『富士酢』の飯尾醸造の真面目なお酢づくり【日本の食の生産者訪問記】京丹後・前編

日本の食の生産者を訪ねる旅。第一回目は京丹後です。

京都市内から北部へ電車に揺られること2時間、神社仏閣が立ち並ぶ古都京都のイメージからは一変、海の香りがする風が吹く、丹後の静かな街並みが広がります。
「海の京都」とも呼ばれる丹後には、日本三景の一つである天橋立や、伊根湾に沿って船の収納庫を備えた伝統的建造物に立ち並ぶ伊根の舟屋があり、海外からの観光客も増えています。
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豊かな海と山に囲まれた丹後は、食の宝庫!
肉厚な牡蠣やとり貝、身厚な鯵に鯛に鰈、冬場の蟹も絶品です。
また、昼夜の気温差が激しく水がきれいな丹後は、稲作にも適した場所。「丹後コシヒカリ」といったブランド米でも有名です。
米どころは、酒どころ。女性杜氏の向井酒造や、スイーツにも力を入れているハクレイ酒造など、歴史ある酒造が多いのも特徴です。

ご飯にお酒、その他にお米のおいしさがそのままあらわれるもの、それはお酢です。
丹後の宮津市に、食通の間で注目を集める『富士酢』の醸造元、飯尾醸造があります。
前編では4代目飯尾毅さんに飯尾醸造の歴史とこだわり、後編では5代目飯尾彰浩さんに新しい取り組みについて、シズルディレクターでフォトグラファーのhue大手仁志がうかがいました。

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棚田で無農薬米づくりから手がけるお酢屋さん

飯尾醸造では、お酢が、どんな場所で、どんな原材料を使って、どんな製法で、どんな人々によってつくられているのか、お客様が知った上で使ってほしいという想いから、蔵見学を受け入れています。

今回は、4代目の飯尾毅さんに酢蔵をご案内いただきました。

飯尾毅さん(以下敬称略):
飯尾醸造は、明治26年に創業致しました。
お酢の原料となるのは、地元の棚田でつくる無農薬米です。
無農薬のお米からお酢をつくることを決めたのは、私の父である3代目輝之助です。
昭和29年頃、日本では非常に毒性の強い農薬が使われるようになりました。
農薬を散布した後、一週間は絶対に田んぼには近づいてはいけないと言われた程です。
年を経るごとに、鮒やドジョウもいなくなっていきました。
私の父は、身体への悪影響を懸念し、山の中に棚田を持っている農家10軒を説得して、昭和39年からこの一帯で農薬を使わないお米づくりを始めました。
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しかし高齢化や過疎化が原因で、平成15年には残っていた8軒の農家が一斉にやめてしまうことになりました。
そうなると雑草が生えて、あっという間に元の原野に戻ってしまいます。
なんとか美しい棚田の景色を残したいという想いから、飯尾醸造自ら田んぼを借りてお米をつくり始めました。
無農薬ということは、うちでも契約農家でも同じです。

農薬を使わないために、私共では特殊な紙を敷くことで雑草を抑制しています。
これは昭和50年代に鳥取大学の津野幸人氏によって開発された農法です。
この紙を敷いて、穴を開け、稲苗を植える、という田植えを行っています。

こうした手間のかかるお米づくりができるのは、多くの富士酢ファンの方々のご協力があってのこと。
圃場整備された田んぼを持っている契約農家では、紙を敷きながら田植えができる特別な機械を使っていますが、こうした機械も紙も全てうちから無償提供させていただいております。

曲がりくねった田んぼには機械を入れることができないので、全て手作業となります。
そこで田植えと稲刈りの時期には、うちのお酢を使ってくださっているお客さんに向けて体験会を行い、毎年200人を越す方たちにお手伝いに来ていただいています。
これは息子である5代目彰浩のアイデアです。
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極上の新米の旨味がギュッと凝縮された純米酢

飯尾:
JAS規格では、1ℓの米酢をつくるのに、40g以上のお米が必要で、醸造アルコールを使わない、純粋な米酢を1ℓつくるためには、120gの米が必要です。
私共の『純米富士酢』は200g、『富士酢プレミアム』は320gのお米を使っています。
お米は、ご飯として食べても美味しい、新米のみ使用しています。
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昭和58年からは、近所の廃業した酒蔵を買って、精米から麹、酒づくりまで自前でやっています。
米を蒸し、それを40℃ぐらいまで冷まし、種麹菌を米にふりかけて約45時間かけて麹を作ります。
お酒づくりの中で一番大事なのは、良い麹をつくることですが、お酢屋で全ての工程を自社でやっているところはほとんどありません。

こうしてつくられたお酒は、酢酸菌と酸素の働きによってお酢に変わります。
その時に発する熱で、タンクの表面は一年中38~40℃、その温度を保ち、酸素を取り込むため、隙間を開けて蓋をした上にむしろを被せています。
タンクの下部は、夏は33~34℃、冬は7~8℃です。
上部と下部の温度差によって対流が起き、平均すると3か月半(105日)かけて発酵が終了します。
これが日本の伝統的なお酢のつくり方で、「静置発酵法」と呼ばれるものです。

見て、聞いて、味わって、すっかりファンに!

気になるタンクの中を見せてもらいました。
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はしごを登ってのぞいてみると、まるでちょうど良い湯加減のお風呂のような湯気が立ち込めています。
発酵開始3週間程のタンクには、お酢のきつい匂いではなく、ほわっとした温かい発酵の香りが漂います。
発酵の担当者は1、2週間に1回蓋を開けて、温度と発酵具合をチェックし、蓋の空き加減を調整するそう。まさに熟練の手仕事です。

飯尾醸造では、米酢以外にも様々なものからお酢をつくっています。
その一つが『紅芋酢』です。
米酢と同じく、使用されている紅芋の量はなんとJAS規格の約5.5倍!
アントシアニンを豊富に含んでいるのが特徴です。
その他りんごでもイチジクでも、醸造用アルコールを使わずに、それぞれのお酒をつくってからお酢をつくっています。

商品の試飲をさせてもらいました。
その数約15種類!
純米酢も調味酢も、全国から厳選された、可能な限り無農薬の原材料からつくられた逸品。
和食だけではなく、様々な料理に深みを与える味わいを持っています。
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中でも衝撃を受けたのは、『富士酢プレミアム』。消費者の中には、こだわりの製法と惜しみない量のお米からつくられた『純米富士酢』の豊潤な香りに馴染めない人もいるそう。このことに悩んでいた4代目毅さんの意思を継いだ、5代目彰浩さんによってつくられたのがこのお酢です。旨味と甘味のバランスが絶妙なこのお酢は、親子2代の夢を叶えた最高傑作と言えるでしょう。

脈々と受け継がれていく先代の想いと、地元への感謝の気持ち

飯尾:
うちは少しでも農家さんに「飯尾醸造があって良かったな」と思ってもらいたいんです。
なぜならうちがこうやって生き残ってこられたのは、農薬全盛期に農薬を使わずにお米をつくってくださった農家さんのおかげだからです。
規模を拡大すると、必ずどこかに無理が生じます。
原材料が足りなくて、無農薬でないものを使ったり、熟成期間を短くしたり、そう簡単に分かるものではないけれど、それをやりだしたら終わりです。
これからも決めたことはきちんと守って、本当に必要としてくださる方に良いものを提供し続けていければと思います。
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こうして脈々と継がれてきた強い想いは、息子の5代目の彰浩さんへと引き継がれています。
後編では5代目の想いと、新しい取り組みについてご紹介します。

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