【シズル対談】株式会社WDI 清水謙氏に聞く「国を越えて人の本能を揺さぶるシズル感」

『カプリチョーザ』、『ハードロックカフェ』、『ウルフギャング・ステーキハウス』、『トニーローマ』、『サラベス』…。数々のレストラン運営を通して、多くの人に思い出をつなぐ感動体験レストランと話題を提供し続けている株式会社WDI。「本国の食文化を伝えたい」と、世界の人々から愛されるレストランブランドを国内外に展開し、今年創業46年を迎えます。今回はシズルディレクターでフォトグラファーのhue大手仁志が、株式会社WDIの代表取締役である清水謙氏が考えるシズル感についてお話をうかがいました。

今日はどこの国へ?食事体験で旅するレストラン

大手 御社のレストランは、個人的にも度々訪れているところばかりで、懐かしい思い出もよみがえります。事業内容についてお聞かせください。

清水氏(以下、敬称略) WDI GROUPは「ダイニングカルチャーで世界をつなぐ」を企業理念として、世界各地でレストランの運営とブライダル企画・運営を行っております。創立は1954年、外食事業に参入したのは1972年で、私は15年前から現在の社長職に就任しております。
アメリカのブランドを中心に、現在25のブランドを世界10カ国、約200店舗で展開しています。

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▲「食文化の伝道師」として、世界をつなぐ株式会社WDI。本国の雰囲気をそのままに、国内外に様々な美味しさを届けています。

大手 まさにグローバル展開ですね!
各国の現地のお客様が美味しいと思う感覚と、日本のお客様が美味しいと思う感覚は異なると思うのですが、料理は本場のそのままの形で展開するのか、それとも日本人好みにアレンジを加えるのでしょうか?

清水 海外のレストランを日本に輸入する際に大切にしていることは、オリジナリティです。日本風のアレンジも加えませんし、WDI風にもしません。
例えば10名のうち3、4名の方には「これは日本では流行らないよ」と言っていただいても構わないと考えています。その代わり、2、3名の方から「海外で行ったあの店だ!現地で味わったそのままの料理や雰囲気だね!」と感じていただけるブランドを選択し、展開しています。

大手 確かに展開されているブランドはそれぞれが個性的ですよね!しかしどれもヒットしていて、日本の文化に定着しているように見受けられます。

清水 そんなこともないですよ。実は過去には日本初の日焼けサロンやドーナツショップを出店して失敗したことも…。時代の先を行き過ぎました。
現在では、流行の一歩先ではなく半歩先を行くようにしています。流行を早めにキャッチして展開していく手法です。

大手 時代の流れが早い中で、新しい流行を取り込むために、常にアンテナを張っている、いわゆる“専門部隊”が存在するのでしょうか?

清水 それはスタッフ全員のミッションです。我々の強みはスタッフの数だけグローバルのネットワークがあるということです。弊社では年に1、2回社内公募の機会を設けており、スタッフからは様々なアイデアが提案されます。新しいステージを目指すヒントも常に彼らから発信されています。

時代の流れ、文化によって変容するシズル感


大手
 清水さんが考える“シズル感”について伺います。
私のシズル感体験は、今から20年以上前にアメリカのフォトグラファーが撮ったハンバーガーの写真を見た時です。それは、見た目のきれいさに重点を置いたものではなく、パティのゴツゴツ感や溢れる肉の脂やソースの感じが、「旨そう!食べたい!」という本能に訴えかけるものでした。やはりその料理を食べて育った本場の人の表現には敵わないなと感じたことを思い出します。

これは御社が「現地で感じた魅力にアレンジを加えずにそのまま伝える」という点に通じるかもしれません。
清水さんが外食事業に関わり20年、シズル感の観点で変化は感じましたか?

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清水 プレゼンテーションの方法としては、20年前はカリフォルニアキュイジーヌの流れで皿の上に料理を積み上げるスタイルが流行っていました。10年程前からはよりアーティスティックで、皿に余白があるようなスタイルに変わっていったように思います。

最近のシズル感はまさにインスタ映えですよね。1枚の写真が持つ情報量が格段に増え、ブランドの世界観をトータルで伝えられるようになりました。料理のクオリティ、お店の雰囲気や想い、お客様のライフスタイルまで読み取ることができます。

大手 おっしゃる通りで、これだけ一般の方々が写真を撮る機会が増え、SNSが台頭するようになったので、それを意識する飲食店も増えましたよね。私は、一般の方々にももっと食のワクワク感や想いが伝わる写真を撮れるようになってもらいたいと考え、写真教室やセミナーも開催しております。

徹底した総合演出で再現された本国ならではの世界観

大手 清水さんは、各国ごとでシズル感の違いを感じることはありますか?
私が以前中国の食品メーカーの仕事でカップ麺の撮影をした際、先方の要望で商品にはない骨付きの肉を追加してスタイリングしました。食の安全がより厳密に問われるようになった現在の日本では、このように商品に含まれないものを使用することはほとんどなくなりました。

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清水 韓国で展開していた『カプリチョーザ』のメニュー写真でも似たようなことがありました。かなり誇張したものだったので、誇大広告にならないか心配でしたが、韓国ではあくまでイメージとして捉えられ、実際にお客様から苦情も出ないようです。 

大手 料理以外の部分ではどのようにシズル感を表現していますか?
我々フォトグラファーは視覚からの情報だけで、消費者がそのお店を選ぶきっかけを作ったり、お店の想いを伝えています。また、その目的に合わせて撮り分けをすることでシズル感を表現しています。

清水 どの店舗でも音響と照明には特に気を配っています。時間帯によって、またお客様の入店状況によって、その都度細かく調整します。それはお客様にお店の世界観に浸っていただくためです。
またホスピタリティ溢れるサービスも大切にしています。
例えば弊社の『ウルフギャング・ステーキハウス』は、高級な価格帯ではありますが、サービスは本国の雰囲気を忠実に再現するために、フレンドリーでカジュアルなものを目指しています。まさに肉がジュージューと焼けるシズル感に加えて、スタッフのサービスと雰囲気によって本場の世界観を徹底的に追求しています。

大手 店舗という空間をフル活用した、五感に訴える総合演出ですね!そのおかげで、お店を出る時にただ料理が美味しかったという感想に終わらず、「心地良かった」「また行きたい」と思えます。

オープンが待ち遠しい!
今年も続々とやって来る話題の海外ブランド

大手 近々新たにオープンするレストランの情報を教えてください。

清水 今年、3月29日(木)にオープンする東京ミッドタウン日比谷の1Fに新業態のガストロテックレストラン『Buvette(ブヴェット)』をオープンします。ここは、女性オーナーシェフのジョディ・ウィリアムズ氏により、ニューヨークに2011年にオープン、どこか懐かしくハートウォーミングで伝統的なメニューが楽しめる“街の小さな食堂”として絶大な人気を集めています。今回は2013年にオープンしたパリ店に続く3店舗目となりますが、本店のインスタグラムのフォロワー数は7万9千人で、どの写真からもオーナーの世界観が伝ってきます。

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大手 こういう写真を見ると、見た人も同じ写真を撮りたくなりますよね。

清水 同じく今春、「世界一安いミシュランレストラン」と称される、香港で人気の点心レストラン『添好運(Tim Ho Wan/ティム・ホー・ワン)』が、日本初上陸として日比谷シャンテ別館1Fにオープンします。本店のコンセプトをそのままに、すべて店舗厨房においてオリジナルレシピによって作られた点心をリーズナブルな価格で提供します。
各店舗のインスタグラムを見ますと、料理写真だけはなく、店先の行列の写真や、活気のあるお店の様子が投稿されています。

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大手 朝の忙しく仕込みに追われている様子や、年季の入った蒸篭から湯気が立ち上っている写真は、確実に人の心に伝わりますよね。

今年も多くの話題を集めそうですが、これからの夢を教えてください。

清水 我々はこれからもオリジナリティを尊重し、手直しはしないというスタイルで、国内外へ繁盛店を広めていきます。

新たな取り組みとしては、ケータリング分野にも本物の食文化を提供できるように仕掛けていきたいです。
参入先として注目しているのは、「葬儀でのおもてなし」です。
ホスピタリティが充実していて、故人が大好きだった食材にフォーカスした心温まるような料理が提供されたら、必ず参列者の心に残ります。そうすると、自分の家族、あるいは自分自身の葬儀の場でもこういうことがやりたいというイメージが湧いて、葬儀に対する考え方も変わり、自分らしく生前に予約する人も出てくると考えています。

もう一つは、「ヘルシー&ビューティー」です。食べると自分の身体や人生にまで良さそうと思えるような、ストーリー性のある料理を提供しているブランドと現在交渉中です。見た目にもカラフルでインスタ映えもします。今までのWDIのイメージとは少し異なる、新たな世界観をお届けしますので、楽しみにしていてください。

大手 我々が考える「伝わるシズル感」も、情報を発信する側と受け取り側によって様々に変化します。特に広告では、幅広く多くの方に伝わる手法をとっています。
今日のお話を伺い、あえてターゲットを狭めて深く伝える手法も必要なことを再認識いたしました。


文化に深く根差した食を異なる国で展開する際に必要なことは、作り手の想いであり、店側と訪れる人達によって作られる世界観です。本能に訴えかける食のワクワク感を伝えたいという気持ちに溢れた対談でした。

プロフィール:
清水 謙 Ken Shimizu
株式会社WDI 代表取締役。1968年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、さくら銀行(現・三井住友銀行)に入行。1998年5月、父親が創業した株式会社WDIに入社。2000年10月、常務取締役経営企画室長、兼営業本部長、兼事業開発部長に就き、2003年4月から代表取締役に就任。近年は、「エッグスンシングス」、「サラベス」、「ウルフギャング・ステーキハウス」など、アメリカの人気店を日本に紹介するほか、世界一安いミシュランレストランと称される「ティム・ホー・ワン」もニューヨークと日本に展開させる。自社開発のブランドを海外で展開する事業にも力を入れている。

大手 仁志 Hitoshi Ote
フォトグラファー、シズルディレクター、「食」の撮影を専門とするスタジオhue代表取締役。1965年栃木県生まれ、1985年株式会社アーバンパブリシティ(現・株式会社アマナ)に入社。その後30年間に渡り「食」に関する広告写真の撮影に携わる。食材や料理がもつ生命力を切り取り表現することが食のフォトグラファーの使命と考え、数多くの広告賞を受賞。最も好きな食べ物は餃子。

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株式会社ヒュー
株式会社ヒューは「食」を中心とした広告や商品パッケージの撮影から、レシピの開発・提案・クッキングの手配や出版物・WEB・デザイン・SNSを使ったコミュニケーションツールなど多彩にご提案が出来る「食の総合プロデュース会社」です。
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