「 予期せぬ光やフレア偶然に写るものを大切に」 Photographer大野咲子

「 予期せぬ光やフレア偶然に写るものを大切に」 Photographer大野咲子

「hue」という私たちの社名は、「色調」という意味があります。
そこにはスタッフ一人ひとりの個性を色にとらえて、
色彩ゆたかなチームにしたいという思いが込められています。

5名のフォトグラファーからスタートした食の専門スタジオヒュー。
現在フォトグラファーの色は15色に増え、
ますます多様な表現ができるようになりました。
この記事では、一人のフォトグラファーがどのようにして
“自分の色”を見出してきたのか、影響をうけたものや、
撮影でのエピソードなどを軸にあらためて振り返ってもらいました。


2006年に入社し、hueでは初となる女性フォトグラファーとして多数の広告制作を手掛けてきたフォトグラファー大野咲子。クリエイターの中ではいち早く写真集を制作し、国内外で写真展を開催するなど、精力的にプライベートワークにも取り組んできました。瑞々しさに溢れた感性で切り取られた作品は、ドラマチックな構成のものから、ユニークな独自の視線、何気ない日常を映し出したものなど幅広く、見る側を惹きつけます。今までの撮影事例を振り返りながら、率直な言葉で語られた撮影についての思いやこれからの活動についてお届けします。

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 ▲東京造形大学デザイン学科卒業、東京ビジュアルアーツを経て2006年にhue入社。当時、男性スタッフが大半だった広告撮影の世界。そこに飛び込む不安はなかったですか?の問いかけには「全然!」と即答。「それより早くフォトグラファーになりたい、と焦る気持ちの方が大きかった」

好きな事と得意な事は違う、転機になった一言

大野咲子・インスタグラムに作品を掲載するにあたって、今まで撮影してきた作品シリーズから数点ずつ、全体が並んだ時のバランスを考えてセレクトしました。その中の一枚『白い空間』は私がフォトグラファーへ昇格するきっかけになった作品です。陶器の白や、食材の白、銀色が反射した白、一言で「白」といっても様々な「白」が存在することを表現した作品です。それまではカラフルなスタイリングの作品を撮っていましたが、これが良いのかどうかわからない、自分でも迷っていた時に、当時はアシスタント同士だった1年先輩の森さん(フォトグラファー森一樹)が作品を見て「咲ちゃんは白い世界観があってるのかな~」と。それを素直に受け止めて、この白い空間を撮影し続けました。
そこから写真の質もよくなったし、撮影時間も短くなった。構成のアイデアも詰まることがなくて、いろんな「白」を撮影してみたいと思うようになりました。森さんの何気ない一言で、急に打率があがった。自分の好きなものと、得意なことは違うと改めて気づかされた言葉でした。たぶん森さんはそんな事、覚えてないと思うんですけど。

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 ▲森さんの何気ない一言が制作のきっかけになった『白い空間』シリーズ。
「このインタビューで話すことを考えていると、改めて自分はたくさんの“人”との出会いや、かけてもらった言葉がフォトグラファーとしての基盤になってきたんだなあと思いました」

「この人は天才だと思う」戦友の存在

私がアシスタントの頃から一緒に作品制作をしてきた“戦友”のような存在であり、日頃から「天才なんじゃないか」と思っているのは、フードスタイリストの勝又友起子さんです。抜群のセンスと手先の器用さを持ち合わせていて、難しい撮影になればなるほど向上心をメラメラ燃やして、無理難題を真正面から切り開いていく。一緒に撮影していると自分も引っ張り上げてもらうような感覚があります。
勝又さんはフード以外に、小道具のスタイリングも手掛けていますが、ある時、クライアントの希望通りのものと、それとは全く違う奇抜なスタイリングを「自分のお薦め」として持ってきたんです。それで試しに撮影してみると商品の良さがうまく引き出されて、とても理にかなっていたんです。でも勝又さんは感性の人だから、どうしてこのスタイリングを選んだのかお客さんにうまく説明できなくて、私が間に入って伝えることに。そういうことが何度かあって、勝又さんは私のこと「通訳」と思っているみたいです(笑)

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 ▲勝又さんと手がけてきた事例の数々。「ベテランとも言える経歴なのに、気さくな人柄で、スタジオに勝又さんの明るい笑い声が聞こえると、空気が和みます。一度、仕事を一緒にするとファンになる人も多く仕事のオファーが途絶えないのも納得です」

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 ▲仕事でもプライベートでも付き合いは長く、2016年5月ミラノで写真展を開催した際には勝又さんも一緒にミラノへ同行し、展示を見守ってくれたそう。

《写真展の記事はこちら》
『ミラノで写真展ひらいてみた』travel report vol1
『ミラノで写真展ひらいてみた』travel report vol2


ドキュメンタリー写真から学んだこと

商品の良いところを引き出して映し出すのが広告撮影だとしたら、その真逆にあるのがドキュメンタリー写真だと思います。綺麗なことだけじゃない、都合のわるいところも映し出す。ドキュメンタリー写真に魅力を感じるようになったきっかけは、先輩プロデューサーに誘ってもらった、雑誌『IMA』が主催した写真集のワークショップです。講師に造本家・町口覚さんと写真家・田附勝さんがいらっしゃっていて、お二人のお話に刺激を受けました。ものすごく情熱を持っていて、それをストレートにぶつけてくれる。田附さんは「写真家なんて恥をさらしていくものだし、誰でも写真が撮れる今の時代、写真家の役割は自分の目で見た世界を社会性を持たせて表現すること。」 と言っていて、その言葉通り、真実をさらけ出し独自の視点で社会を切り取っていく作品に感銘を受けました。

この時のワークショップでは、参加者の中から私が撮影を続けている作品『サヨナラホーム』が選考されて、写真のセレクトやキャプションの付け方を町口さんから直接教わることに。事務所へ何度か通い、厳しいレクチャーを受けてマケット(写真集の模型となるもの)を作ってもらいました。
広告撮影にはない考え方を、町口さんと田附さんから学べたことは30代の中で大きな出来事でした。その後も、「受けてみれば?」と町口さんから教えてもらったキャノンが主催する写真家のオーディション『シャインズ』にも挑戦し、ファイナリストに残ることができました。

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 ▲2013年から撮影を続けてきた大野のドキュメンタリー作品『サヨナラホーム』。町口さんのレクチャーを受け3種類のマケットを制作。


ドキュメンタリー作品は最初のテーマからすべて自分で考えるので、それに取り組むこと自体が思考のトレーニングにもなりました。
それ以降、人の行動原理を考えながらテーマを掘り下げて考えるようになりました。クライアントやADがいる広告撮影においてフォトグラファーは代弁者のようなもの。みんなが伝えたいことを描いていく仕事です。何を見せたくて、それをどう撮るのか、今まで以上に考える事がたのしくなりました。

予期せぬ光、写りこむフレアを活かして

ドキュメンタリー写真は今もプライベートワークとして取り組んでいます。もともと、スナップ撮影や手持ち撮影(手で直接カメラを持って撮影すること) が得意だったし、すぐにアングルを変えられる自由さや、偶然撮れる良さみたいな発見もあって。
そこで得たアイデアをもっと広告撮影でも活かしていきたいと思っています。

スナップ撮影をしていると、予期しない光や、手前にものが映りこんで、かえって味のある表現になることがあります。そういう表現を狙ってオールドレンズを使うようにもなりました。ニュアンスを足したい、と思った時にそれぞれのレンズの特性を活かして使い分けています。こういう撮影の経験を増やしていくと、今度は意図してニュアンスのある光やシチュエーションを作り出すことができる。それは広告撮影をするうえでも強みになりました。

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 ▲独特の色味や、風合い、映し出されるニュアンス、自分で買い集めたオールドレンズで撮影。

30代から40代。年齢を重ねたから見える風景。

30代は、仕事でもプライベートワークでも自分が好きなことや得意なことに思う存分時間を使ってきた分、苦手に感じる分野もありました。例えば、ライフスタイル系の撮影が好きだったので、シズル撮影はあんまり得意じゃないかも、と感じたり。
それが今はどんな撮影にも面白さがあるように感じられるようになりました。40代は過去の苦手意識や古い価値観を捨てていきたい。

例えば、ライフスタイル系の撮影は自分自身もリラックスして撮影することを大切にしていますが、『モスバーガー』 や『スープストックトーキョー』など緻密な作業が必要になる撮影では、集中力のギア をぐっと上げて取り組んでいます。今はそういうシズル撮影ならではの手ごたえや面白さが増してきたように感じます。


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フォトグラファーになってすぐの頃は、「ちゃんとしなくては」と気負って、身の丈にあっていない話をしたり、どこか虚勢を張っているところがあった。でもキャリアを重ねていくと、俯瞰して見えてくることもある。もちろん良いことばかりじゃなくて、かっこわるい事もたくさん経験してきたけど、気が付いたら自分にはそれなりの経験が積み重なっていて解決できることが増えてきました。

徐々に社会の中心から外れていく年齢に差し掛かり、今まで通り仕事をしていては感覚のズレが生まれてくるのではないかという危機感があるのが正直なところです。いろんな世代の考え方も捉えておきたくて、後輩であるアシスタントフォトグラファーや、これから社会の中心となる若い世代との関わりも大切にしていきたいと思っています。自分とは違う価値観や世代の人との、何気ない会話の中にはヒントやアイデアがたくさんある、トレンドを追い求めるというより、自分の考えだけに固執しないバランス感覚を持ち続けていきたいです。

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 ▲広告撮影で培ってきた技術や表現力に、ドキュメンタリー写真に取り組むことで得た、テーマやコンセプトを作り上げる思考力も加わり、今まで以上に撮影を楽しんでいる様子の大野。「現実をみせるルポタージュのような撮影も挑戦してみたい。今まで自分が感じた葛藤やジレンマを踏まえて、社会に問いかけるような写真を一枚でもいいから撮影できれば」。



大野咲子の作品は9月末までhue公式インスタグラムに掲載しています。ぜひご覧ください。


hue公式インスタグラム


大野咲子・作品

著者プロフィール

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株式会社ヒュー
株式会社ヒューは「食」を中心とした広告や商品パッケージの撮影から、レシピの開発・提案・クッキングの手配や出版物・WEB・デザイン・SNSを使ったコミュニケーションツールなど多彩にご提案が出来る「食の総合プロデュース会社」です。
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