【シズル対談】ワイン研究家 杉山明日香さんと語る「本物を知って楽しむこと、表現すること」

今回お話をうかがうのは、理論物理学博士で、ワイン研究家の杉山明日香さん。有名進学予備校の人気数学講師を務めながら、ワインスクール「ASUKA L'ecole du Vin」を主宰し、ソムリエ資格試験対策講座を開設されています。また、インポーターとしてワインの輸入・日本酒の輸出や、東京・西麻布ではワインバー&レストラン「ゴブリン」パリでは和食レストラン「ENYAA (エンヤー)」をプロデュースされるなど、活躍の場は日本に留まりません。今回は杉山さんセレクトのワインを楽しみながら、食の表現者としての杉山さんと、シズルディレクターで料理フォトグラファーのhue大手仁志が、“本物”について語りました。

言葉をつむいで豊かに表現されるワイン

大手 杉山さんはかなり異色の経歴をお持ちですね!

杉山さん(以下、敬称略) 元々理系のオタクだったのですが、同時に食オタクで、さらにアルコールが大好きで。学生時代は量子統計力学を学びながら、一人でお酒の研究をしていました。

…その前に、まずは乾杯しましょうか!

今回は二種類のワインをお持ちしました。

まずはシャンパーニュから。
こちらは、「Lepreux-Penet Grand Cru Cuvée Bulles d'étoîles(ルプルー・プネ グラン・クリュ ビュル・デトワール)」というシャンパーニュです。ルプルー・プネが生産者名で、グラン・クリュは特級という畑の格付けを表しているのですが、ビュル・デトワールは“星の泡”を意味するこのシャンパーニュの名前です。
シャンパーニュ地方の中でも北の方に位置する、ピノ・ノワールで有名な産地で、あえて造られたシャルドネを100%使ったワインです。
黒ブドウで有名な土壌で育てられることによって、リッチな味わいになります。

ワインを味わう前に、まずはよく見ることが重要です。ワインの色を見るだけでも、ある程度の情報は読み取れます。
大きな分類では赤・白・ロゼとありますが、同じ白の中でも南の方の暖かい産地で育ったブドウはよく熟すので、果実味があり、ワインの色合いは濃くなります。
反対に冷涼な気候で育ったブドウだと、日照量も少ないので皮の色も淡く、酸味が強くなり、ワイン全体の色合いも薄くなります。

次に音を聞いてみてください。

ワインの中でもスパークリングは、音まで楽しめるのがおもしろいところです。まだ若くて熟成が進んでいない泡は、「パチパチッ」弾けた音がします。このシャンパーニュは瓶の中で5年ぐらい熟成されたものなので、「シュワ~」というエレガントで、優しく、柔らかい音ですね。

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大手 ワインの音を聞くのは初めての経験です!

杉山 最後に香りを楽しんでから、味わってみましょう。
少しだけ熟成が進んでいるシャンパーニュなので、少し酵母やマッシュルームのような複雑な香りがして、味わいはシャルドネの酸味と果実味がきれいに溶け合って感じられます。

大手 美味しい!
何かもっといい表現があればいいんだけれど、とっさに出てこないものですね…。
ワインを表現する言葉はたくさんありますが、やはりフランス語がベースなのでしょうか?

杉山 そうですね。
長年のフランス生活で思うのは、フランス人は本当に議論とおしゃべりが大好きで、言葉の表現力が豊かな国民であるということです。さらに食に対するリスペクトがある文化が背景となって、これだけのワイン用語が生まれたのかなと思います。

大手 日本にはない香りで表現されるものもありますよね。

杉山 おっしゃる通りです。
反対に日本で造られたワインには、日本語でしか表現できない香りや味わいがあります。日本の土壌で育ったブドウの中には、“すだちの香り”と表現されるものもあります。
私は書籍やソムリエ講座の中で、ワインの色合いや香り、味を文字に起こすことも非常に多いので、表現方法や、言葉のつむぎ方については常に模索しています。

写真の中のワインが語ること

杉山 続いて、イタリアのエミリア・ロマーニャ州のスパークリングの赤ワイン「La Piana Lambrusco Grasparossa di Castelvetro Secco(ラ・ピアーナ ランブルスコ・グラスパロッサ・ディ・カステルヴェートロ セッコ)」を味わってみましょう!
こちらは中華料理や韓国料理にもよく合います。泡のおかげで香りが鼻から抜け、口の中もきゅっと閉まり、料理の油もさっぱりと流してくれるので、食が進むと思いますよ。

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大手 先程のシャンパーニュと比べると、「パチパチッ」という元気のいい泡の音がしますね。

杉山 色合いはしっかりしていていますが、香りはよく熟したカシスや野イチゴのようです。

大手 色については、我々フォトグラファーの用語では「液色(えきしょく)」と呼ばれています。
例えばビールメーカーがクライアントですと、その商品イメージに合うように、後ろから当てる光の加減によって液色を調整していきます。
ワインについては、主役である料理の世界観を演出するものとして撮影することが多かったです。
特に赤ワインについては、そのまま撮ると黒く映ってしまうので、ライティング以外にも様々なテクニックが必要になってきます。

杉山 そんな試行錯誤があったんですね!
ソムリエは、トーションという白い布を背景にして常に同じ状態でワインの色を見ることで、状態や味わいを判断しています。

大手 折角の機会なので、ワインのプロの方に見ていただきたい写真があります。
こちらは昨年イタリアでワイナリー巡りをした時に撮ったワインです。

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杉山 きれい!「飲んで」と言わんばかりの赤ワインの表情ですね!

私も知っているワインですが、まさにこのワインの持つ色合いがそのまま表現されていますし、表面の揺れからはシズル感が伝わりますね。
私たちも相当数のワイナリーを巡って記録写真を収めていますが、下手過ぎて…。

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▲イタリア・トスカーナにて photo:Hitoshi Ote

大手 僕はレストランに入ると、やはり料理が一番きれいに撮れる、光の状態がいい席を探してしまいます。この日もちょうど窓から夕陽が差し込んでいたので、液色も表現することができました。
ちなみに余談ですが、ワインのエチケットをスマホで撮る場合、スマホの上下を逆さまにすると、きれいに撮れますよ。

杉山 本当だ!勉強になります!

こだわりの表現の裏には経験あるのみ

大手 僕はワインは詳しくないけれど、この時はワイナリーを巡り、その場の雰囲気や空気感、さらにはその街を行き交う人たちの表情や交わした会話まで、自分が見て聞いて感じたことの全てを一枚の写真の中に表現できたかなと思います。
現地に行ってその土地のワインを飲んだという経験があると、ワインの撮り方も変わってきます。
我々フォトグラファーは表現者として、こういう経験を増やしていくことがとても大切です。
今日の飲み比べや、杉山さんからお話をうかがいながらのテイスティングも経験ですね。
とても楽しいです!

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▲イタリア・トスカーナにて photo:Hitoshi Ote

杉山 そう言っていただけると嬉しいです!
ワインも食材も、知らないものを食べる楽しみと、知ってから味わう喜びがあると思います。
例えば、お寿司屋さんに行って、「今日のマグロは大間産の極上のネタですよ」と聞いてから味わうと、より美味しいじゃないですか。
これはワインについても同じです。
ワインは一見難しそうに感じられますが、体系的に少しずつ学んでいくと、楽しみ方も全く変わってきます。

大手 経験と知識、そして本物を知ることの⼤切さですよね。
⾳や⾹りなど⽬には⾒えない特性や、⽂化的な背景まで⾃分なりに理解すると、撮り⽅も変わってきます。
そのことを学んだのは、僕が若い頃に経験した⾚⾙を被写体に作品を撮影した時の事です。築地市場で新鮮な食材を購入し撮影することで、⾃分としては満⾜のいく写真が撮れたつもりでした。しばらく経って地方の漁業関係の方にその写真を見てもらった時に、「なんだ、この死んだ貝は!?」と言われ、すごくショックだったことを覚えています。その方から魚介類に限らず、その土地の様々なお話をうかがっていくうちに、見栄えだけきれいに撮るのと、理解してから撮るのでは、全く異なる写真になるということに気付かされました。

杉山 本物を知ることの大切さについては、同感です。
私もスタッフも毎月異なるワインの産地に足を運びますし、様々なレストランに行って料理を味わうようにしています。
経験すればするほど表現方法は変わっていきますし、伝えたいという気持ちも強くなっていきます。
さらに、相手にどこが伝わりにくいかということも見えてきます。

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▲杉山さん主宰のワインスクール「ASUKA L'ecole du Vin」

大手 食のフォトグラファーも表現するためには、料理の味や背景まで知っている必要がありますし、ものづくりのストーリーを含めた商品に対する深い理解が求められます。
表現者には、こうした経験に基づいた、徹底したこだわりが大切なポイントですよね。

Info:
今年も大幅改訂された、『受験のプロに教わる ソムリエ試験対策講座 ワイン地図帳付き〈2018年度版〉』(リトルモア)が好評発売中!

6月上旬には、『ワインの授業 イタリア編』(リトルモア)が発売予定です。


プロフィール:

杉山 明日香 Asuka Sugiyama
ワイン研究家、理論物理学博士、ソムリエール。
有名進学予備校の数学講師のかたわら、ワインスクール「Asuka L’école du Vin」にてソムリエ試験対策講座を主宰。また、インポーターとしてシャンパーニュ・ワインの輸入、日本酒の輸出を行うほか、ワインバー&レストラン「西麻布GOBLIN」仏・パリの日本食レストラン「ENYAA」のプロデュースなど、ワイン・日本酒関連の仕事を精力的に行っている。
著書に、『受験のプロに教わる ソムリエ試験対策講座』、『ワインがおいしいフレンチごはん』(リトルモア)、『ワインの授業 フランス編』、『おいしいワインの選び方』(イースト・プレス)など。


大手 仁志 Hitoshi Ote
フォトグラファー、シズルディレクター、「食」の撮影を専門とするスタジオhue代表取締役。
1965年栃木県生まれ、1985年株式会社アーバンパブリシティ(現・株式会社アマナ)に入社。その後30年間に渡り「食」に関する広告写真の撮影に携わる。食材や料理がもつ生命力を切り取り表現することが食のフォトグラファーの使命と考え、数多くの広告賞を受賞。最も好きな食べ物は餃子。

著者プロフィール

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株式会社ヒュー
株式会社ヒューは「食」を中心とした広告や商品パッケージの撮影から、レシピの開発・提案・クッキングの手配や出版物・WEB・デザイン・SNSを使ったコミュニケーションツールなど多彩にご提案が出来る「食の総合プロデュース会社」です。
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