な部分が垣間見られるお仕事でしたね。

そうですね。テーブルに設置されたモニタ上のバーチャルメニューで、日本の食文化を楽しみながら学ぶという展示で、料理のスチールとムービーをすべて担当しました。華やかなMCによるライブパフォーマンスが入り、参加者は画面を箸で使って操作するという、遊び心もあるものでしたが、そこでみせる料理は、京会席の老舗『菊乃井』の村田吉弘さんの手による正統派。4日ほど『菊乃井』に入り込み、数百枚に及ぶカットと動画を撮影させてもらいました。大変でしたが、料理人やクリエイターの方々を含め、ある種の「日本代表」として仕事をさせてもらえ、とてもやりがいがありました。

 

――その日本館は展示館賞で、「デザイン部門」の金賞を受賞しました。

関わった仕事が評価されるのは素直にうれしいです。もっとも、個人的には、現地に行ったとき、パビリオン内で大勢の方が、箸を片手に自分が撮った料理に感嘆心したり、驚いたりしている姿を見られたことこそ、とても貴重な経験でしたし、うれしかったですね。

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ミラノ万博日本館「フューチャー・レストラン」。撮影を石原さんが担当


 祖父が撮った「家族の情景」。それが自分のルーツにある


――写真に興味を持ったきっかけの一つが、家族写真だったそうですね。

ええ。高校を出たあと、目標もないまま遊び呆けていた時期があって、その頃、偶然、実家で、祖父が昔撮った家族の写真を見つけたんです。手焼きのモノクロ写真。そこには、まだ子供だった母親の姿があって、一つの家族のいろんな情景が一枚に詰まっていました。流れる空気や時間までがそこに収まり、広がってこちらに伝わってくるようでした。「写真っていいものだな」とそのとき初めて感じたことをよく覚えています。そこでまずは出版系の専門学校へ入学。そこに写真の授業があって真剣に写真と向きあって、勉強しはじめました。学校は2年制で、その他、取材や編集なども習うのですが、1年間は他の授業は出ず暗室に篭もりきりでしたね。凝り性なので(笑)。

――その頃から、被写体は「食」だったのですか?

いや。その頃は、知人の紹介で偶然みたクラシックのコンサートに魅了されて、オーケストラや指揮者の写真を撮っていました。指揮棒の動きひとつで、音が変わり、会場の空気が変わる。そのさまが、とても新鮮で、「音が聞こえてくるような写真を撮りたい」と試行錯誤していましたね。

――hueに入った経緯というのは?

専門学校を出た後は、一旦、出版社のスタジオに就職。モデル撮影のアシスタントの仕事が多かったのですが、あるとき、化粧品の撮影を手伝ったんです。ここで物撮りの面白さに触れて。さっき言った「自分で手を動かすことで、画ががらりと変わる」おもしろさ、ですよね。じっくり試行錯誤しながら、写真を作りこみたい自分の性分にフィットしたので、hueの親会社となるアマナに転職。化粧品や食関係を撮るユニットにいて、その人材を中心にスピンアウトしたhueにそのまま、という形です。

――「食」の仕事が多くなったのは、ずっと後からというわけですね。

もちろん、hueになる前から手掛けることはありましたが、正直、最初は被写体としての食には興味はなかったんです。食べるのは好きでしたけど、料理することもありませんでしたしね。どちらかといえば、化粧品のケースのような作りこまれたプロダクトをいかに美しく撮るか、という仕事が好みでした。しかし、hueになってから、やらせていただいた大塚製薬の『ソイジョイ』(下)の仕事が転機なりました。

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老若男女が見てくれる「美味しい」の強さ


――ぎっしりと『ソイジョイ』と共に本物のイチゴを層状に並べた写真ですね。

ミルフィーユに見立ててソイジョイを並べようというアイデアはADの方からいただいたものでしたが、最初はもっとフラットに並べて、CGで処理すれば済むような感じでした。しかし、それではおもしろくないので、ひとつひとつ違う表情が出るように、イチゴも商品も少しずつ変えて本当に並べて撮りました。朝から並べて、最初の一枚目を撮ったのが深夜1時だったのを覚えていますね。

――結果として、栄養食品の高い機能性を持ちながら、しっかりとした美味しさがあることが伝わるとてもインパクトのある画になっていますね。

このときに食でも本当にやり方次第で、ひねりをきかせたアイデアを形にできるんだ、ということを実感しました。また、この写真、東横線渋谷駅にある80メートルくらい続く「スーパーボード」といわれる駅広告のスペースに貼りだされたんです。道行く子供からシニアの方までが、興味深そうにじっくりと見てくれる様子を見かけ、食の持つ力も体感しました。あらゆる面で、食の写真に関するモチベーションを変えてくれたきっかけになりましたね。

――今後は、どのような写真を撮っていきたいですか?

繰り返しになりますけど、自分をあまり限定していないので、ジャンルは問いません。ただ最近気になっているのは自分の作品のテーマでもある「和」のテイストのものですね。あとはシニア層をターゲットにした写真なども挑戦したい。このマーケットはいま最も注目されているわりに、あまり面白い写真がない気がしています。自分ならもっとひねりを効かせて、もっと多くの人を惹きつけられるものが撮れるんじゃないかなという自信もあります。いずれにしても、その一枚から、その奥にある時や思いや情景が滲み出るような写真を撮っていければうれしいですね。

――ところで、最近はご自身でよく料理をされるようになったそうですが。

いま6歳と10歳の子供がいて、休日、家にいると雑音がすごいんです(笑)。ちょっと逃げ場が欲しくて、キッチンがちょうどいいなと。その口実としてよく料理をするようになったんです。先日は京都で食べたカレーうどんが美味しくて、それを再現してみようと研究して、しっかり合わせだしからつくりましたね。没頭できて、いいですよ。

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Ippei Ishihara1976年福岡県生まれ。2003年株式会社アマナ入社。現在、株式会社hueに所属。趣味は最近はじめた料理。

※hue’s Photographer #1 大野咲子のインタビューはこちらから

著者プロフィール

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箱田高樹(はこだ・こうき)
1972年新潟県生まれ。株式会社カデナクリエイト所属。ビジネスマン向けの媒体を中心に「仕事」「経営」「ライフスタイル」に関するライティング・編集を手がける。『月刊BIG tomorrow』(青春出版社)、『Discover Japan』(エイ出版社)、『週刊東洋経済』(東洋経済新報社)、『マイナビニュースbizトレンド』等に寄稿。著書に『カジュアル起業』等がある。

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