マンガのような「うまい!」を画に――。 Interview with hue’s Photographer #9 梶賀康宏

hueという社名は英語の“色調“が由来。自分の「色」を持った多様なフォトグラファーが多く揃っている、という意味も込めてあります。たとえば、それは、こんな色――。

hueフォトグラファー・インタビュー。第9回目は、デフォルメされた迫力のシズル写真&動画で個性を際立たせる、梶賀康宏さんの登場です。
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梶賀康宏/フォトグラファー

「男子らしい」シズル表現。

――マルハニチロの『焼豚炒飯』のCMや、全編シズル撮影でカツ丼ができるまでを追った『かつや』のCMなど、梶賀さんのお仕事は「男子っぽいシズル表現」が多いですよね。
言われてみると、そうですね(笑)。デフォルメされた大げさな表現が好きだからだと思います。影響を受けたのは、マンガやアニメーションの表現なんですよ。

――なるほど。確かに、マンガのようですね。
指摘してもらったCMはまさにそう。炒飯を鍋であおっているバックのぼっと炎が燃え上がり、とんかつももうこれでもかと油がはねているとか、マンガやアニメでよくある過剰にダイナミックな表現技法を実写のシズル動画に取り入れて撮っています。余談ですが、炒飯の炎は実際に鍋をふっている後ろで火炎放射器を使って出したものですから(笑)。静止画も、たとえば、はしでとりあげてたっぷりとスープがとびはねるカレーうどんの写真も、あんなふうに食べたらもう洋服が大変なことになってしまいますね。

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Photo:yasuhiro kajika

――けれど、これくらいオーバーなほうが、ぐっと美味しさが引き立ちますね。
そうなんです。ひとの思い出の中にある美味しさって、僕は多少、デフォルメされて残っていると思うんですね。「炒飯ってダイナミックにつくっているところが美味しそうだよね」「とんかつってあげる音やはねる油からしてそそるよね」「カレーうどんはあの熱いスープがいいんだよね!」といった具合に。だからこそ、それぞれの料理の象徴的な美味しさをぐっと過剰に盛り上げた表現のほうが、個々が持っている美味しさの記憶の扉に近づけるのかなと思っているんですよ。

――なるほど。そうした表現はまさに男性が好む料理にフィットするのかもしれません。
そういえば、かつやの撮影のときは、クライアントから「ターゲットはほぼ男性なので、女性は無視してください!」と打ち合わせで言われましたね。やりがいがありました(笑)。

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Photo:yasuhiro kajika

エンジニアからの転身。

――驚いたのですが、前職は自動車の整備士だったそうですね。
ええ。もともとクルマ好きで、地元である宮城県の工業高校を卒業したあと、自動車工場に就職しました。ただ、もう一方で、高校時代は写真部に入って、いろいろ撮っていたんですよ。そして整備士をしている3年目くらいの頃に「クルマのカタログや広告に載っているような、かっこいい写真を撮ってみたい」という思いがふつふつとわいてきて、会社をやめて、あらためて写真専門学校に入り直したというわけです。

――専門学校は東京だったのですか?
はい。夜間の学校で、昼間はとにかく生活費を稼ぐためにアルバイト。夕方6時から学校で写真を学ぶ、という生活でした。大変ではありましたが、スタジオ撮影などを体験しながら学べる学校で、写真に対しての興味と知識は深まる一方でした。ただ、そこで学び始めた頃から、業界の状況が変わってきて……。目指していた「クルマの広告撮影」という仕事がどんどんなくなっていく頃と重なっていたんですよね。

――写真からCGへと変わっていく過渡期だったわけですね?
そうです。それまでは、クルマの撮影専門の会社があるなど、広告写真業界で自動車といえば花形でした。しかし、どんどんCGに取って代わられはじめた時期でしたね。目指してとびこんだ世界が、みるみる消えていく、という状況だったわけです。実は、中高時代は野球部に所属していて、本気で全国を目指そうと、打ち込んでいたのですが、高校の途中で肩を壊してあきらめるしかなかった経験があったんですね。

――写真部に入ったのは、野球部をやめた後だったわけですか?
ええ。目指していた道が途絶えて、どうしようか悩んでいた時期に偶然、誘われて写真と出会えたんです。ところが、写真の道を目指して飛び込んだら、また突然、目の前の進むべき道が見えなくなってしまった。決定打となったのは、就職試験でアマナを受けたときですね。「クルマが撮りたいんです」とクルマを撮ったブックなども見せたのですが「ああ、もうほとんどそういう仕事はないね」と一刀両断されて、一度、実は落ちているんですよ。

――その後、どういった経緯で、hueへ。そして料理にたどり着いたのでしょう?
クルマを撮る仕事がない、という現実にぶつかって、深刻に悩んだ時期があったんですね。そんなときふと観ていたテレビで、ハンバーガーチェーンのCMで、ドン! 鉄板の上にビーフパテが置かれて、じゅわ~っと、肉汁がしたたる描写の映像が流れたんです。いわゆるシズル表現のCMだったのですが、「ああ、こういう表現があるのか!」と感銘を受けました。料理写真は、専門学校でも何枚か撮ったことがありましたが、躍動感のある、それこそ男子っぽいシズル表現は知らなかったので、「こういう撮影ならおもしろそうだ。やってみたい!」と思うようになったんですよ。

――そうか。男子っぽい料理の表現というのは、疾走したり、ドリフト走行の躍動感の近いのかもしれませんね。
そうですね。あとはやはり食の写真は、クルマなどのプロダクトデザインと違って、ひとつひとつ違うし、CG表現などにとって変わられにくいだろうなと考えた面もありましたね。いずれにしても、当時はアマナは2回にわけて新卒募集をしていたので、その後にあったhueの面接に、料理の写真を持ち込んで臨みました。「躍動感のある食の写真を撮りたいんです!」と情熱だけで押し切った記憶がありますね。

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Photo:yasuhiro kajika

自分の色を、書店で見つける。

――hue入社後、実際に現場で食の撮影に触れて、どう感じられました?
まずはアシスタントとしていろんな方の下で現場を手伝わせてもらったのですが、まず「ひとり一人、本当に違う色を持っているな」と感じましたね。ひとことに料理の写真、シズル表現といっても、考え方も仕掛けも撮り方も、もちろん仕上がりもまったく違う。食の写真はファッションなどとくらべて、決して表現の幅が広いとはいえないと思うのですが、hueのフォトグラファーはみなその狭い中でも、しっか個性を出していた。「では、自分はどんな色を出せるんだ?」といつもアシスタントをしながら、自問自答していました。

――表現の幅が狭いうえに、他のカメラマンによってすでに“埋まっている席”が多々あった。
そんな感じです。ただ、「幅の狭さをぐっと拡げて認められたい」という、少し野心的な思いも一方ではあったんですね。1年目、2年目はとにかくアシスタントとしてついている先輩のやり方を真似する意識もありましたが、やはり真似は真似でしかない。だから休みの日はいつも書店へ出向き、料理が載っている雑誌や本を眺めて「何か自分にフィットするシズル表現のヒントはないか」と探し回っていました。けれど、どうも見つからない。途中、少しパンクしそうになったので、あるとき「気分転換に他の本でも覗いてみようかな」と思い、マンガの本に手を出してみたんですよ……。

――ああ! そのタイミングで、マンガ的なシズル表現と出会ったわけですか?
そうなんです。写真というワクをまさに超えた表現がそこにあった。そのときは『中華一番』というまた破天荒な料理マンガだったと思うのですが、まさにデフォルメした料理の表現が、そこにあった。包丁で野菜を切ると食材が飛んでいったり、食べるときも麺がぐぉんとしなったり。ありえない描写なんだけれど、「おいしそうだ!」と気分が盛り上がる。登場人物が「うまい!」じゃなくて「ふまい!」なんて言いながら食べる姿も、また妙においしそうだったんですよね(笑)。これを写真で表現したら、きっと面白いとと考えて、取り入れてみた。雲が晴れたようでした。

――「発見」でしたね。
ただアイデアにたどり着いたのは良かったけれど、実際に撮影でそれを再現するのは一苦労で。実はマンガ的表現で食を撮ろうと、最初に挑戦したのが、トップの画にあるカレーうどんなんです。これはもう一発撮り。ピントを予測して、カメラを固定させて、カレーうどんをはしでぐっと持ち上げて、うまい具合に麺がうねり、スープが飛ぶタイミングを狙って、何度も何度も撮影した奇跡の一枚です。連休の3日間くらいをまるまる使って撮りましたね。

――あの写真、あまりCGなどによるレタッチはされてないんですね。
あれに関してはあまりしていませんね。ただ、他はけっこうCGも併用しています。たとえば、この(下画像)のブロッコリーの写真はけっこうレタッチしていますね。実際にこんな風に下ごしらえでブロッコリーを飛ばしちゃっていたら、怒られるくらいに飛んでいますけどね(笑)。ただフレッシュな様子が伝わる。こうした動きのある写真、マンガの一コマのような表現によって説得力が増すと考えているんですよ。いずれにしても、このころに「これが自分の色だな」という出口が見つかった気がしましたね。

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Photo:yasuhiro kajika

先を見据え、早くからムービーの世界へ。

――こうして梶賀さんの世界観ができた頃にジュニアフォトグラファーに昇格。またその色にあった、パッケージや広告の撮影が舞い込んだ、というわけですね。
そうですね。ありがたいことに、ダイナミックな男性的なシズル感を求められるクライアントも多くいらっしゃるので、いろいろとさせていただくようになりました。

――一方で、フォトグラファーに昇格するか、しないかくらいの頃からムービーを積極的に勉強して、動画撮影の仕事も早くから手がけられていた。ご自身のマンガ的な表現は、ムービーにこそフィットすると思われたのでしょうか?
それもありますね。もともと僕の写真が、動画のひとコマを切り取ったようなものが多かったので、フィットするだろうなと感じたことが一つあります。しかし、最も大きいのは、「動画のシズル撮影のニーズが増えてきていた」ことですね。グラフィックのカメラマンもムービーを撮ることも増えていたので、方向性としてはそちらだろうなと考えました。ちょうど「エピック」というハイスピードカメラがアマナに入ってきたので、ことあるこごとにそれを使わせてもらい独学で勉強を。また他の方のムービー撮影の現場にも同席させてもらうなどして積極的にムービーも撮れるようになるという意識がありました。

――ムービーの撮影となると、またスタッフも増え、チームプレイになるので、別のスキルやノウハウが必要になりますよね。戸惑われることは?
最初は戸惑いばかりでしたよ。スタッフの数も多く、照明や仕掛けも含めてそれぞれのプロフェショナルが揃う。そのうえ撮影時間も限るられることが多いですからね。ただ同時に僕としては、そうしたそれぞれのプロの方と仕事することがまた勉強になる。もともと機械好きで、手作り好きなので、スチールの撮影のときなどは、撮影用の仕掛けを自分でつくってしまうことが多かったのですが、仕掛け専門の方などが入ると、やはり素晴らしいアイデアを持っていて、とても勉強になる。それは次の撮影に活かせるし、自分で仕掛けをつくるときのヒントにもなりますよね。

――仕掛けに凝った思い出深い撮影というと?
たくさんありますが、たとえば『マウントレーニア』のキャラメルナッツという商品のムービーですね。山手線の車内などで流れるトレインチャンネルの動画。キャラメルとマカダミアナッツを使っていて、それら原料のシズル撮影をしたのですが、ナッツが奥からゴロゴロと転がってくるカットがあるんですね。これなどは自然に転がってくるようにとれていますが、実はただ普通に転がすとすぐにフレームアウトしてしまうくらい小さい。そこで計算してうまく流れるパイプを配置して、そこからナッツがうまい具合に転がってくるようにして撮影しました。ほんの数秒しかないカットですけどね。ただ、その数秒にしっかりと伝えたい美味しさが備わっているか否かがポイントだと思っているんです。一瞬で目立たない。しかし、だからこそ、しっかりと美味しい表現を伝えないと、観た方に「食べてみたい」と思ってもらえませんからね。

――なるほど。その一瞬の中にダイナミックで躍動感のある梶賀さんの画が忍ばされるから、またそそられるんでしょうね。とくに男子が。
おかげさまで、そういった男性的なシズルの撮影をご指名でいただくことも増えていますね。毎回毎回、仕掛けを考える苦労が増えて、楽しくもあり、大変でもありますが(笑)。

型にはまらぬシズル表現に挑み続けたい。

――おもしろい画角を思いついたり、アイデアなどを形にするときのコツはありますか?
ひとつ撮影のときに僕が意識しているのは、ファインダーをすぐ覗かないことですね。カメラを通して被写体をみて考えると、その瞬間に発想が「限定的」になる気がするんです。だから、なるべくファインダーを除く前に頭の中で考える。そして、直接目で見て、手でファインダーの形をつくって観るけれど「もっとパースをつけたい」「いや、ここから撮ること自体やめちゃおう」と自由に発想が飛躍しやすくなる気がします。カメラや技術に縛られたら、きっとおもしろい画はうまれませんよ。

――マンガ的表現という手法を持っているからこそ、かもしれませんね。
あとは「何か常に新しい挑戦をし続けなければ…」という、ほのかな強迫観念みたいなものも僕の中にあるんですよ。それこそ、目指していた世界が無くなる、ということを野球やクルマの写真で経験してきましたからね(笑)。その恐怖心もあって「他の誰とも違う表現をしたい!」「スチールだけじゃなくムービーも!」と貪欲にいろんなことに手を出すし、新しいことにこそ足をつっこみたいという意識がある。今はCGにも興味があって、少しずつ勉強をはじめています。

――料理撮影の世界も、いよいよCGが増えていくだろうという見立てですよね。
そうですね。3Dスキャナーなどが発達しているので、とくにパッケージなどはどんどん撮影というよりもデータの加工というものになっていくのかと考えています。だから、もう何でも自分でやっていきたいし、「それはフォトグラファーにはできないですね」というものを減らしていきたいんです。そうして積み上げていった先には、どんな時代やメディアやプラットフォームが変わっても、いつだって「美味しさ」を求められ、表現する場所が必ずあると思っているんですよ。常にそんなシズル表現の先端のほうには、身をおいていたいですね。

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Yasuhiro Kajika/1984年宮城県生まれ。2011年株式会社ヒューに入社。独特の躍動感あるマンガ的表現に定評がある。「最近はマンガからアイデアを得るというより、日経新聞などから社会全体の潮流、トレンドを汲んで、ヒントを得ることが多いですね。ちょっと逆に恥ずかしいですけど(笑)」

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著者プロフィール

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箱田高樹(はこだ・こうき)
1972年新潟県生まれ。株式会社カデナクリエイト所属。ビジネスマン向けの媒体を中心に「仕事」「経営」「ライフスタイル」に関するライティング・編集を手がける。『月刊BIG tomorrow』(青春出版社)、『Discover Japan』(エイ出版社)、『週刊東洋経済』(東洋経済新報社)、『マイナビニュースbizトレンド』等に寄稿。著書に『カジュアル起業』等がある。

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