静けさの中にある、美しさを。 Interview with hue’s Photographer #10 加藤雄也

hueという社名は英語の“色調“が由来。自分の「色」を持った多様なフォトグラファーが多く揃っている、という意味も込めてあります。たとえば、それは、こんな色――。

hueフォトグラファー・インタビュー。第10回目は、hue最年少フォトグラファーながら、空気感のある写真で個性を際立たせている加藤雄也さんです。k_MG_5402.JPG
加藤雄也/フォトグラファー
 

日本映画の、あの雰囲気を求めて。

――シズル感はあるけれど、どこか落ち着いている。味や匂いをふくよかに伝えながらも、うるさくない…というか。加藤さんの作品には、そんな静かな印象があります。
「静かさの中にある美」みたいなものってあると思うんですね。日本映画によくあるような、わびしさや切なさまで匂わせるようなしっとりとした画を、料理写真で表現したい。そんな思いがあるんですよ。

――自然光の斜光線も印象的で、写真1枚からも物語を感じさせますよね。
ありがとうございます。冬の朝にひとり目覚めて、食べ物を前にぼーっとしている――。たとえばそんな瞬間を切り取りたいと考えて撮っています。最初からテーマを考えずに「あ、このみかん、おいしそうだな」と買ってきて撮り始めるうち、ああでもないこうでもないと試行錯誤して撮ることも多いのですが。あと「自然光」と言っていただきましたが、実は料理写真に関しては、ほぼ自然光は使っていないんですよ。

――ライティングでつくっているんですか。すごいな。それにしてもそうした「静かなシズル表現」を目指したきっかけは何だったのでしょう?
写真だけではなく、映画でも小説でも、はっきりと輪郭を打ち出した表現よりも、ぼんやりしているけれどニュアンスのある表現が好きというのがありましたね。くわえて、hueの先輩たちに、豪快さや大胆さをもった動的なシズル表現が得意な方が多かったことも動機になっています。

――どういうことでしょう?
他のフォトグラファーと同じベクトルの表現では埋もれてしまうかなと。そもそも、僕自身の性質もどちらかといえば、線が細い感じなので、より自分らしい表現ができるだろうと踏んでたどり着きました。結果として、自分の作風が無理なく出せているかなと感じています。
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フィルムのざらついた味が好き。

――カメラとの出会いは?
小学校低学年です。親にカメラを買ってもらい、散歩や旅行にいくたびに持ち歩き、風景や花などを撮っていました。といっても、カメラがサンリオのキャラクターが入ったおもちゃみたいなものだったので(笑)、なかなか思うような画が撮れないんですよ。そこで、高学年くらいのときには「一眼レフが欲しい!」と親に主張していましたね。もちろん、高校くらいになるまで、買ってもらえませんでしたけど。

――その頃、感じていたカメラの魅力とは、何だったのでしょう?
「記憶」ですね。まだギリギリ、デジカメじゃなくフィルムだったので、適当に撮った写真の現像があがってくるのが数日後なんですね。あがってきたプリントをみると、うわーっと、少し前にみた風景や音やにおいなどが蘇る、写真だけが感じさせてくれる心地よさがあった。「こんなところあったかな?」「もっとキレイだったんだけれどな」というもどかしさみたいなものも含めて、魅かれていったのかもしれません。

――高校は芸術科に進まれたそうですが、そこでは写真を学んだわけではなかったそうですね。
はい。金属工芸を学びました。そもそものきっかけは小学校のときに姉と一緒に市民ミュージカルに参加していたこと。音楽監督の方にかわいがってもらっていたのですが、監督の奥さんがガラスアクセサリーの作家をしていたんです。自宅に呼ばれることも多く、そのときに作品に触れて「あ、自分もガラス工芸の作家になりたいな」と思ったんですよ。ガラス玉の美しさにも目を奪われたのですが、一人でコツコツとやる作業というのが、性にもあっていそうだなと(笑)。高校進学のときに、少しでもその思いに近づこうと芸術科、工芸専攻を選んだのです。

――しかし、大学では写真に戻りました。
ええ。日大芸術学部写真学科に進学しました。もちろん趣味で高校の頃は写真を、それこそ一眼レフで撮ったりしていたのですが、デッサンなどを学びはじめると、画角や色などを考えながら写真で画づくりをしていく楽しさがうんと増したんです。ガラスや工芸の世界ももちろん魅力的でしたが、やはり狭き門ですし、それなら写真を学ぶ道に進みたいなと。

――日芸では、現代アートのゼミに入られていたそうですね?
コンセプチュアルで作り込んだ写真に魅かれはじめて、たとえば「古着のポートレート」などを撮っているオノデラユキさんなどが好きだったんですよ。直接的に作風で影響を受けたというよりも、どこか不思議な空気感のある作り込んだ写真というのは、目指しているところはありますね。僕は「記憶」をテーマに、幼少期に遊んだ記憶をたどるように、木片でロボットを組みあげて、それを撮る、といった作品をつくっていました。いずれにしても大学時代に気づいたのは、自分がスタジオや暗室にこもってじっくりと作り込んだ写真を撮るのが好きなんだな、ということですね(笑)。あとはフィルム撮影のおもしろさにもあらためて気づきました。

――もうデジカメが主流だったと思うのですが、フィルムのほうを好まれた?
もちろんデジタルのほうがクリアに撮れるのですが、雑味や粗さが残るフィルムの良さが個人的には好みです。それも日本映画的なしっとりとした美しさや切なさみたいなものが表現と近いところがあるのかなと思っています。実は大学の頃だけじゃなくて、今も自分の作品ではフィルムを使って撮っているんですよ。

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食の写真は「アートに近い」。

――大学の頃からhueに出入りされていたと伺いました。
そうなんです。大学3年のときにhueが学生向けに無料のワークショップを開催していて、友人に誘われて一緒に参加しました。正直、食の写真はおろか広告写真にもほとんど興味がなかったのですが、それが意外と楽しくて。

――どこに魅かれたのでしょう?
まずプロの仕事を間近に見られるのはとても有意義でした。月1度、半年ほどかけて料理撮影の基本を、大手(仁志・hue代表取締役社長)などが教えてくれて、僕らが撮った作品も論評してくれた。僕はやきいもを撮ったのかな。湯気の出し方がわからないから線香を焚いたりして(笑)。すると「そこは実際の湯気と同じ水蒸気で表現したほうがぐっとよくなる」などと論評してもらい、それがうれしかったことを覚えています。また機材やスタジオ、食器などを組み合わせて、世界をつくりこむような作業が、実はファインアートに近いところもあるなと感じたところも、おもしろみを感じたところですね。

――無機質な物撮りと比べると、なまものに近いですし、あきらかに作り込む要素も多いですからね。
はい。不思議な空気感のあるアート作品に憧れていた僕が、プロのフォトグラファーになるならば、おとしどころとして「食」というのはしっくりくるなという気がしたんです。そこで卒業と同時に、hueに入社しました。それが2013年ですね。まあ、当たり前なのですが、入社してアシスタント生活に入ったら、あれだけ褒めてくれたみなさんが、みごとに厳しくなって、戸惑いましたけれど(笑)。
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液体表現を得意のひとつに。

――実際に仕事として食の写真を手がけ始めて、いかがでした?
最初は本当に何もできなくて、自分で自分にあきれるほどだったんですね。アシスタントという役割なのに、むしろ邪魔しているんじゃないかと思ったほどで。ただ、最初の頃はずっと先輩について、ラーメンの撮影を手伝っていたんです。ある日、コンビニでそのときに撮影を手伝ったカップラーメンを店頭で見つけた時は「おおっ!」と。新鮮な喜びを感じると同時に、スタジオでの作業がばっと浮かんできて、なにか報われました。意義のある仕事だなという思いは強まりましたね。

――そして3年でアシスタントからフォトグラファーに昇格。早いですよね。
そうですね、早かったかもしれませんね。それは最初にいった、先輩方とは違うスタイルを模索して、比較的はやくそれと、「静かなシズル表現」と出会えたことがよかったのかなと思います。もっとも、昇格してからは実は2、3ヶ月ほどは暇で(笑)。その時期に、先輩のアドバイスもあって、社内のレタッチャーの方に弟子入りして、デジタル処理によるレタッチを、けっこう熱心に勉強させてもらいました。

――それは強みのひとつになったのではないですか?
そうですね。料理撮影にはレタッチは欠かせない作業ですからね。実際に自分でレタッチすることで限られた予算でも質の高い仕事ができることもあります。また自分で手がけずとも、撮影時にクライアントに「ここはこのようにレタッチで仕上げます」と自信を持って伝えられるようになったのは大きなメリットでしたね。年齢的にまだ若いので、そういうひとことを「言い切れるかどうか」といのは安心感につながるかなと思いますので。あとは「液体系」のシズル表現に自信を持てるようになったことも良かった。

――そういえば、作品でもお仕事でも飲料やソース、水などが目立つ写真が多くありますね。
液体の表現はレタッチが欠かせませんからね。そうした液体系の表現と、自然光のような静かなシズル表現。この二本立てが自分の強みとして押し出されたらいいなとは感じています。また、少しずつそうしたオファーもいただいているのがうれしいですね。商品パッケージでもより「生活を切り取ったような写真を」というオーダーがあってお声がけいただくのはやはりやりがいがあります。

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力まないことが、オリジナリティになる。

――いま仕事のメインはパッケージになるのでしょうか?
パッケージは多いですね。あとはウェブコンテンツやSNSなどにアップする食の写真も多く手伝わせていただいています。まだまだ駆け出しなので、とにかくいろんな分野で挑戦させてもらっている意識が強いです。

――今感じる、仕事の醍醐味は?
自分が携わった写真を外で見たときですね。もちろん、お客さんに「いいですね」などと評価いただくのもうれしい。とにかく、自分のつくったものが誰かの「役に立っている」というのは、何より得難い喜びです。もともと子供の趣味からはじめたものが、誰かの役に立っていると考えると、不思議ですらあります。少しでも、自分が撮った写真が誰かの役に立って、またいい「記憶」として残る機会が増えていけばいいなと。

――ところで、おやすみの日は何をしているのですか?
趣味に使っていますね。まあ、写真なんですけどね(笑)。あとは映画を観たり、本を読んだり、美術展も、西洋美術も日本美術も現代アートもなんでもみますね。前のめりに何かにはまるという感じではないのですが、みてみたいと思ったら覗いてみるようにしています。

――そうしたなんにでもフラットというか、自然体であることがまた加藤さんらしさであり、作品にも反映されていそうですね。
写真に限らず、表現って、なにか変に力んでインスピレーションを得たりすると、取り込まれすぎるというか、その真似になってしまう気がするんです。だから、なるべくフラットでいたいなというのは、学生の頃から少し意識としてあるかもしれません。結果としてそれがオリジナリティに近づける近道なのかなとも、思っていますね。

INFO:フォトグラファー加藤雄也の作品は横浜『写真を愉しむ家 &IMA』カフェスペースにて展示中。近日には新しい作品も展示予定です。ぜひご覧ください。

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Yuya Kato/1990年千葉県生まれ。2013年日本大学芸術学部卒業。株式会社ヒューに入社。「仕事も趣味も写真。ですが、本も好きです。作家でいうと小川洋子さん。ちょっと不思議な表現が好みなんです」

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著者プロフィール

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箱田高樹(はこだ・こうき)
1972年新潟県生まれ。株式会社カデナクリエイト所属。ビジネスマン向けの媒体を中心に「仕事」「経営」「ライフスタイル」に関するライティング・編集を手がける。『月刊BIG tomorrow』(青春出版社)、『Discover Japan』(エイ出版社)、『週刊東洋経済』(東洋経済新報社)、『マイナビニュースbizトレンド』等に寄稿。著書に『カジュアル起業』等がある。

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