料理は微笑み、はにかみ、語る――。心が動いた瞬間を撮る。 Interview with hue’s Photographer #5 細見恵里

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Photo:Eri Hosommi

hueという社名は英語の“色調“が由来。自分の「色」を持った多様なフォトグラファーが多く揃っている、という意味も込めてあります。たとえば、それは、こんな色――。
 

 hueフォトグラファー・インタビュー。第5回目は、香り立つような瑞々しいシズル写真から、ダークで不思議な世界観の作品までを楽しんで撮る、細見恵里さんです。

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―キッズファッション誌『Milk japon』でのパンの写真。扉ページで、パンを割ったのは、細見さんのアイデアだったそうですね。
はい。プロダクトデザイナーの柳原照弘さんと『アルフィオーレ』のシェフ・目黒浩敬さんの2人が「こどもたちの未来に残すべき食と道具」を考える『CULTIVATE(カルティベイト)』という連載記事で、第1回目のテーマが「パン」だったんです。焼き上がったパンの力強い美味しさを伝えるため真俯瞰で撮っていましたが、私の中では『大きなパンはみんなで分けて食べるのが美味しいよね』という思いがあった。そこで、最後の最後に「いいですか?」と、割らせてもらったのです。その瞬間、天然酵母の力強い香りがふわりと漂ってきて「うわ、すごい」と心高ぶったまま、夢中でシャッターを押したことを覚えています。掲載誌をみたら、まさにその写真が採用されたので、驚いたと同時に、興奮しましたね。

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Photo:Eri Hosommi

 ―細見さんは、そういったクールな食の写真もある一方で、パスタやラーメンのパッケージでは、とても真っ直ぐなシズル感のある写真を撮られている印象を受けました。
そうですね。ただ私の中では一緒なんですよ。

―「一緒」というのは?
私は、どんなものを撮るときでも、「自分の心が動く瞬間」を最も大切にしているんですね。というのも、写真という表現は、被写体に触れたときに感じるこちらの“思い“が、撮った写真から滲み出ると思っているので。だから、おしゃれな雑誌媒体で雰囲気のある料理を撮るときも、大勢の方に熱々のスープの美味しさをしっかり伝えるのも、私が実際に感じた「美味しそう」「楽しそう」という思いが、いかに伝わるか。いつもそれを自分の真ん中に置いて、写真を撮っています。写真のトーンや見せ方は変わっても、そこは同じなんですよ。

―なるほど。撮影用のものではなく、実際に熱いスープや茹でたてのパスタを使って撮影することが多いと伺いましたが、その狙いは?
そうですね。私は出来る限りに、熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいまま撮りたいタイプ。やはりそのほうが心底「美味しそう!」と心身で感じられる。多少、煮崩れていたり、油が狙いどおりに写り込まなくても、その大きな気持ちごと写真に染みこむほうが仕上がりがいいと感じるからです。おかげで、苦労することも少なくないのですが(笑)。
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自分で作ったお弁当が、「めっちゃ好き!」と言っていた。

 ―そもそも写真に興味をもったきっかけは?
ええ。もとはといえば、テレビが大好きだったんですね。神戸出身なのですが、関西地方はお笑い番組がやはり多くて、CMもすごく面白いものが多かった。だから漠然と「こういうアイデアをカタチにできる仕事って楽しいだろうな」と大学では最初、広告を学ぼうと、グラフィックデザイン科に入りました。けれど、周囲の友達に比べて、絵が得意で入ったわけでもないので、デッサンなどがまるでダメだったんですね。しかし、写真の授業のときはなぜか先生にやたらとほめられて。ちょっとした賞みたいなものももらえたので、向いているのかな…と2年になった同時に写真コースに転入したのです。

 ―その写真コースが、ものすごく厳しかったとか。
大変でしたね(笑)。私がいたのが撮影技術を学ぶというよりも、作家志向の強い学校。カメラとフィルムを渡されて「撮ってきて」「見せて」「プレゼンして」「コンセプトを説明して」「全然、面白くない」といった作業を繰り返す、修行のような日々でした(笑)。最初にいったように、写真というのはどうしても自分の内面がにじみ出てしまう。けれど、まだ10代の学生の内面なんてしれていますよね。そこで、もう自分の内面をえぐり込むように、内面と向き合って、心の奥を自分で探っていかざるを得なくなるわけです。それがけっこうつらくて、私を含めて同級生はみんな泣きながら作品づくりをしていたし、テーマも誰しも「生と死」みたいなものに近づいていくんですよ。女性の多くは、セルフヌードになっていく子が多かったかな。

 ―そんな中で、細見さんは、「お弁当」写真の作品を撮り始めたそうですね。
自分と向き合った結果、だったんですよ。というのも、当時、年齢的にも私は「恋愛全盛期」だったんですね。片思いでしたが、その彼と一緒に万博公園にはじめてのデートに言ったんです。そのとき、一所懸命作り上げたお弁当を持っていたんですよ。結果として恋は実ったんですが、あとでそのときにつくったお弁当の写真を見返したら、もう恥ずかしくなってしまい…。

 ―お弁当の写真が「恥ずかしい」?
写ったお弁当をみると「めっちゃ好き!」と叫んでいるようだったんです(笑)。喜んでほしい、かわいいと思ってほしいから、猫のお弁当箱に、一所懸命につくったおかずを、丁寧にカラフルに盛り付けたりして――。このとき、あ、「お弁当って手紙みたいだな」と思ったんです。振り返ると、高校生の頃、毎日、母がつくってくれていたお弁当も同じだったんですよ。テストの当日のお弁当はすごく気合いが入っていて「がんばれ」と励まされているような気がしたり、逆におかずが出来合いものものばかりだったりすると「お母さん、疲れてるのかな」と伝わったりする。あるいは「ごめん、今日お弁当つくれなかったからこれで何か買って」と言われると、自分で食事が選べるうれしさもあるんだけれど、やっぱりちょっと寂しさを感じたりしていた。

 ―まさしくコミュニケーションですね。
そうなんです。お弁当は象徴的ですが、料理ってコミュニケーションなんだと気づいてから、途端、視界が開けたようになり、お弁当をテーマにした作品を撮り始めました。料理って、微笑んだり、はにかんだり、時には周囲を威嚇したりする。それがおもしろくて、大学の課題作品はほぼお弁当になりました。またミオ写真奨励賞などを頂いたのも自信になりましたね。

料理は、人の感情を最もリアルに伝える。

―お弁当をきっかけに料理写真に興味を持ち、そのままhueに入ったのですか?
いえ。学生時代はあくまで作品テーマとして食を選んだだけで、正直、料理専門のカメラマンという職業があることもわかっていませんでした。ただ偶然、学校の就職課で有名な料理写真家の方の求人情報が出ていて、「料理だけを撮るカメラマンになれるんだ!」と気づいて、それなら自分もできるし、得意かもしれないと思い、応募。すぐに採用されて4年間はそこでアシスタントをしていました。

 ―プロの撮影技術はそこで学んだ?
むしろ料理について学んだ部分が多かったかもしれません(笑)。プロの現場をみるのはとても刺激になりましたが、もっといろんなカメラマンの勉強もしてみたい、と考え始めていた時、仕事で知り合ったフードスタイリストの方が「hueという会社があって、そこはアシスタントをしながら作品を提出して、評価されていく制度がある」ということを聞いて、「コレだ!」と思い、転職しました。それが3年前ですね。

―hueではアシスタントから2年というスピードで、ジュニアフォトグラファーに昇格されたそうですね?
そうですね。なるべく早くカメラマンとして独り立ちしたくて「昇格しよう!」と、燃えていました。まずはhueのライブラリーに300冊ほどある料理関係の本はすべて読んで、自分の好きな料理写真は何かをインプットしました。その後、平日は撮影アシスタント。毎週土日は作品を撮って、月曜日に社内の先輩方にプレゼン…という生活に入りました。ただ、なかなか作品を評価されなくて苦労しましたね。

―ブレイクスルーとなった、きっかけは何だったのですか?
昔からギイ・ブルダン(70~80年代に活躍したファッション・フォトグラファー)のとがったファッション写真が好きだったんですね。ジャンルは違うけれど、ああいった内側からも感じるような官能的な写真表現を自分は食でやりたい、という思いが出てきた。食のイメージから構築するよりも、もっと内側から何かを表現するような作品をとりたいと思って、おもいきり自分を開放してみたんです。また、ちょうどフードスタイリストの勝又さんという方と出会って、一緒につくりあげたら、それがいい意味でも悪い意味でもインパクトを与えたみたいで(笑)、ジュニアフォトグラファーに昇格できたんです。それがちょうど入社から1年経った時でしたね。

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Photo:Eri Hosommi

―これは官能的な料理写真ですね。
実は自分が撮りたいコンセプトを勝又さんと話して、用意してくれた料理がほぼこの通りだったんですね。私が思い描いていたものを遥かに超えるような迫力があって、情熱的な料理で「うわ、すごい!」と言いながら、やはり心を震わせながら撮ったんです。結果としてこうした写真が見る人の心にも触れられる作品になる。このときに再確認した気がします。それまではどこかよい料理写真を真似て撮ろうとする自分がいたんですけれど。以降は料理本を見て、真似ようとするのをやめました。何か自分のなかで写真を撮るときの芯みたいなものができた気がしますね。その後はお仕事の写真も前とは違う自信をもった、感情が強く震え、見る人にも近づける写真をとれている気がしています。今年フォトグラファーに昇格してからは、さらに「細見さんのアイデアで自由にやってとってほしい」というお話も少しずついただけるのも、うれしいですね。

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Photo:Eri Hosommi

―表現におけるアイデアを得るために意識していることなどはありますか?
デパート、とくに伊勢丹が大好きなんですね。ファッションが好きというのもあるのですが、服だけじゃなく雑貨やもちろん食のフロア、さらに店のエクステリアにインテリア、お客さんのファッションやそこでしている会話などを暇さえあえれば見に行っています。そこで触れたちょっとしたコトやモノ、あるいは人が撮影のふとしたアイデアにつながることもあるし、売り場ってモノが動くリアルな場所だから「いまこんな商品が、こんな色味が受けていますよね」などと打ち合わせで言うときにも説得力が違ってくると思っているんです。

 ―今後のビジョンは?
もちろん、食にまつわる撮影を一所懸命やっていきたいのですが、例えば食をツールとして使うような表現にも興味があります。食関係のクライアントではない、それこそアパレルやデパートなどの広告に、食材や料理を使って、何かを表現するような。お弁当がコミュニケーションになるように、食、料理というものは、本当に何よりも思いが詰まり、伝わるものだと考えているので、きっと、ずっと、その表現にこだわっていきたいなと思っていますね。

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Eri Hosomi1986 年兵庫県生まれ。成安造形大学デザイン学部卒業後、料理写真家に師事。2013年株式会社ヒューに入社。趣味はショッピングで、週末は表参道か伊勢丹へ

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※hue’s Photographer #1 大野咲子のインタビューはこちらから

※hue’s Photographer #2 石原逸平のインタビューはこちらから

※hue’s Photographer #3 石川寛のインタビューはこちらから

※hue’s Photographer #4 鈴木孝彰のインタビューはこちらから


著者プロフィール

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箱田高樹(はこだ・こうき)
1972年新潟県生まれ。株式会社カデナクリエイト所属。ビジネスマン向けの媒体を中心に「仕事」「経営」「ライフスタイル」に関するライティング・編集を手がける。『月刊BIG tomorrow』(青春出版社)、『Discover Japan』(エイ出版社)、『週刊東洋経済』(東洋経済新報社)、『マイナビニュースbizトレンド』等に寄稿。著書に『カジュアル起業』等がある。

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