「消えてしまいそうなものを拾い上げて」Photographer 加藤雄也

「消えてしまいそうなものを拾い上げて」Photographer 加藤雄也

「hue」という私たちの社名は、「色調」という意味があります。
そこにはスタッフ一人ひとりの個性を色にとらえて、
色彩ゆたかなチームにしたいという思いが込められています。

5名のフォトグラファーからスタートした食の専門スタジオヒュー
創業16年目を迎える今、フォトグラファーの色は15色に増え、
ますます多様な表現ができるようになりました。
この記事では、一人のフォトグラファーがどのようにして
“自分の色”を見出してきたのか、影響をうけたものや、
撮影でのエピソードなどを軸にあらためて振り返ってもらいました。


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暗闇に浮かび上がる窓。『窓についての憶測』と名付けられた6点の作品。国立劇場通りにある北井画廊にて9月2日より作品が展示されるフォトグラファー加藤雄也。大学でアートフォトを専攻し、広告撮影と並行しながら自身の作品にも取り組んできました。広告とアートという違った領域でありながら、根底に揺るぐことのないテーマを持ち続けてきた加藤雄也の作品についてお話をお届けします。

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それは誰かの一部だった「落とし物」


加藤雄也:今まであまり話してこなかったのですが、普段仕事で撮影している広告写真とは別にアートフォト作品も制作していて、自身のホームページに作品をアーカイブしています。それを何年か前に『北井画廊』の方が見つけてくださって、展示に声をかけてくれました。

最初に展示させてもらったのは『Lost Possessions 』(2015年~2016年)です。歩いていて見つけた落とし物をポラロイドカメラで撮影し、そのモノの名前、見つけた日時、それが落とされていた場所の情報をQRコードで記しています。
約1年間かけてあらゆる落とし物を撮影し、そのうちの70点ほどを作品にしました。
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きっかけは、通勤途中でみつけたキーケースです。
フェンスに引っ掛けられていて、数日間そのままでした。そこを通るたびに、どんな持ち主だったんだろう、とか。見つけやすいように、誰かがフェンスに引っ掛けていったのかな、とか。想像するうちに頭から離れなくなって、ポラロイドカメラを買ってきて撮影していました。それ以降、カメラをずっと鞄に入れて持ち歩き、落とし物を見つけるたびに撮影して、日時と場所を書きとめてきました。

唯一性を表現するためのポラロイド

落し物って結構あるんです。見つけて撮影していると、どんな持ち主が、どんな場面で落としてしまったんだろう、と「モノ」を起点に想像します。かつては持ち主がいて、その人のアイデンティティを形成する一部だったかも知れない。意図せず、離れてしまった時点で、意味を失った「モノ」になっているけど、そこにはまだ、持ち主の気配が残っているように思えてシャッターを切りました。

落し物のほとんどは量産品です。そして写真も複製芸術です。
落としてもまた買いなおせるし、写真は何枚でも印刷することができる。
一方、落とした持ち主にとっては、思い出の詰まった物だったかもしれない。
その唯一性を表すためにポラロイドカメラを使いました。
ポラロイドは撮影したその一枚のみが存在し、ネガも残りません。

北井画廊での展示のあと、ニューヨークArtexpo New YorkやアムステルダムAffordable Art Fair Amsterdamのアートフェアにも出品しました。海外からは割と反応があり、NYで作品を見てくれたフィンランド・ヘルシンキの画廊『AVA Galleria』の冊子にも掲載されました。海外から見ると、日本という異国の落とし物が面白く映ったのかも知れません。

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親しみを感じた「食」の撮影

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 ▲写真はすべて加藤自身が育てて収穫したもの。「ジャングルのようになっています」という自宅の庭では、万願寺唐辛子、ブルーベリー、とたくさんの野菜や植物が育っているそうです。


大学ではアートフォトや古典技法を専攻しました。コンセプトの作り方や写真全般について学び、「仕事をするなら、写真がいい」と考えていました。友人が誘ってくれたhueの学生ワークショップに参加したことがきっかけで、広告写真の世界に。その時に、料理を表現する方法はとっつきやすくて、親しみがある。食の分野は自分に近いかもしれないと感じました。

アートフォトの撮影と広告撮影はまったく違う世界ではありますが、伝えたい内容によって、一番効果的な手法を探る、という点においてはどちらも同じだと僕は捉えています。
現代アートの授業でも広告写真がどうやって消費者に訴求するのか学んできたので、今も思い返しながら撮影しています。


どちらの撮影でも大切にしていることなんですが、時間や季節が写真から伝わるような撮影をしたい。「消えそうなものを拾い上げる」というか、気配や残像を映し出したい、というのが僕のなかでは一貫したテーマです。

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 ▲芍薬が母、私、娘と3世代の美しさを表現。アートディレクターと話し合い、メインビジュアルは自然光にこだわって撮影。


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 ▲野外シネマのプロモーションツール。夜のちょっとワクワクする特別な時間を表現するために日没後の青い光をいかして撮影。

「夕陽がきれい」だとなぜ感じるのか


広告撮影では、依頼してくれた人に寄り添った作り方をしたいと考えています。自分の得意なトーンで撮影するだけではなくて、例えば「やわらかい光で撮影したい」と言われたら「なにを、どんな風に、どう伝えるか」言葉に置き換えて理論的に説明して撮影しています。理論的に考えるクセは大学のゼミで鍛えられたのと、中学生の頃から美術を教えてもらっていた画家の先生の言葉がきっかけです。近所に住んでいたその先生は、「夕陽がきれいだと思ったら、なんでそう思ったのか考えろ」とよく言っていました。ただキレイだと感じて終わらせてはいけない。なぜきれいなのか、なんでそう思ったのか、自分の中にそれを引っ張り込んで繰り返し考えました。今でも、その言葉を思い返しながら制作しています。

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 ▲作品『雨の中、独り言』

何気なく切り取った風景から


今インスタグラムに掲載している作品は、コロナ禍でステイホーム期間中だった今年の春に、自宅のまわりを歩いて撮影した作品と、食の作品の両方からセレクトした9枚です。
カメラを持って歩いて、心がうごいた瞬間を切り取った日常の風景と、「食」の作品は一枚ずつフォーカスしてみると全く違うものですが、一貫したテーマである気配や残像、消えてしまいそうな瞬間を表現しています。こういったスナップと食の作品は僕の中では通じるものがあって、全体をとおしてみた時に“暮らしの気配”みたいなものが感じられるといいなと思っています。

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 ▲雨上がり、近くの小川、暮らしの中にあるシーンを切り取った作品。


不確実性、不完全性を問う試み

9月2日から北井画廊で『ART ON PAPER 紙の美術 其の三 写真 』三人展がスタートします。僕は『Speculation about windows / 窓についての憶測』という作品を6点出品しました。タイトルの通り窓を撮影した作品なのですが、写真には短い一文を添えています。おそらく鑑賞する側は、窓の形とそこから漏れてくる光、その窓を説明した短い文章からさまざまな想像をすると思うんです。そこにどんな家があって、どんな暮らしで、どんな人がいるのか、と。でもその想像が正しいかどうかもわからない。自分が得た情報に対する疑い、その不完全性や不確実性を問いかける、そんな意図で制作しました。

余白がある表現が好きで、余白とは“想像の余地”だと考えています。僕は意図があってこの作品をつくりましたが、捉え方は鑑賞者にゆだねて自由に感じてもらいたいと思っています。
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Speculation about windows / 窓についての憶測
技法;ヴァンダイク・ブラウン・プリント / 金調色
サイズ;14×17inch(フレームサイズ)
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毎日顔をあわせ、知り尽くしていると思っている人の事でさえ、私が彼の「内面」
として判断し「真実」として確信した(つもりで)いる情報は、窓から漏れる光ほどの量にすぎないのかもしれない。(途中略)写真には短い一文が添えられているが、周囲の情報が削ぎ落とされた窓の写真一枚に対して、それは恐らく、なんの信憑性も持ちはしないだろう。
『Speculation about windows / 窓についての憶測』コンセプトより一部抜粋


手がけてきたアートフォトは、作品としてHPに掲載しているので、時々ですがアートフォトを観てくださった方から声をかけてもらうこともあります。アートフォトも広告も一貫したテーマを持って、今後も撮影を続けていきたいです。目標は国内の芸術祭に参加すること。越後妻有の大地の芸術祭や、横浜トリエンナーレ、御代田フォトフェスティバルも。魅力的な国内の芸術祭がたくさんあるので、いつか参加してみたいです。

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Info 『ART ON PAPER 紙の美術 其の三 写真 』2020.09.02-12

展示作家:田口真樹子 白神政史 加藤雄也

会期 2020年9月2日(水)〜12日(土)
休廊 日・月・祝日
時間 12時〜19時

場所 北井画廊

著者プロフィール

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シズル撮影専門のクリエイターチーム・ヒュー
ヒューは食の撮影に特化したフォトグラファーが多数在籍しています。スチール撮影からパッケージ撮影、動画などシズル感のある表現で「おいしい」が伝わるビジュアルをご提案していきます。
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