「リアルと記憶の境界線を探って」Photographer 井口俊介

「リアルと記憶の境界線を探って」Photographer 井口俊介

「hue」には、「色調」という意味があります。
そこにはスタッフ一人ひとりの個性を色にとらえて、
色彩ゆたかなチームにしたいという思いが込められています。

5名のフォトグラファーからスタートしたシズル撮影専門のクリエイターチーム・ヒュー
現在フォトグラファーの色は15色に増え、
ますます多様な表現ができるようになりました。

この記事では、一人のフォトグラファーがどのようにして
“自分の色”を見出してきたのか、影響をうけたものや、
撮影でのエピソードなどを軸にあらためて振り返ってもらいました。

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見る側の視線をぐっと掴んで引き寄せる、食が持つ力強さを余すことなく表現し、パワーのある料理写真を得意とするフォトグラファー井口俊介。スタジオでは「NO」と言わないスタンスで、撮影技術や表現力を一つひとつ積み上げてきました。フォトグラファーとして11年目を迎える今、印象に残っている撮影や、スタジオでのエピソードを振り返ってもらいました。

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▲井口俊介 1980年生まれ、東京理科大学、日本写真芸術専門学校広告写真科を経て、2005年ヒュー入社。


「あのラーメンのようにウチの商品も撮ってほしい」


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井口・このラーメンの撮影は、僕自身も仕上がりが気に入っているのですが、hueの海外向けホームページに掲載したところ、それを見た海外の方が「あのラーメンのようにウチの商品を撮影してほしい」とご連絡くださり、撮影させていただいたことがありました。

現場でも僕のシズル表現を信頼してくださったのがうれしかったです。
自分が表現した「美味しさ」が海外のお客様にも伝わっている。それがパッケージになって商品棚に並んだ時に、美味しそうだと感じて手にとってくれる人がいることを想像すると、パッケージ撮影の醍醐味というか、やりがいを感じる撮影だなと思いました。

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海外では、食文化が違うから「美味しさ」の表現はいろいろと下調べをして臨みます。「日本ではこうするのに」と思い込まずに、その国ではどんな表現がスタンダードなのかを知ったうえで、より良い提案をするようにしています。今はコロナウィルスの影響で海外案件は落ち着ていいますが、これからもどんどん挑戦してみたい分野です。


レンゲ落としに、液面揺らし、
定番の美味しい表現に“プラスアルファ”の要素を加えて

料理撮影はセオリーというか、王道の表現があります。でも現場にいると何か新しい表現を探したくなる。それはお客様もデザイナーさんも、撮影に関わる全ての人が同じ思いなので、打合せの段階で「新しいシズル表現」について議題にあがります。
パッケージや販促系の撮影においては、突飛な表現や斬新すぎるアイデアより、王道のシズル表現に“プラスアルファ”の表現が重要だと思っています。なので、本当に小さな表現の積み重ねを僕自身は大切にしています。

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例えば、この撮影では、
「美味しそう!食べたい!」と箸を持ち上げる“勢い”を感じさせるために、ラーメンの液面を揺らして撮影しています。この“揺らぎ”は静かな液面には入らない要素です。普通のハイライトでは感じられない「食べる側の勢い」を少し不自然なハイライトを狙うことで表現しました。

これも「何か新しい表現ないですかね」とお客様と話し合っている時に思いついたものです。
いろんな方法で液面を揺らしながら、お客様やデザイナーさんと「新しい!」と盛り上がりました。
hueのお家芸でもある「レンゲ落とし」に次ぐ「液面揺らし」ですよね。(笑)
実際にパッケージに仕上がった時にほとんどの人は気づかないかも知れない、小さな工夫ですが、僕はこの積み重ねこそが「新しい表現」につながっていくと信じて撮影しています。

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▲今までは真俯瞰でレンゲ落としをすることはなかったのですが、新たな試みとして挑戦。パッケージは文字情報も載るので、右からレンゲを入れたいけどバーコードに引っかかる、これ以上ずらすと具材が隠れる、など。いろんな制約を潜り抜けながら常に新しいシズル表現に挑戦しています。

スタジオの現場で積み上げたもの

今年フォトグラファーとして11年目を迎えます。アシスタント時代からスーパーやコンビニの商品棚のチェックを欠かしません。自分がスタジオで表現したことが、どんな包材に印刷されて、パッケージになっているのか、棚に並んだ時にはどんな風に見えるのか、その商品の横にはどんなパッケージが並んでいるのか、いろんな角度からじっくりを観察しています。商品棚でどれだけ「美味しさ」が伝わっているかどうかが勝負だと考えているので。

包材についてもいろいろ学びたいですね。機会があれば包材の印刷立ち合いもしてみたいです。撮影の現場以外で気がつくことや学びになることはとても多いと思っています。

基本的に「できない」と言いたくない性分で。スタジオでお客様に「これはできますか?」と聞かれた事を断らないように努めてきました。もちろん物理的に無理な場合は、そのリクエストを通して何が求められているか、しっかり聞き取って「表現としてこういう事だったらできます」と必ず希望が叶うようにいろんな手段を提案しています。
撮影を依頼してくれたお客様をがっかりさせたくない、という単純な理由なんですけど。

でも、NOと言わないスタンスでいろんな難題をクリアしていくと、必ず新しいシズル表現に出会える。小さな積み重ねですが、自分の技術面やテクニックとしてとても身になっています。

リアルと記憶の境界線を探る

僕は撮影とレタッチ作業をすべて自分でするようにしています。レタッチはアシスタント時代に半年間、当時hueのCGチームに席を置いて、みっちり基礎から学びました。今となっては、そこで学んだことがとても大きかったなあと感じます。レタッチの事が頭に入っているので、作業を見越した撮影ができる。何より撮影の時点でプレオペまで僕がするので、スタジオで最終的な仕上がりを見てもらえる。それはお客様の時間も無駄にしないし、正確な仕上がりを見せることで安心してもらえると思います。
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▲この撮影もレタッチも自分で仕上げました。レードルで卵を流す表現は、最初予定になかったけど「やってみましょうよ」と思い切って挑戦。スタジオで「おー!」と盛り上がったのは忘れられないですね。


あと、心がけているのは「自然に、ナチュラルに」という視点。どうしてもパッケージや販促物の撮影は、その特性上はっきりした色合いや強めの表現が求められるのですが、目を惹きつける力強さを表現しつつも、どこかリアルさというか食の瑞々しさが伝わるような表現にこだわっています。

例えば、リンゴって本物は真っ赤ではないし、半分に切ってもきれいに種が2つ入っている訳ではない。でも「美味しそうなリンゴは真っ赤だ」という人間の記憶がある。僕が表現する上で大切にしているのは、記憶の中にある真っ赤なリンゴと、本物のリンゴの色合いの境界線を探ることです。僅かな表現の違いなので、気づかない人は気づかない。もう撮っている本人にしかわからないような、僅かな違いですが、写真に表現されたときに、リンゴの瑞々しさや香り、手触りが伝わるような撮影にこだわっています。

スチール撮影の技術を活かした動画制作

挑戦していきたいのは動画撮影です。最近はCM撮影のシズルパートを手掛けることがあって、ファントムを使って撮影しました。目の持って行かせ方や、見せるポイントなど。
「美味しさの表現」を探りながら撮影する点においては、スチール撮影で培った技術は役立ちます。商品棚をチェックするのと同じように、今は意識してあらゆる動画を見て感覚や表現を身に着けていきたいですね。



▲『Taste of America2020』動画を撮影。動画全体の尺は短いものの、1日で30カットとボリュームのある案件でした。
やりがいや手ごたえがあり、これからも積極的に動画案件に挑戦していきたいです。

著者プロフィール

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シズル撮影専門のクリエイターチーム・ヒュー
ヒューは食の撮影に特化したフォトグラファーが多数在籍しています。スチール撮影からパッケージ撮影、動画などシズル感のある表現で「おいしい」が伝わるビジュアルをご提案していきます。
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