人気のシズルワードに隠されたヒミツ『ふわとろ SIZZLE WORD おいしい言葉の使い方』

シズルワードを調査しているB・M・FTの大橋正房さんとhueの大手仁志の対談も、いよいよ最終回。今回は、『SIZZLE WORD シズルワードの現在』に続くかたちで刊行された『ふわとろ SIZZLE WORD おいしい言葉の使い方』(編著:B・M・FT)でも紹介されている興味深いお話をからめながら、シズルの世界をさらに深掘りします。

「甘い」はスイートか、それともハニーか

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PHOTO:Takaaki Suzuki

大橋 「甘い」という言葉には、なんとなく否定的なニュアンスがあると思うんです。例えば「考え方が甘い」とか「甘い判断」とか。味覚だけでなく、きちっとしていない緩さのような意味があります。ところが、食の世界ではその「甘い」が「スイーツ」という言葉に変わることによって、「食べるのを抑制」しなければとか、「子どもっぽい」というイメージが取り払われたようなところがありますよね。スイートではなくスイーツ。ケーキやチョコレートが、「スイーツ」という言葉で括られることで、大人にもてはやされるようになったのはわりと最近のことだと思います。

大手 なるほど面白いですね。「スイーツ」という新しいスマートな呼び方が登場したことで、お菓子やケーキのイメージが変わったんですね。一方、今では、なんでも「甘い」と言えばOKみたいなところもありますよね。採れたての野菜を食べて「甘い!」、お刺身を食べて「甘い!」とか。そう言わなきゃいけないみたいな感じさえあります。

大橋 ウイスキーでも最近、「甘やかな」という表現を使っているものがあります。たしかに甘い香りがするのですが、それはさすがにウイスキーなので単に「甘い」と言うわけにはいかないのでしょうね。「かすかに甘い」「ほのかに甘い」みたいなところを表現する言葉として「甘やかな」を導いたのではないかと思います。

大手 「まろやかな」とは言いますが「甘やかな」ですか、考えますね。甘みを感じてもらったほうが好まれるということなんでしょう。ウイスキーはハイボールで、という方も多いですから。

大橋 ちなみに英語で「甘い」は、「スイート sweet」のほかにも「ハニー honey」がありますよね。「ハネムーン honeymoon」とか「愛しのハニー」とか。なんとなく日本の「甘い」は、意味的には「ハニー」に近いようなところがあって面白いですね。


日本でいちばん美味しい「地名」は?

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大橋 ワインに代表されるように、産地などを表す地名は、それ自体がもう立派なシズルワードであり、ブランドそのものなんです。大手さんが大好きな「宇都宮の餃子」もそうですよね。そこで、ちょっと考えてみたのですが、「シズル地名」みたいなものがあるかなと。日本でいちばん美味しい「地名」は何だろうと思ったわけです。

大手 「十勝」とか、かなり強力ですよね。商品名としてもブランディングという意味でも。

大橋 たしかにそうですね。先日、台湾に行ったのですが、お店のメニューにわざわざ「北海道産」のジャガイモって書いてあったんです。「日本産」ではなく、あえて「北海道産」と。日本各地の地名が食を通じて世界に知られているんですね。

大手 「北海道」は、相当ブランド力がありますからね。美味しさにつながる部分が大きいのではないでしょうか。台湾でも北海道のマークの入っているものが人気を集めているそうですし、観光地としても人気があります。日本語で地名を入れておくと商品価値が高まるというふうに考えているところもあって、海外向けの商品パッケージなんですが、あえて日本語表記をそのまま残しておくものも多いですね。台湾の街中に「銀座」と「北海道」って書いてある看板が並んでいたりして(笑)。

大橋 同じく台湾の夜市で「新宿 横浜店」という滅茶苦茶な看板が出ていました(笑)。よく意味がわからないまま乱用しているんでしょうね。地名がブランドになるとはいえ、これはちょっと…。

生ハムの「生」にはワケがある


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大橋 「生」という文字もシズルワードですね。「生ハム」っていう日本で生まれた呼び名は何なんだという話ですが、調べてみると昔は熱処理していないから輸入禁止だったんですね。同じようにミネラルウオーターも以前は輸入禁止だったようです。その頃の呼び名が「生ハム」や「生水」で、輸入を管理する側によって、そう呼ばれるものだったのだと思います。

大手 熱処理していない「生」のままでは危険かもしれないというわけですね。

大橋 それが解禁されて、「生ビール」の「生」みたいに新鮮で美味しいみたいなイメージにいつの間にか変わったんですね。今では、「生」という言葉のシズルを活かして、いろいろな商品の頭に付けられています。「生チーズ」「生チョコ」「生キャラメル」とか、「生」を付けるだけで美味しく感じるんですね。

大手 基本的にポジティブというかよい方向に捉えそうな気がしますよね。なにか貴重なもの、なかなか口にできないものという感じもします。

大橋 「生ハム」とちょっと似ているのが「生春巻き」。あれもたぶん日本独特の呼び方で、おそらく薄いライスペーパーのシズルが生ハムの薄さと一致してなんとなく普及したのではないでしょうか。生春巻きの透き通ったあの感じが「生」なんでしょうね。


「濃厚」は味よりも満足度を刺激する

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PHOTO:Takaaki Suzuki

大橋 味覚系のシズルワードのランキングでは、「コク」が下がって「濃厚」が上がる傾向にあります。おそらく「濃厚」は、以前まではラーメンの言葉だったのではないかと思います。「濃厚」か「さっぱり」か、みたいな。

大手 「コク」と「濃厚」は似ているけれどちがうんですね。「コクがあるコーヒー」と言うけれど、「濃厚なコーヒー」とはあまり言わない。

大橋 「コク」は、コクそのものがなんであるかを知覚するのが難しいし、身のまわりの食べ物や飲み物からコクがあるものが少なくなってきています。「コク」という言葉がよく使われていたビールなども、「コク」が「旨み」や「濃厚」という言葉の中に埋没しちゃっている感じです。ほかの言葉に置き換わっているんですね。

大手 チーズケーキやカルボナーラなども「濃厚」が強いです。どちらもチーズ系、あとは乳製品系でアイスクリームとかも「濃厚」を使ったものが多いですね。

大橋 もはや「濃厚」は味覚ではなく、口どけや舌で感じる触覚的な感じになっています。

大手 味というよりも口の中での存在の満足度なんでしょうね。プレミアム感というか、一定のレベルを超えて得した気分。薄くてライトな「さらりチョコ」よりは「濃厚チョコ」なんでしょうね。そうしたギュッと詰まった感じが今、よい方向に向いているのでしょう。ぼくたちも「濃厚hue」を立ち上げますか(笑)。

大橋 写真でも「濃厚」表現ってあるんですか?

大手 写真の表現として厚みを付けるというのはありますよね。コントラストを付けるとか、シャドーを強めに付けるとか、ビジュアル表現でいうと「濃厚」に近いのかもしれません。さらりとフラットに撮るよりは、陰影をはっきりさせ立体感を出して厚みを見せるとか。それが濃厚感につながります。振り幅があって、左右どちらかに振り切っていないと受け入れてもらえないという感じなんでしょうかね。「濃厚」の反対は「ゼロ」みたいに。

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さて、「シズル」とは一体何でしょう?

大手 大橋さんは「シズルとは?」と聞かれたらなんと答えているんですか?

大橋 「誘惑」ですかね。

大手 なるほど。ぼくたちはいつも「そそる・そそられる」って解釈を付けているんです。なんだかわからないけれど「気持ちが動かされる何かがシズル」だと。そのシズルに全部の答えがあるわけではないのですが。なぜか気持ちが動くものと動かないものがあって、それがシズルのある・なしではないかと思います。だから、気持ちが動くかどうかを自分で確認し比べながら、シズルを導こうとしているわけです。

大橋 今は素人の方もSNSなどにアップするために、美味しく撮るのに必死ですよね。シズルワードの使い方も皆さん上手です。

大手 シズル写真もシズルワードも、こんなふうにして整理し分析して伝えようとしますが、すればするほどよくわからなくなってきたり、逆に新しいものがどんどん見てきたりしますね。時代とともにビジュアルの表現も言葉も変わっていくのを実感します。言葉とビジュアル、あと音があれば、最強のシズル表現ができるかもしれませんね。

大橋 「シャキシャキ」「ふわふわ」「とろ-り」などの言葉は、食感だけでなく、音でも感じるシズルワードですね。シズル音がきけるソフトとか作ったら売れますかね!?

大手 帰りの電車の中とかで流されたらたまんないですね。「ジュ〜ジュ〜」「シュパッ、シュパッ」とか、たぶん電車降りたらみんな速攻で食べに行くでしょうね(笑)。

前回の記事はこちらから
シズル対談2.シズルワードדそそる”ビジュアルから「美味しさ」の今が見えてくる!
シズル対談1.気になるシズルワードは何?「美味しい」を言葉とビジュアルで徹底分析


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info
記事の中でもご紹介した『ふわとろ SIZZLE WORD おいしい言葉の使い方』(編著:B・M・FT)が発売されました。hueの大手によるビジュアルに関する記事も掲載されます。興味深い「美味しい」が満載の一冊ですので、ぜひご一読を!

プロフィール 大橋正房
株式会社 BMFT 代表取締役
さまざまな消費者商品の商品開発やマーケティング戦略立案のためのマーケティング・リサーチに携わる。著書に『「おいしい」感覚と言葉-食感の世代-』[2010.03]BMFT出版(共著) 『メディア世代のカルチャー・シーン』[1993]誠文堂新光社(共著) 『同時代子ども研究 第1巻 食べる・飲む』[1988]新曜社(共著)『ライフスタイルを創った100の商品全力疾走』[1983]東洋経済新報社(共著) 『広告化社会』[1982.08]毎日新聞社など。好きな食べ物は麻辣刀削麺パクチー増量。

プロフィール 大手仁志
フォトグラファー、シズルディレクター、「食」の撮影を専門とするスタジオhue代表取締役。1965年栃木県生まれ、1985年株式会社アーバンパブリシティ(現・株式会社アマナ)に入社。その後30年間に渡り「食」に関する広告写真の撮影に携わる。食材や料理がもつ生命力を切り取り表現することが食のフォトグラファーの使命と考え、数多くの広告賞を受賞。最も好きな食べ物は餃子。

大橋正房さん、大手仁志が登壇するシズルセミナーも開催決定!

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著者プロフィール

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株式会社ヒュー
株式会社ヒューは「食」を中心とした広告や商品パッケージの撮影から、レシピの開発・提案・クッキングの手配や出版物・WEB・デザイン・SNSを使ったコミュニケーションツールなど多彩にご提案が出来る「食の総合プロデュース会社」です。

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