真面目なお酢屋のユニークな取り組み【日本の食の生産者訪問記】京丹後・後編

前編では、飯尾醸造4代目の飯尾毅さんの案内のもと酢蔵を見学し、丹後の棚田の景観と伝統製法を守り続ける、こだわりのお酢づくりについて教えていただきました。

後編では、5代目の彰浩さんに、真面目なお酢屋のユニークな取り組みについて、シズルディレクターでフォトグラファーのhue大手仁志がお話をうかがいました。

お酢屋の田んぼで、田植え・稲刈り×ファッションショー?!

大手 お父さんからは、飯尾醸造のこだわりのお酢づくりについて教えてもらいました。
5代目として家業を継ぐことに対して、疑問はなかったのでしょうか?

飯尾彰浩さん(以下敬称略) 高校1年生の三者面談の時、父は担任の先生に「うちの息子には、東京農業大学の醸造学科の柳田藤治氏の研究室で、お酢の香りについて研究させたい」と明言していました。
こういう具体的なミッションがあったので、僕にとって家業を継ぐことは自然の流れでした。
東京農業大学・大学院、そして東京でのサラリーマン生活を経て実家に戻り、『富士酢プレミアム』を開発しました。
現在でも『しゃぶしゃぶに夢中』『餃子(チャオ酢)』など、2年に1回のペースで新商品を発表しています。
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大手
 新商品のネーミングもおもしろい!
その他に5代目としての新しい取り組みは?

飯尾 うちのお酢を使ってくれているお客さんに向けた、田植えと稲刈りの体験会です。
きっかけは、自分が東京での生活を終え、入社して初めて田んぼの作業をした時のこと。
米づくりの担当者にとっては当たり前の日常で、誰からも褒められない孤独な作業を、僕はめちゃくちゃ楽しいと思ったんです!
この日常と非日常のギャップを利用すれば、都会の人にとってはアクティビティとなり、蔵人にとっては作業負担が減るのではないかと。
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大手
 商品に自分が関わったお米が使われるなんて、ますますファンになりますね!
でも普段作業をしていない人に手伝ってもらうためには、準備も大変そう。

飯尾 体験会を始めた当初は大変でした。
参加者一人一人の長靴のサイズを聞いたり、地元の方に手作りのお弁当を用意してもらったり、休憩の場所やタイミング、夜の懇親会まで考えて……。

でも体験会では、普段は孤独な作業をしている蔵人がスターになれます!
毎年来てくれる人に子供が生まれて連れてきてくれたり、年賀状のやり取りがあったりと、お客さんと蔵人が直接コミュニケーションを取ることができ、良い関係性が築けています。

さらにこの体験会を楽しんでもらうために、毎回ファッションショーを行い、“田植リエや“稲刈リーゼという称号を与えて、未発売の新商品をプレゼントしています。
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▲5代目のファッションもお楽しみに!

日本の伝統食品の担い手たちのユニット「HANDRED」

大手 代々家業を継がれている方の中でも、飯尾さんの世代は新しい動きをされている方が多いですね。

飯尾 僕は5年前から、日本の伝統食品の若い担い手6人で結成されたユニット「HANDRED」として活動しています。
物産展など数々のイベントを行い、国内外へ日本の食文化を発信してきました。
中には300年以上続く老舗もありますし、お互いの現場を見に行くことも刺激になります。
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お互いの製造現場に足を運び、気づいたことを共有することによって、強みや弱みが明らかになります。
うちの蔵人が3日間、麹造りを勉強させてもらったこともあります。結果的にお互いの品質向上にもつながりますね。

手巻き寿司の伝道師「手巻キング」、日本と世界を飛び回る

飯尾 僕は手巻キングとして、「手巻き寿司パーティー(テマパ)」を提唱しています。
国内外あわせて70回、延べ3000名以上の方にご参加いただきました。

大手 具体的にはどんなイベントが行われるのでしょう?

飯尾 具材は事前にお渡しするマニュアルに沿って、料理屋さんや料理研究家の方に用意してもらいます。
レシピはもう数百種類になります。
どこかの国の料理など、テーマを絞ることで面白い組み合わせができるんですよ。
例えば春に城崎で開催した時には、“但馬の春”→“タージマハル”ということで、但馬の春の食材と、インド系のスパイス料理をテーマにして、城崎の何軒かの料理屋さんに料理を持ち寄ってもらいました。

僕はその場に、うちでつくっているお米、『富士手巻きすし酢』、100年以上使っている飯台、福岡県柳川市にある成清海苔店の一番摘みの海苔、炊飯器を持ち込み、パーティーではシャリ切りを見せて、海苔の扱い方や食べ方を教えています。

テマパは、まずはゴールを決めることがスタートです。
AさんにBさんを紹介するのか、Cという会社をM&Aで吸収したいからそこの社長と仲良くなりたいのか、もしくは国交を正常化したいのか。
ゴールから逆算して、メニューや設えを考えていきます。

大手 手巻き寿司がコミュニケーションツールになっているんですね!
これは色々なシーンで使えそう。

飯尾 僕は以前より鮨職人の方から酢飯の相談を受けていたのですが、テマパの数を重ねていくことで、さらに酢飯の知見が蓄積されていきました。
そこで「江戸前シャリ研究所」を立ち上げ、今秋10月2日に宮津で『世界シャリサミット2018』を開催することになりました。
鮨のおいしさを底上げすることを目的に、全国の鮨職人と一緒に理想のシャリについて考えます。

2025年に丹後を日本のサンセバスチャンに

大手 これからの夢は何でしょう?

飯尾 飯尾醸造が丹後の食のハブとなることによって、地元のすばらしい生産者のみなさんを都会や他の地域の方に知っていただくことです。
そのために現在、丹後の食のツーリズムについて模索しています。

その先は、「2025年に丹後を日本のサンセバスチャンにする」という計画です。
本場のサンセバスチャンのように、海も山もあって、おいしいものを提供するには適した場所である丹後を、美食を求めて人が集まる街にします。
その施策の一つとして、イタリアンレストラン『aceto(アチェート)』をオープンしました。
今後は鮨屋や、京都産の原材料にこだわったブルワリーもオープンさせ、そこで人が育っていくような店が増えていけばいいなと思います。
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▲『aceto』では、築120年の古民家の歴史×シチリアで修業したシェフの料理×地元の食材が、飯尾醸造の酸味の効いたスピリットによって見事に融合されています

既に丹後には、最高の美食体験ができる『魚菜料理店 縄屋』があります。
また、僕の同級生で、実家が地元最古の卸し業の5代目谷口嘉一君が始めた『カネマスの七輪焼き』では、新鮮な海の幸をさらにおいしく味わえる一刻干しがおすすめです。
うちのお酢を使ったメニューも多い『こんぴらうどん』、山の中のこだわりのパン屋『農家パン 弥栄窯』、有機無農薬の野菜づくりをしている農家さんのコミュニティカフェ『キコリ谷テラス』など、おすすめはまだまだあります。
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▲『縄屋 魚菜料理』の凛とした空間で供される料理は、一品一品に丁寧な仕事が感じられ、丹後を五感で味わうことができます

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▲『カネマスの七輪焼き』の一刻干しは、旬のとれたての魚をすぐに捌き、薄塩出汁にさっと浸して短時間干した、ジューシーでフレッシュな干物

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▲『こんぴらうどん』の鳥天には、あん、衣、そしてうどんにも富士酢が使われています

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▲『キコリ谷テラス』では、野菜の他にもこだわりの原材料でつくられたスイーツも販売

大手 景色や風景は、旅の目的にはなりづらくなってきていますよね。
地方の活性化のためには、リピートしてくれるコアなファンを作り、インフルエンサーとして惹きつけてもらうことが重要です。
そのためには食は欠かせませんし、それが何店舗もあることで街全体への波及効果も生まれます。

飯尾 計画の達成の指標は、多くの人が訪れて街全体の観光収入が増えることですが、極論は自分の出張がゼロになるということです。
自分が外に出ていくのではなく、自分に会いたい人が都会から来てくれて、満足してもらえるような街になれば幸せですね。
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地域の人に支えられて、伝統の食文化を守り続けてきた飯尾醸造。今、丹後の活性化というかたちで先代の恩返しをしています。

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株式会社ヒュー
株式会社ヒューは「食」を中心とした広告や商品パッケージの撮影から、レシピの開発・提案・クッキングの手配や出版物・WEB・デザイン・SNSを使ったコミュニケーションツールなど多彩にご提案が出来る「食の総合プロデュース会社」です。
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