見る人を驚かすために。「美味しそう」は外さずに。 Interview with hue’s Photographer #3 石川寛

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PHOTO:Hiro Ishikawa

石川寛の作品はこちらから

hueという社名は英語の“色調“が由来。自分の「色」を持った多様なフォトグラファーが多く揃っている、という意味も込めてあります。たとえば、それは、こんな色――。

 

hueフォトグラファー・インタビュー。

第3回目は、アーティスティックなシズル表現の第一人者、石川寛さんの登場です。

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石川寛/フォトグラファー

 

――世界的なパティシエである辻口博啓さんとのコラボレーションが続いていますね。

何だか気が合うんですよね。2014年に友人でカメラマンの石丸直人くんと開催した合同写真展が出会いのきっかけ。石丸くんが小山進さんという神戸の著名ショコラティエと組み、僕が小山さんの友人でもあった辻口さんと組んで、それぞれの作品を撮影するという試みをしました。このときに創作に対する姿勢というか、お互いの「何か新しい表現を世に出したい」というスタイルが共感できたんだと思います。以来、彼のショコラ専門店である『LE CHOLAT DE H』のパッケージや店舗用スチール、海外のコンクール出品用のビジュアルまで、多くの写真を撮らせてもらっていますからね。

 

――昨年には辻口さんがつくり、石川さんが撮ったチョコが、世界一のチョコレートアワードともいえる「サロン・ドュ・ショコラ・パリ」で3年連続の金賞も受賞しました。

結果的に海外の方々に作品をみてもらえ、それなりの評価をいただけるようになったのは、僕にとってもとても意義深いことです。そう、海外にどんどん出て行きたい、というところも、辻口さんと気が合う理由の一つかもしれません。

 

――滴り落ちるチョコの中を、弾丸のように走るボンボン・ショコラが強烈な印象を残すのは、そんな二人の姿勢を具現化したようですね。

まさしくそうです。ただただカッコイイ、みたいな写真には興味がなく、明確に意味や意図のある写真を撮りたいと常に思っています。たとえば、この写真は流れ落ちるチョコレートは老舗ショコラティエブランドを表し、そこを切り裂くイメージで、辻口さんのチョコを走らせました。網目にチョコレートを流し入れて垂らし、実際にボンボン・ショコラをパチンコのような機材ではじき飛ばして、撮影したものです。

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辻口博啓さんとのコラボレーションの数々。

PHOTO:Hiro Ishikawa

絵で学んだ手法が、今も写真の根っこにある

 

――作品でも広告などの仕事でも、凝りに凝ったシズル表現が石川さんの写真の特徴ですよね。デジタルもあわせて、アーティスティックに表現を積み重ねるような……。こうした表現手法は、どのように確立されたのでしょうか?

 

二つあって、一つは、程度の差こそあれ、どんな仕事でも「見る人をびっくりさせてやろう」という気持ちを持って撮影に及んでいることです。最近の広告はアートディレクターが描いた画を言われたとおり撮る、という風潮もある。それでも仕事としては成立しますからね。けれど、僕にとってそれはあまりおもしろくない。要望はもちろん消化しますが、その設計図から少しはみ出すような、自分なりのアイデアや表現を入れてみたいんです。すると「うわ、すごい!」とか「こいつが撮るとこんな画になるんだ」と思われるような、想定以上のビジュアルが生まれることがありますからね。そうした少しはみ出るクセをつけているうちに、着想がひろがっていき、スキルも磨かれてきたのだろうなと思っています。あと、もう一つはもともと僕が、油絵をやってきた人間だからでしょうね。

 

――油絵出身なんですか?

珍しいでしょ(笑)。大学で油絵を学んでから、フォトグラファーになったんですよ。ご存知のとおり、油絵は「真っ白」からはじまる。白いキャンバスの上に、幾重もの色を一筆ずつ積み重ねていくことで、ようやく一枚の絵が生まれます。労力はかかるけれど、手を加えるほど面白いものができます。本来、写真は、シャッターを押せば誰でも撮れる。しかし、僕は写真でも、油絵的な面倒を重ねるのが当たり前のようになっているんです。結果として、ちょっとしたオリジナリティになっている気はしますね。

 

――ハーゲンダッツ・ジャパンの広告写真は、そんな石川さんらしさに溢れるお仕事になったと伺いました。

アートディレクターの方と一緒に話し合いながら「こんなのはどう?」と出したアイデアが通りました。それぞれのフレーバーがひと目でわかるように、アイスはすべてスプーンですくったように見せ、ありえないほどの超接写で撮影。背景は暗めのミステリアスな雰囲気もいれ、従来にないハーゲンダッツのイメージを伝えられたと思います。電車広告を中心にしたキャンペーン用に撮ったものでしたが、今は同社の各会議室に同じ写真が飾られるほど気に入ってもらえました。「ストロベリー」「グリーンティー」といったフレーバーの名前の部屋になっているそうです。

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浴びるように触れた映画や音楽。それがあふれる着想に

 

――スチールのみならず、石川さんはCMなどの動画撮影も多いですね。動画撮影は、油絵のように、自らの着想を作りこんでいくスタイルとは少し離れたイメージがありますが。

スタッフの数も多いし、作りこむには時間がシビアですからね。ただ僕自身が自由にアイデアをぶつけていきたいタイプなので、他のスタッフをガチガチに縛って指示するのを好まないんです。多少、こちらの要望と違うライティングやセッティングがあがってきても「それはそれでおもしろいかな」と進めていく。それこそ、少し想定とは違う場所に辿り着いて、結果よくなる可能性が高いのが動画だと思っている。だから意外とフィットしている気がしますね。あとはそもそも動画撮影は、スチールより余白が多いこともあります。

 

――「余白」ですか?

ええ。先に話したように、スチール撮影はアートディレクターが描いてきた絵を出されて「このとおりお願いします」と言われたとき、本来、あまり抗う余白がないですよね。僕ははみでてしてしまいますが(笑)。しかし、動画の場合はそもそも絵コンテで撮影する内容が伝えられます。15秒のうちの数コマ分が四コママンガのように書かれている事が多い。つまりコマとコマの間をどう撮るか、自由度が高いわけです。だから「じゃあこのコマの間は、ぐっとカメラがスピーディに寄ってから部屋に入ろう」とか「いったん回りこんでから、料理する手元を写し込もう」といったカメラの動きやリズムまで、アイデアを提案しやすい。僕のように能動的に撮りたいタイプにはフィットするんですね。経験を重ねて、最近は絵コンテを自ら書いて提案する事も多く、Director of photographyというような立場で仕事する機会が増えました。

 

――そういう意味では、最近は料理や調理などのシズル以外の人物シーンも含めて、すべてディレクションされる機会も増えているそうですね。

顔の表情や食べ方なども含めて、シズル感を出すとより「美味しさ」が伝わりますからね。

 

――スチールにしても動画にしても、そうしたアイデアを出し続けていく着想の源泉というのはどこにあるのでしょうか?

僕は、かなり不良社員で、撮影がないときなどは会社にも寄り付かず、フラフラと遊びにいったり、旅行にいったりしているんですね(笑)。あとは父親がオーディオ関係のエンジニアだったこともあり、幼少時からクラシックなどの音楽に多く触れたり、母がインテリア関係の仕事をしていたのでデザインの本に触れたりする機会が多かった。そうして見聞きしたものすべてが血肉となってアイデアの素になっているのかなと感じます。あとは何より、大学で絵画を学ぶ前のニート時代に観まくった映画でしょうか。実は高校卒業後、数年間遊んでいた時期があったんです。当時は3本立てで800円なんて映画館があって、1日6本くらい観ることもありましたから。昔観たワンシーンが自然と今の撮影のワンカットに滲み出てくることは大いにあります。ニートも悪くないですね(笑)。

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https://www.youtube.com/watch?v=J8he6s1tBb8

 

観たひとが「美味しそう」と感じるのが正しい表現

 

――今後は、どのような撮影をしていきたいですか?

大きなことを言うなら、いつか映画を撮ってみたいですね。作家やミュージシャンなど他業界から映画監督になる人はいますが、シズル撮影を得意とするフォトグラファーが映画を撮るというのは、おもしろいと思うんです。あとは、やはりスチールでも動画でも「観たことのない広告を創りたい」「すこしマンネリなので視点を変えたCMをつくりたい」と考えているようなクライアントの方に、そのお手伝いができればと、思いますね。

 

――石川さんの「驚かせる」スタイルが求められる場は、多々ありそうですね。

そういうのは得意ですからね。ただひとつ自分の中で絶対に外したくないのは、食の撮影である以上「美味しそうに見せる」ということ。どんなに尖った表現や派手な撮影をしたとしても、撮影対象が食である以上、観るひとに「美味しそう」と感じてもらえなければ意味がないと思っているんです。テクニックは駆使しながらも、まず美味しそう、食べたい、と感じてもらえることが正解、という思いは、いつも胸の真ん中において仕事をしています。

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Hiro Ishikawa1968年東京都生まれ。1998年東京造形大学絵画専攻(油絵)卒業。1998年アマナ入社。現在、株式会社ヒューに所属。学生時代はヘビメタ好き

※hue’s Photographer #1 大野咲子のインタビューはこちらから

※hue’s Photographer #2 石原逸平のインタビューはこちらから

著者プロフィール

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箱田高樹(はこだ・こうき)
1972年新潟県生まれ。株式会社カデナクリエイト所属。ビジネスマン向けの媒体を中心に「仕事」「経営」「ライフスタイル」に関するライティング・編集を手がける。『月刊BIG tomorrow』(青春出版社)、『Discover Japan』(エイ出版社)、『週刊東洋経済』(東洋経済新報社)、『マイナビニュースbizトレンド』等に寄稿。著書に『カジュアル起業』等がある。

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