「即興で奏でる音楽のように、人と人のセッションで作りあげるクリエイティブ」  Photographer細見恵里

「即興で奏でる音楽のように、人と人のセッションで作りあげるクリエイティブ」  Photographer細見恵里

「hue」という私たちの社名は、「色調」という意味があります。
そこにはスタッフ一人ひとりの個性を色にとらえて、
色彩ゆたかなチームにしたいという思いが込められています。

5名のフォトグラファーからスタートした食の専門スタジオヒュー
創業16年目を迎える今、フォトグラファーの色は15色に増え、
ますます多様な表現ができるようになりました。

この記事では、一人のフォトグラファーがどのようにして
“自分の色”を見出してきたのか、影響をうけたものや、
撮影でのエピソードなどを軸にあらためて振り返ってもらいました。

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鮮烈な印象、滴り落ちるチョコレートのシズル感が官能的な作品。世界中のフォトグラファーが食をテーマにした作品をエントリーし、毎年ロンドンで盛大な授賞式が開催される『Pinklady Food Photographer』において見事入賞を果たした『Eclair』です。撮影したのはフォトグラファー細見恵里。ヴィジュアルクリエイター結城香織とのクリエイティブユニット『MAISON ONIGIRI』としての作品です。食×ファッションというテーマを掲げ、年に一度のペースで展示を開催するなど、精力的に活動の幅を広げてきた細見。今回の記事では、音楽をセッションするように作り上げるというクリエイティブや、現在インスタグラムに公開中の撮りおろし作品『uroko』に込められた思いについてお話をお届けします。

フォトグラファー細見恵里

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細見:入社した時は自分の名前で撮影の仕事ができるなんて想像もしていなかったのが正直なところです。広告撮影の“日本代表”のようなクリエイターがいるアマナで、クリエイターとして掲載されている自分の名前を見ると、ふと入社した時の気持ちを思い出します。

大学卒業後、アシスタントをしていた下積み時代は本当に辛くて、20代で何者にもなれていない自分を、同級生たちと比べて焦ったりしていました。でも昔から職人さんのように一つのことを突き詰めて成し遂げることに憧れがあり、ラーメンの汁が飛んだ服で通勤しながら、「このままだと自分が中途半端になってしまう」という意地みたいな気持ちを駆り立てて、フォトグラファーの昇格試験に挑んでいました。

「食×ファッション」というテーマを自分の持ち味にしたいと考えていたのはその頃からです。影響を受けたのはギイ・ブルダンの世界観。学生時代に大阪で展示があり、とりつかれた様に何度も何度も足を運びました。ギミックが効いているのに広告の要素もしっかりある。写されているものの魅力がビビッと伝わってくる。自分もそんな風に表現してみたいと思い、作品撮影を繰り返してきました。

フォトグラファーへ昇格できたのが29歳の時。やっと何者かになれたような気がしました。
念願だったアマナのホームページに掲載された時は、嬉しかったのと同時に代表メンバーに素人が混ざってしまったような、心細い気持ちになったこともよく覚えています。

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「ファッションだけど美味しそう」を自分の色に


フォトグラファーになってすぐは気持ちを込めて撮影した案件でも、次の撮影でスケジュールが合わないと、他のフォトグラファーで決まることがありました。その逆もあります。「ヒューのクオリティだったらどなたでも」ではなく、どうしたら「細見で撮影したい」と言ってもらえるか、試行錯誤する日々でした。転機になったのは雑誌マリクレールでの撮影です。
私がアシスタントの頃から「食×ファッション」というテーマを応援してくれたhueのプロデューサー平越寧子さんが、まだ実績もない駆け出しの私に大きなチャンスを与えてくれました。「絶対にいいビジュアルで応えたい」という強い気持ちでディレクションからさせていただき、「ファッションだけど美味しそう」という細見恵里のトーンで撮れた。こういう撮影をもっと増やしていきたいと、競合があればひたすらプレゼンシートに入れました。それで少しづつ思っていたような撮影が年に数回、それが月に1本、週に1本、と手ごたえを感じられるように。
最近では「いつか細見さんに撮影お願したいと思っていたんです」と声をかけてくださる方もいて、そんな言葉を聞くと涙がでそうになります。

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▲撮影・細見恵里、AD&CG・丸岡和世
自分とADの丸岡和世さん、アマナプロデューサーの後藤由香里さんとでアイデアを出し合い、ディレクションから参加させてもらったビジュアルです。「いつかロクシタンの撮影がしたい」と後藤さんに相談していたことが実を結び、達成感のある撮影ができました。

即興でしか生み出されないもの

フリースタイルラップが好きなんです。その場の瞬間や、即興でしか生み出されないもの、人と人との掛け合いで生まれるもの。撮影も同じで、自分だけで考えるとその枠を超えませんが、誰かと一緒だとジャンプして越えられる。フードさんやスタイリストさん、撮影のアシスタントも一緒になってアイデアを引き出し合いながら、音楽をセッションする感覚で撮影を進めるようにしています。
例えば初めて商品を見るときの気持ちや、一緒に仕事する人がどんな風に考えているかを大切にしたい。自分の考えを10割出して指示するより、少し余白を残してまわりの意見を出しやすいようにしています。そうやって誰かと作ることで想像を超える奇跡みたいな時がある、それがモノを作っていて一番好きな瞬間です。

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スタジオには“コミュニケーション”のきっかけを散りばめて


音楽と言えば、スタジオで流すBGMにはこだわりがあるんです。音楽は共通言語だと思っていて、来てくださる方が気に入りそうなものを考えて流しています。そうすると撮影中に「この音楽好き!」と会話が盛り上がることも。他にも餃子のオブジェを置いて「これはなんですか?」と聞いてもらえるようにしたり。我ながら姑息な手だとは思うんですが(笑)。そうやって会話のきっかけをスタジオに散りばめながら、撮影するメンバーがどんな考えをもっているのか知りたくてコミュニケーションを大事にしています。

でも、そんな風に撮影を進めていたら、お客さまも周りのクリエイターの皆さんも本当にクリエイティブへの純度が高い、損得なしで「いいものを作ろう!」というピュアな気持ちの人ばかりに恵まれるようになりました。

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▲「アシスタントフォトグラファーにも、打合せから一緒に参加してもらって一緒にクリエイティブのアイデアを考えます。その方が絶対に楽しいと思うから。みんな、自分とは違ったバックボーンを持っていて刺激をもらえるメンバーです」

コロナ禍で、一拍置いて考えたこと

今まではとにかくがむしゃらに、来た仕事は全力で挑んできました。でもコロナの影響もあって一拍時間を置いて、改めて自分がやりたいことは何かを考えたんです。例えば昨年の国際ガールズデーのキービジュアルは、まさにやりたいかったことの一つ。自分たちが作ったビジュアルが、世界のどこかで困っている女の子を照らすきっかけになるかも知れない。自分が好きで続けてきた撮影がまわりまわって、誰かの役にたてたらいいなと考えるようになりました。
今、インスタに掲載している作品『uroko』は、これを機会に撮り下ろした作品シリーズです。日本の伝統模様である“鱗”は蛇が脱皮して再生することを連想することから、昔から厄落としの意味があるとされてきました。

私は小さい頃に神戸で被災した経験があります。震災など未曽有の事態になった時、自分の力だけではどうにもならない。ある意味「生きていることは運なんだ」と感じるようになりました。今は世界中がコロナウィルスの影響を受けていますが、昔の人はこういった疫病や災害に対しても、鱗模様の着物などを身につけて気持ちを穏やかにしてきた。そんな風に想像すると、今自分がこのシリーズを作ることでファッションを通して「私なりの感染予防策」を発信して、それが誰かの気持ちに届いてくれたらと思います。


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▲現在ヒューの公式インスタグラムにて掲載中の『uroko』。
食×鱗模様のビジュアルは奇抜ながらもグッズにして身につけてみたいと思わせる不思議な魅力があります。


お手本にしているのは、父と母の姿


「誰かの役に立てたら」と思うのは、母の姿を見てきたからかも知れません。保育士だった母は福祉の心に溢れていて、道を歩いていて困っている人がいたらさっと駆け寄ってあげられる。よく「ほほえみ返し」という言葉を使っていて、自分がにこりと笑えば相手も笑ってくれるよ、と。そんな風に私もやさしい大人になりたいです。
そして同時に、常に自分をアップデートし続ける大人でもありたいと思います。
私の父は、いつも勉強し続ける人でした。定年後も猛勉強をして資格を取り、今もそれを活かして新たな環境で働いています。そういう背中を見て、私も挑み続けることの大切さを感じるようになりました。
今年はコロナの影響でロンドンで開催される『Pinklady Food Photographer』の授賞式には参加できませんでしたが、海外での展示が次の目標でもあります。このチャンスを転機となった撮影と同じように「絶対にいいものを作りたい」という強い気持ちで新しいステージへ挑み続けたいです。


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▲「インタビューなので真面目な感じになったけど、笑えるようなオチで書いてくださいね!」と関西人らしいリクエスト。ちなみに記事のタイトルに選んだのは『MAISON ONIGIRI』として制作した作品。「餃子が大好きで、いつか餃子で作品を撮りたいという思いが実現したお気に入りの作品です」

細見恵里の作品『uroko』は7月末までヒュー公式インスタグラムにて掲載中です。ぜひご覧ください。

hue公式インスタグラム

MAISON ONIGIRI

著者プロフィール

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株式会社ヒュー
株式会社ヒューは「食」を中心とした広告や商品パッケージの撮影から、レシピの開発・提案・クッキングの手配や出版物・WEB・デザイン・SNSを使ったコミュニケーションツールなど多彩にご提案が出来る「食の総合プロデュース会社」です。
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