世界に名を馳せる酒屋『目白田中屋』店主・栗林幸吉氏のお酒にまつわるちょっと良い話

『目白田中屋』
創業1949年、東京・目白駅のほど近くにあるこちらの酒屋は、お酒の業界では知らない人はいないと言っても過言ではない超有名店です。
世界中のお酒が幅広く取り揃えられている中で、特にウイスキーは日本有数の品揃えを誇り、WWA(ワールド・ウイスキー・アワード)で単一小売店部門の世界最優秀小売店として認められました。

今回お話をうかがったのは、こちらの店主の栗林幸吉さんです。
今まで300ヶ所以上の蒸溜所を訪ねて5000種以上を試飲した栗林さんは、まさにウイスキーの生き字引!
ウイスキーのみならずお酒全般に対する膨大な知識を有し、お客さんから生産者まで厚い信頼を寄せられています。
栗林さんにものづくりに対する考え方から人生観までお話をうかがいました。
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インタビューの始まりは、140年前のお酒の試飲から!

栗林幸吉さん(以下敬称略) さて、今日は何を飲もうかな〜。
そうそう、今日は特別なやつがあるんですよ!

これは1877年のアルマニャック。
あるコレクターの方からお年賀でもらったんですよね。

――1877年?!

栗林 そうですよ、西郷隆盛が西南戦争で亡くなった年ですよ。
140年の眠りから覚めたこの子はまろやかな優しい味なんだけど、飲み込んだ後も口の中にずーっと余韻が残るんですね〜。
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▲140年の眠りから覚めたアルマニャック、えも言われぬ良い香りが漂います!


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▲同時に出してもらったのが、シャルトリューズという薬草酒の薬草を漬けこむ前の原酒。こちらも70年もの!

――あぁ、いつまでも続く余韻……。

栗林 これはね、もう時間でしか作れない味ですね。
出来立て酒の飲みやすさとは全然違う。
これはラベルもないし名家ではないんです、名前もないようなどこかの農家のなんとかたろべぇさんがつくったわけですよ。
それがまさか140年後に日本のこんなところで飲まれるとは思ってなかったでしょうね。
楽しくてしょうがない、ハハハ!

やっぱりね、良いものって愛のある人に渡したいじゃないですか。
だってお金持ちだけど性格が悪い人に自分の娘を嫁に出したくないでしょ?
昔あるローマの酒屋が言ってたんです、「うちの顧客には金持ちや有名人とか著名人なんてたくさんいる。でも本当に大切なお酒を売りたい人は数人しかない」ってね。
愛されて飲まれて生涯を終えて欲しいっていう気持ち。
だからこういうお酒をくれた、その人の気持ちが嬉しくってね。

往年のスターたちが飲んでいたウイスキーに惹かれて

――栗林さんはどんな経緯で今のお仕事に就かれたんですか?

栗林 僕は元々酒に興味あったわけじゃなかったんですけど、たまたま学生時代のアルバイト先が原宿の『ZEST』だったんです。
ここは『探偵物語』のロケも行われたお店で、お客さんは松田優作さんとか内田裕也さんとかジョー山中さんとか矢沢永吉さんとか来るようなところでね。
僕はバーテンダーとかホールとかやってたんですど、見てるとかっこいい人たちはみんなウイスキーを飲んでるわけですよ!
そんなにおいしいのかなと思って僕もウイスキーを飲んでみたんですね。
でも当時は味なんて分かんなくて。
でもね、そのうちにだんだんおいしく感じられるようになった気がしたんですよね。

当時はカクテルとかバーボンが流行ってたんですけど、その時に知り合った友達がけっこう感性が良くて、「これからはシングルモルトが来る!」って言うんですよ。
それで一緒に輸入しようっていう話になり、輸入会社を作ったんですよね。
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――時代はバブル絶頂期、儲かったんじゃないですか?!

栗林 アイラモルトとか入れたんですけど、全く売れなくってね……。
会社は結局7年やったけどお金が続かなくて潰れちゃいました。
でもその後だんだんモルトウイスキーブームになってきて、あと2年ぐらいやってたら金持ちになってたのかなな〜んて。

――時代の先を行き過ぎたんですね。

栗林 でもあと1年やったら借金だらけ(笑)!
そんな時代にアイラモルトをおいしいと思って買ってくれていたのが、この田中屋のオーナーだったんですよね。
それで会社潰れた時に僕を拾ってくれて、モルトウイスキーのコーナーを作られせてくれたんですよ。

世界中のものをかっこよく見せるイタリア人

――それからお店に立つようになり一般のお客さんと直接やりとりするようになって、嗜好の変化って感じますか?

栗林 やっぱり2000年に入ったぐらいから明らかに嗜好が変わってきていますよね。
その頃からみんながSNSで情報発信できるようになったからなんじゃない?
昔は大手が打ち出す広告が購買意欲をそそっていたけれど、2000年に入ってからは個人発信をすることが増えてきて、本当に実力があれば広告費もない、営業マンもいないような小さな生産者でも自分たちでも発信できるようになったし、飲んだ人たちも発信してくれて。
だから良いものをつくればちゃんと評価される時代になったんですよね。

――なるほど。

栗林 でもね、本当に良いものつくっていてもつくることで精一杯で知られていないところはまだまだたくさんあって。
僕はメディアが入っていけないような家族経営の小さな蒸溜所を訪れることも多いんだけど、やっぱり行くと伝わるんですよね。
温度とか匂いとか、つくっている人の人柄とか。

僕はね、本当につくり手が好きなんですよ。
だから自分が何をやりたいかっていうと、つくっている人の代わりに売ってあげることなんですよね。
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▲栗林さん作、実際に生産者に会って現地で感じたことが丸ごと詰まったポップ。お酒への愛があふれています!

――栗林さんと出会えたお酒は幸せですね。

栗林 売り方って大事なんですよね。
それで言うとね、イタリア人ってデザイン力とか、物をいかに魅力的に見せて売っていくかっていう能力にものすごく長けてるんです。
Samaroliっていうイタリアのカリスマボトラーもラベルにゴッホの絵を使ったりするわけ。
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▲イタリアのボトラーであるムーン・インポート社から発表された、世界最古の切手が描かれたラベル。イタリアのボトラーのラベルセンスはお見事!
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▲見せ方上手と言えば、フランスも忘れちゃいけません。ジャパニーズウイスキーとして世界で人気のイチローズモルトも、フランスのボトラーであるラ・メゾン・デュ・ウイスキーからはこんなラベルの限定品が出ています

――中身はもちろん、見せ方って大事なんですね!

栗林 そうそう。
Samaroliさんが言ってたのは、「イタリアやフランスには有名な芸術家はいっぱいいる。でも忘れちゃいけないのは優秀なプロモーターやプロデューサーがいっぱいいた国なんだってことだ」って。
だからね、僕もウイスキーをつくる人になりたいなって思ったこともあったんですけど、その言葉を聞いた時に売る人だけが大事なわけじゃなくて役者を一流にするプロデューサーが大事なんだって!

50年、100年先の誰かに想いを馳せた、ロマンあふれるものづくり

――人との出会いの中で今お仕事も決まっていったんですね。

栗林 そうそう、売る側に徹しようってね。
だからつくってる人には一生懸命良いものを作ってください、僕たちが一生懸命売りますからって。
だから僕の使命はプロデュース。
それはhueさんも一緒でしょ?

――そうですね、こちらもクライアントの想いをいかにビジュアルで伝えるかが使命ですね。
栗林さんはこの先の夢はあるんですか?

栗林 僕はね、先を考えないんです。
これはね、友人のリリー・フランキーさんも言ってたんだけど、良いことも悪いことも自分の思い通りになっていないじゃない?
だったら目の前にあるものを着実に取り組んで行くしかなくて、そうすれば世の中がどっかに連れてってくれるのかなって。

――導かれることを楽しめる人生っていいですね。

栗林 僕にとって目の前のことは、お酒を一生懸命売ることなんですよね。
店ではコーディネーターとかスタイリストとして接客して、その人に合うもの、合わないものを見極めるんです。
それが当たってるかどうかは分からないんだけど、何がおもしろいかってね、洋服でも自分では選ばないけど「これ着てみて」って言われて意外と合うなってものってあるじゃない?
それがネットで買うと自分の好みしか買わないわけですよ。
これがネットの最大の欠点でね、洋服でも食べ物でも自分の好みものばかり選んでしまう。

――ネットは便利で何でも手に入るから可能性が無限に広がっていたようで、実は狭めていたんですね。

栗林 で、僕が大事にしているものは、そこにあるのは目の前の人を幸せにしたいっていう気持ち。
せっかく時間とお金をつかってこの店まで来てくれた人にも、何もできないけどせめて来てよかったなって思ってもらいたいんです。
ただそれだけ。

いや~この子たち(酒)はすごいですよ、本当に心を豊かにしてくれる。
ウイスキーって50年熟成とか平気であるけれど、こういうのを見ているとね、そんなに焦って今の自分の成果だけ求めなくても良いんじゃないかなってね。
今自分がつくっているものが今すぐに評価されることも大事だけど、50年後、100年後に誰かを喜ばせるだなんて、そんなロマンティックな話ないじゃないですか!

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インタビューの間にもお店にはバーテンダーから酒愛好家まで多くの人が訪れました。
それはただお酒を買いに来るだけではなく、栗林さんとの会話を楽しみにしている様子。
栗林さんは今日も愛するお酒の生産者の想いをお客さん一人一人に丁寧に伝えます。

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