映画『ル ショコラ ドゥ アッシュ』公開記念 対談:辻口博啓×石川寛 「ボクらが互いを驚かせ続けるワケ」

パリで毎年開催されるチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」。その品評会に出す新作を生み出すため、自身の原体験、地元・能登の自然、そして日本の発酵文化の深淵にまで迫る――。

 日本を代表するショコラティエ・辻口博啓さんのドキュメンタリー映画『ル ショコラ ドゥ アッシュ』が、公開となりました。

 辻口さんのショコラづくりの真髄が垣間見える同作。実はショコラや食材シーンなどの「シズル・パート」をhueのフォトグラファー・石川寛が撮影しています。

 「サロン・デュ・ショコラ」に出品するショコラのイメージ写真制作をを含めて、もう5年に渡ってコラボレーションを続ける2人。映画でもコラボに至った経緯と、互いの創作活動に抱くイメージ、そしてこれから、について伺いました。

石川さん以外、考えられなかった


――映画完成、おめでとうございます。日本での公開に先駆け、パリで先行上映されたそうですね。

辻口さん(以下敬称略)はい。編集したショートバージョンでしたが、いい反応をいただきました。ショコラづくりだけじゃなく、豊作を願って見えない神様を家に迎えて風呂までいれる能登の風習「あえのこと」のシーンなどは、とくにおもしろく映ったみたいです。あと上映後はスタンディングオベーションにもなって。あれは、ぐっと来ますね。

――本作は、また辻口さんが厨房でショコラを作る模様や、ショコラや食材のイメージシーンなどもふんだんに入っていました。このシズルパートの撮影を担当したのが、hueの石川寛さんでした。

辻口 そう。石川さんには絶対にこの映画に参加して欲しいと思ったんですよ。もう5年前から、僕のショコラのビジュアルを撮ってもらっていますから。映画になっても石川さん以外、考えられなかった。

石川 うれしいですね。いや、僕も辻口さんとの仕事は、最高に好きだから。「こう撮れ、ああしろ」なんて細かい指示が一切ない。そのかわり、撮る前に「このショコラはどんな食材を使って、どんな思いで作って…」というストーリーを教えてくれる。そこから自由にイメージを膨らませて、クリエイションできますからね。世の中に、こんなに自由に撮らせてくれる人、いないですから。

――今回の映画でも、辻口さんは石川さんに指示や要望をしなかったんですか?

辻口 まったく。石川さんの感性を信じているから、変に縮こまった画なんて作ってほしくない。その変わり、これまでも完成する直前のチョコレートは必ず試食してもらい、僕がどんな考えでそれを作ったか、はしっかりと伝えていますよ。このショコラのカカオを選んだか。そのカカオを作ったのはどんな農園か。あるいは、マリアージュさせる食材をなぜ選び、その食材にはどんなストーリーがあるか…といった感じに事細かに。

――味も思いも伝えたうえで、ビジュアルの表現は石川さんに委ねると。

辻口 うん。一度は一緒にエクアドルのカカオ農園まで行ったもんね。

石川 行きましたね(笑)。なかなかカカオ農園なんてみれないし、そもそも、エクアドルなんていけないから貴重だったし、やりたいことの伝わり方が、立体的になりますよね。

辻口 感覚としては「バトンを渡す」感じですね。

石川 そう。渡されるほうはね、もちろん、そのチョコの味や香りや解説も考えながら、それをどう表現するかって考えますよ。ただ、辻口さんは並のショコラティエじゃないから。アーティストだからさ。「ただのチョコじゃねえんだぞ!」ってつもりで画をつくっている。バトンを返している。そんな感覚は、ありますね。 

_W4A3210_のコピー.jpg

_W4A2179_のコピー.jpg

▲辻口氏とエクアドルのカカオ農園を訪れた時の写真 撮影:石川寛

チョコでつくった胸像を爆破した理由

 HH1.jpg

▲2018年「サロン・デュ・ショコラ」に出展したビジュアル。コンセプトは「陰翳礼讃」。 左:「礼」 右:「讃」

――映画では2018年の「サロン・デュ・ショコラ」で金賞を獲得したボンボンショコラができるまでを追っています。そのショコラのテーマが、谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃』でしたね。

辻口 ええ。僕は23歳のとき、全国洋菓子技術コンクールで最年少で優勝したんですね。優勝賞品ではじめてフランス旅行をしたときにフランス文化にかぶれて帰ってきた。しかし、映画にも登場する恩師である元担任の先生に、当時、「日本の文化を知らないで他国の文化は理解できない」と喝破された。そのときに渡されたのが谷崎が、日本建築などを元に陰翳の美について記した『陰翳礼讃』だったんです。

――なるほど。恩師の方から。

辻口 実は、当時はすぐにピンときたわけではなかったのですけどね(笑)。ただ、自分の店をつくり、海外でショコラなどをつくると自らの日本人としてのルーツに立ち戻らざるを得なくなる。陰翳礼讃の世界観は、そんなルーツの一つとして、いつかカタチにしたいとあたためてきたものだったんですよ。

――そして今回、味噌やみりんといった日本の伝統的な食材を使った、厳かで静かだけれど奥深くきらびやかさを奥に秘めたチョコを作られた。

辻口 そうですね。日本が誇る発酵文化と、西洋の発酵文化であるショコラをかけあわせたわけです。

――石川さんの映像も、またスチールによるビジュアルも、まさに旧い日本家屋の中のような、厳かな陰翳が印象的でした。もともと石川さんも「陰翳礼讃」は作品づくりをするうえで、着想のヒントになっている一冊だったんですよね。

石川 うん。すでに和菓子作家の方と組んで作品づくりをした景観がありました。だから、辻口さんがいつもの試食のとき、コンセプトに『陰翳礼讃』を持ってきたときは驚きましたよね。まあ、同時に「だよねー」という共感もあったけど。

辻口 いや、実は最初は、僕のほうこそ驚いていたんですよ。石川さんが和菓子の作品で『陰翳礼讃』を引用していて、「なるほど。陰翳礼讃を画で表すのか」と。やはり感性というか、着眼点は似ているんでしょうね。

H_01.jpg

H_03.jpg

▲映画「ル ショコラ ドゥ アッシュ」のシーンより

――驚いたといえば、映画の途中で、チョコレートでできた胸像の頭が爆発して、中から粉末が飛び出てくる映像があったじゃないですか。

辻口 あれね。さすがに驚いたよね(笑)。

石川 うん。あれはね、やりたかったんですよ。既存の石膏像の型をとってつくったんだけど、本当は辻口さんの顔でつくりたかったんだよね。辻口さんの頭が爆発するように撮りたかった。

――過激な表現ですね。

石川 いや。先に言ったように「並のショコラティエじゃない」というところを表したいと思っているから。辻口さんのアーティストとしての頭の中をビジュアルで伝えたい思いがある。そう考えると、頭の中から本当に爆発するようにアイデアが出てくる、そんな様を伝えたいと思ったんですよ。あとはやはり試食するたびに、本当にその着想に驚かされる。めちゃくちゃ美味しいしね。それを、先程バトンと言ったけど、そのバトンを返すなら、こちらからも「驚きを返す」ように渡したい。スチールでも動画でも、辻口さんとの作品には、いつもそんな思いがあるね。「俺のほうはどうだ?」「どうだこのやろう!」みたいな(笑)。

辻口 だから、この関係がもう5年も続けているんでしょうね。驚きがずっとある。

――今回は映画でしたが、今後また二人で新たな挑戦をするビジョンはありますか?

辻口 二人で個展のようなものができたらいいなと思いますね。石川さんの作品世界の中で、僕のチョコレートが食べられるような。

石川 辻口さんの世界を空間づくりからできたらおもしろいでしょうね。あと僕は個人的にパリに住みたいと思っているので、パリで一緒に何かやってみたいですね。辻口さんも近い将来、パリにお店出すだろうから。

辻口 いいね。いずれにしても、驚かせ合いは、続けましょう。

640_09V0716_1.jpg

公式ホームページ
https://chocolat-movie.com/ 
2019年1月18日(金)
石川県のイオンシネマ4館にて先行公開、
1月25日(金)より
全国のイオンシネマ6館でロードショー!

お問い合わせ

関連記事