「松本の街づくりに取り組む人たち」松本探訪記vol.2

以前食の撮影スタジオhueでイベントを行ったことでご縁のある、フードユニット「つむぎや」の金子健一さん。
現在は拠点を東京から長野県松本市に移され、『アルプスごはん』という食堂を営んでいらっしゃいます。
開店の経緯をうかがうと、様々な人のつながりとそれによって広がる街の姿が見えてきました。
金子さん、そして金子さんがつないでくれた松本の人を訪ね、松本の今を全3回にわたってご紹介します。

第2回目では、金子さんの松本出店のきっかけを作った方々にお話をうかがいました。

文化を発信し街を広げる『栞日』菊地徹さん

『アルプスごはん』開店のきっかけを作り、松本の人たちをつないで街づくりの取り組んでいるのが『栞日』店主の菊地徹さん。
菊地さんは栞日について、「ちいさな声に眼をこらす、本屋あるいは喫茶店です」と言います。
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▲菊地さんの奥さんの希美さんお手製の焼き菓子が並びます

――以前『栞日』は今の『アルプスごはん』の場所にあったんですよね?

菊地徹さん(以下敬称略) そうですね、もう少し大きいスペースを探していた時にちょうどこの物件の話を聞いて移転しました。
今こちらでは1階でカフェ、2階で本屋とギャラリーをやっています。
本屋では、僕が好きな著者や編集部の制作の意図がそのままの熱量で伝わってくるような新刊の小規模出版物を中心に取り扱っています。
でもそういう本屋だと敷居が高くなってしまいますよね。
なのでみなさんが気軽に立ち寄れるカフェを本屋の入り口にしました。
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▲松本市中山を走る県道63号線沿いに店舗を構える『松川パン商店』の食パンを、京都「金網つじ」の焼き網を使ってガスコンロの直火でトースト。香ばしくておいしい!

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▲バタートーストとアップルシナモントースト

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▲2階に上がると、本や雑貨が置かれたスペースにギャラリーも併設されています

――菊地さんは松本ご出身なんですか?

菊地 僕は静岡出身で、大学では茨城へ行きました。
学生時代はスターバックスコーヒーでのアルバイトをしていたのですが、この頃からいつか自分の店を持ちたいなと思っていました。
コーヒーは淹れるつもりでしたが、カフェにこだわっていたわけではなくて。
焙煎もやりたかったし、洋服屋や美容室など複数店舗展開できればいいなと漠然と考えていました。

サービスにも興味があったので、就職はホテルや旅館を探していたところ、たまたま松本にある『扉温泉 明神館』に決まったんです。
そこで妻と知り合い、店を出す話が具体的に進んで行きました。

その後僕は個人で事業を始めるステップとしてもう少し規模の小さい店で働こうと思い、中軽井沢にあるパン屋に転職。
妻はそのまま旅館に残ったので、松本には週に1回通う生活になりました。
地元民と旅行者の両方の目線を体験することで新たな街の魅力も発見できたのかもしれません。
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――偶然つながった松本に惹かれていったんですね。

菊地 2013年、今『アルプスごはん』がある場所に『栞日』をオープン。
店名は学生時代にいつか店をやろうと思った時に決めていたものです。

――金子さんとはどこで知り合ったんですか?

菊地 金子さんとの出会いのきっかけは、松本の深志神社の近くにあった『ナチュラルベーグル歌』という店でのイベントです。
当時そこにいた小熊徳行さんはソムリエの資格も持っていて、カフェスペースで定期的にワイン会を開催していたんです。
いつもは季節のワインと小熊さんの料理を出していたのですが、ある時ゲストシェフとして呼ばれたのが「つむぎや」。
当時金子さんは松本には住んでいたけれどまだお店はやっていなかったので、「まずはうちの店で料理教室をやってみない?」と声をかけたんです。
話はすぐに決まり、2015年3月から『つむぎやカネコの粉こねごはん』というイベントがスタートしました。

その最中に当時吉祥寺にあった『食堂 ヒトト』で松本を紹介するイベントが開催されることになったんです。
僕は作家さんなどのコーディネートを担当し、金子さんには料理ディレクションをお願いしました。
そこで生まれたのが「アルプスごはん」という定食です。

――すべての始まりのイベントですね。

菊地 金子さんは松本の農家さんを訪ね歩き、定食を作り上げていきました。
僕はそういう金子さんがアルプスごはんを仕上げていくプロセスが興味深くて!

それまで料理研究家に抱いていたイメージは、自分が作りたい料理があってその食材を探しに行くというもの。
でも金子さんはまず生産者に会いに行ってどんな食材を作っているのか見てから自分が何を作るのか決めていく人なんです。

僕にとっては彼のアプローチやフットワークがとっても新鮮だったんですよね。
だからそういう稀有な人がこれから松本で新しいことを始めるということをみんなに知ってもらうための企画とプロセスを丸ごと1冊の本にまとめた『アルプスごはんのつくり方』を出版しました。
その間に金子さんの店を出すことが具体化していき、2017年6月に『アルプスごはん』のオープンにつながったんです。

――“アルプスごはん”にはストーリーがありますよね。
今まで様々な人やコトをつないできた菊地さんのこれからの夢は?

菊地 松本の市街地と呼ばれるところをもう少し広げることです。
今、街の中心部はプレーヤーの数も物件数も飽和状態になっていて、不動産も高止まりしています。
僕が店をオープンしてから5年の間にも素敵な佇まいの建物が次々とコインパーキングになり、城下町らしい風景がどんどんなくなっていて……。
こういう状況をなんとかしたくて、空き家を利活用することを行政と一緒に考え始めました。
今は郊外と言われている街の周辺部に良いプレイヤーを当てはめていくことで、街を広げていきたいですね。
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旅人と地元民が集うゲストハウス『tabi-shiro タビシロ』小澤清和さん

市内と周辺に観光スポットが点在する松本には、多くのゲストハウスがあります。
今回ご紹介するのは、松本ゲストハウス『tabi-shiro タビシロ』です。
オーナーの小澤清和さんは元々旅館で10年近く空き家だった木造2階建ての建物を、友人やSNSを通じて募った人たちと一緒に改修し、2016年6月にこのゲストハウスをオープンしました。
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――小澤さんのご出身は?

小澤清和さん(以下敬称略) 僕は松本出身で、学生の頃から旅好きでバックパッカーで世界各地を巡っていました。
そういうこともあり、最初は旅行会社に就職。
でも働くうちに自分が知らない場所を紹介するよりも、自分が生まれ育った一番好きなこの街を紹介するような仕事がしたいと思ったんです。
そこで空き家を活用したゲストハウスを始めることにしました。
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――どんなお客さんがいらっしゃるんですか?

小澤 お客さんは6割が日本人、4割が欧米を中心とした外国人です。
山登りの前後に宿泊される方が多いですね。
松本の街巡りを目的とした女性一人旅のお客さんもけっこういらっしゃいます。

――松本にはゲストハウスは多いんですか?

小澤 そうですね、民泊なども含めると40軒近くあるようです。
ゲストハウス同士でもお客さんを紹介し合うなど、仲良くしています。

その中でタビシロのターゲットは、初めてのゲストハウスを利用する人。
なので街歩きのために「タビシロマップ」という地図を用意して、街の人との交流のきっかけも作っています。
松本の人はみんな優しいし話好きなので、街の人とのコミュニケーションの中でこういう旅のスタイルもあるということに気付いてもらえたらいいなと。
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▲タビシロの客室は1~3名用の個室が5室、女性専用ドミトリー(8人部屋)、男女混合ドミトリー(6人部屋)。初めてでも安心のゲストハウスです

――タビシロをベースに旅の提案をされているんですね!

小澤 他のゲストハウスにはない特徴はバーがあることです。
普通は1個大きなテーブルがあってみんなと一緒にそこに座らないといけないというタイプのゲストハウスが多いと思うのですが、いきなりみんなの輪に入りにくい人のためにバーを設置し、夜は僕は中に立っています。

また、日本酒のイベントを開催したり、『アルプスごはん』の金子さんにもケータリングをお願いするなど、お客さんに楽しんでもらう場として活用しています。
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▲利用者が思い思いに自分の時間を過ごすことができるラウンジ

松本の繁忙期は4月から上高地が閉山する11月15日頃までです。
お客さんが少なくなる冬場は、地元の人にゲストハウスに来てもらうようなイベントを企画しています。
例えば東京・中目黒『東京的美味創作台湾食堂 東京台湾』というレストランのイベントやトークライブも開催しました。

――地元の人も集えるゲストハウスは素敵ですね。
そういう店同士のコミュニケーションの機会が増えると、さらに街は盛り上がっていきますね。
小澤さんのこれからの夢は?

小澤 夢はこのタビシロがある城西地区を盛り上げること。
このあたりは空き家がいっぱいあるんです。
お客さんの中にはこっちに移住してきて何か始めたいという人もいますし、地域の人からも相談されることも多いので、物件を紹介したり、人を結びつけたりしています。
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様々なエピソードからは、松本の街をもっと良くしたいという熱い想いが伝わってきました。
次回は『アルプスごはん』でも使われている野菜を育てる農家さんや工芸作家さんを訪ねます。どうぞお楽しみに!


※人をつなぎ、おいしい時間をつむぐ食堂『アルプスごはん』松本探訪記vol.1はこちら

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株式会社ヒュー
株式会社ヒューは「食」を中心とした広告や商品パッケージの撮影から、レシピの開発・提案・クッキングの手配や出版物・WEB・デザイン・SNSを使ったコミュニケーションツールなど多彩にご提案が出来る「食の総合プロデュース会社」です。
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