「日常の観察から浮かび上がるもの」Photographer 塩谷智子

「日常の観察から浮かび上がるもの」Photographer 塩谷智子

「hue」という私たちの社名は、「色調」という意味があります。
そこにはスタッフ一人ひとりの個性を色にとらえて、
色彩ゆたかなチームにしたいという思いが込められています。

5名のフォトグラファーからスタートしたシズル撮影専門のクリエイターチーム・ヒュー
現在フォトグラファーの色は15色に増え、
ますます多様な表現ができるようになりました。

この記事では、一人のフォトグラファーがどのようにして
“自分の色”を見出してきたのか、影響をうけたものや、
撮影でのエピソードなどを軸にあらためて振り返ってもらいました。

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写っているのは、無数のガラスに輪郭を滲ませた裁縫箱。確かにそこに存在しているのに、手が触れられないような距離を感じさせ、その存在を曖昧なものにしています。撮影したのはフォトグラファー塩谷智子。ガラス作家の後藤晃太氏との二人展『i×i』の作品として制作されました。アートフォトと広告撮影、塩谷が映し出す世界は共通して独特の透明感があり、同時に心惹かれる瞬間が絶妙に表現されています。今回の記事では、塩谷が撮影やディレクションをするうえで大切にしていること、インスピレーションを得るという日常の観察についてのお話をお届けします。


ディレクションから関わるように


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 塩谷智子・1984年東京都生まれ。2010年多摩美術大学工芸学科卒業。同年株式会社ヒュー入社。

塩谷・ライフスタイル系を中心に撮影させてもらっていますが、
最近は企画やコンセプトの提案から関わらせていただく案件が増えてきました。
コンセプトを考えさせてもらったり、フォトディレクションをさせてもらったり。商品が生まれた背景を聞く作業からじっくりと向き合わせてもらっています。単純に撮るだけではなく、商品の世界観を打ち出していく要素を集め、ラフ提案など何パターンかアイデアを自分でプレゼンすることに、とてもやりがいを感じています。もともと撮影以外にディレクションには強く興味を持っていたので。

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ディレクションから関わることが増えたのは、ある撮影のラフを自分で描いてみたことがきっかけです。その案件はもともとラフ提案がなく、現場で一つひとつ確認することが多かったんです。これはベースにラフがあった方がいいな、と思い自分でラフを起こしました。

撮影を見越したラフが描けることはフォトグラファーの強みだと思います。狙ったライティングができるようにモノを配置し、商品や小道具のサイズ感もラフの段階で無理がないように描くと、現場もスムーズに進行しました。お客様にもとても喜んでもらえ、それ以降、レギュラーで撮影させていただくことになり、フォトディレクションから関わる案件が増えていきました。



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▲絵を描く事やデッサンの基礎は美大時代に学びましたが、続けていないと描く感覚が鈍るんです。それで、社内のメンバーで「デッサン会」なるものを開催。公園でみんなスケッチブックを持ち寄り、交代でモデルをしながらデッサンしていました。

旅にでること、街を歩くこと、

好きなことは旅行です。学生の頃からお金がないなりに青春18切符を使ったり、バックパックを背負って旅に出ていました。社会人になってからは時間を見つけては海外へ一人旅に。スペイン、インド、ベトナム、ラオス、ウズベキスタン、ロンドン…と心の向くままに旅をしてきました。旅先でも、そこに住む人たちの息遣いが感じられる場所が好きで、地元の人が集まる市場や路地、生活が垣間見られるような場所へ足を運ぶことが多いです。

最近、特に心に残っているのはニュージーランドの旅。クィーンズタウンからマウントクックを目指して、何時間も運転しながらNZの大自然の中で目にした光や、感じた温度、そこにある空気をたっぷり自分の中に染みこませてきました。
旅先で心に残ったことや、ふとした瞬間に思ったことを、その場でピンを打つようにメモを残すことは大切にしている習慣です。

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 ▲車で旅をしたNZ。写真は南島にあるプカキ湖にて。心に留めておきたいと思える、ふとした瞬間にいくつも出会えました。


海外を旅するのと同じ感覚で、東京の街を歩くことも自分の中では大切なインプットの時間になっています。今はどんなものに人が集まっていて、それはどんな空気感なのか。旅先と同じようにその場で感じたことをメモに書きとめています。ライフスタイル系の撮影においても、今と5年前とでは表現が全然違うし、見る側も感じ方がどんどん変化していきます。ウィンドウやお店の賑わい、歩いている人たちの表情、日常を観察し浮かび上がるものを心に留める。そうやって街のリアルな感覚を捉えることは、フォトディレクションをする上で役立つ感覚があります。


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 ▲街を歩いていて見つけたギャラリーショップで、素敵な器に出会う事も。作家の方がどんな思いで作ったのか、そんなストーリーをじっくり聞くことも好きな時間です。作家の方のアトリエへお邪魔させてもらったり、ものづくりの現場からインスピレーションを得ることもあります。


欠かせないのは“フラットになれる時間”

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撮影やディレクションを考えるうえで、欠かせないのは、心がフラットになれる時間です。慌ただしい日常から少し離れて、コーヒーを淹れて一息つけるゆったりした時間を確保できるようにしています。

そういう時間の中では、自分の心もフラットなので客観的に考えやすい。旅先や街の中で、書きとめたメモや、情報収集したものを見直し、そこからディレクションに必要なものを選び出して、アイデアを組み立てていきます。
例えば、パフェの撮影をディレクションする時に、街中で見かけた「昭和レトロなパフェ」や「喫茶店パフェ」が印象に残っていたとして、どうしてそれが印象に残っていたのか、新聞や雑誌、ネットニュースなど様々な媒体に目を通し、最近のトレンド情報などにも照らし合わせたりします。物事の外側と内側をしっかり見つめられるように、慌ただしい時間にはあえて何も考えず、じっくりフラットになれる時間にディレクション作業をするようにしています。

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 ▲撮影で「欠かせない存在」と言えばレタッチャーの黒田輝海さんです。私は入社して10年目を迎えますが、アシスタント時代から一緒に作品制作させてもらいました。付き合いも長くなり「呼吸があう」という感覚です。私がイエス・ノーがはっきりしている分、黒田さんは一歩先から私の意見を受け止めてくれる。プライベートでは一緒に飲みに行ったり、山登りに行くこともあります。(右手前が塩谷、左奥が黒田。写真は北鎌倉へハイキングに出かけた時のもの)


曖昧な存在を留め続ける「ガラス×写真」

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今年は瀬戸市新世紀工芸館で、ガラス作家の後藤晃太さんと二人展を開催する予定でした。私も大学時代はガラスを専攻していたこともあり、後藤さんのガラス作品と、私の写真の共通性を探りながら『i×i』というテーマで作品を制作しました。
“i”というのは虚数を表します。存在しているけど、存在していない。曖昧で不確かなものを捉えることが共通のテーマです。

私は祖母の遺品を撮影しました。
目の前にあるのに、持ち主がいなくなった「あるようでない」曖昧な存在である“遺品”。
やがて誰のものでもなくなるモノを、宝石のようにキラキラとしたガラスで留めておきたいという気持ちを込めています。
こうしたアートフォトと広告撮影は、考え方や表現の仕方は違うものですが、自分の中ではどちらも日常の観察の延長線にあるものからインスピレーションをえて撮影しています。

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『i×i』二人展 後藤晃大[ガラス]、塩谷智子[写真]
瀬戸市新世紀工芸館(※コロナウィルスの影響で会期延期)
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ガラスは光を透過することによりその存在感を希薄なものにし、光を反射、屈折させることでその中に虚像を映し出します。また写真は一瞬を切り取り、被写体の実像が消えてしまった後もその中に存在を留め続けます。
 これらの特徴からそれぞれの媒体に『「曖昧なもの」「不確かなもの」を捉える』という性質を見出し、それぞれの手法で表現するお二人による展示です。
(引用・瀬戸市新世紀工芸館HPより)

著者プロフィール

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シズル撮影専門のクリエイターチーム・ヒュー
ヒューは食の撮影に特化したフォトグラファーが多数在籍しています。スチール撮影からパッケージ撮影、動画などシズル感のある表現で「おいしい」が伝わるビジュアルをご提案していきます。
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