あの名店の味の秘密も薩摩国にあり、「指宿鰹節」の工場公開!

鹿児島県指宿(いぶすき)市山川。
指宿と聞いて砂風呂を思い浮かべる方も多いと思いますが、特産品の一つに「指宿鰹節」があります。
全国鰹節生産量の3割を占め、鹿児島県の枕崎、静岡県の焼津とともに、鰹節の3大産地に数えられています。

鰹節には、カビ付けを繰り返した「本枯節」と、カビ付けをする前の「荒節」があります。
江戸時代の初めに現在の高知県で誕生したと言われている鰹節ですが、本枯節については江戸に船で輸送する間にカビが付いたことから自然発生的に生まれたという説もあるそう。
そのなごりからか現在でも関西では荒節、関東では本枯節を使う傾向があるようです。

荒節も本枯節も料理や好みによって使い分けられていますが、カビ付けの分、手間と時間がかかるのが本枯節です。
指宿の本枯節は、全国の名だたる料亭でも使われている逸品!
今回取材をした指宿市山川は、この本枯本節の生産については全国シェアの7割を占める、高級鰹節の一大生産地です。
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日本の伝統的な食の文化を支え、海外からも注目される鰹節とはどのようにつくられているのでしょうか。
知っているようで知らない鰹節の秘密に迫ります!

実は知らないことだらけ! 鰹節の世界へワクワクドキドキ潜入取材

今回お邪魔したのは、山吉國澤百馬商店の工場。
山川にある24軒の鰹節工場うち、約10軒が本枯節を作っていて、こちらはそのうちの1軒です。
工場を案内してくださったのは、有限会社山吉國澤百馬商店の専務取締役の國澤知洋さんと、山川水産加工業協同組合の増永昭仁さんです。

山川に着いて車を降りた瞬間から、早速鰹節の良い香り!

工場の中に一歩足を踏み入れると、薄明かりの中で鰹節を茹でる湯気が立ち込める、ちょっと幻想的な光景が広がります。
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▲冷凍された状態で届く鰹は、一晩かけて自然解凍され、朝一番で解体し、カゴに並べて煮ます。

その後骨抜きの作業です。

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▲本枯節はだいたい2.5〜4.5kgの鰹からつくることが多く、それよりも小さいと荒節にするそう。本枯節は骨抜き作業の後、生の鰹の中骨に残った身などをペースト状にしたものを手作業で塗り込み、骨を抜いた隙間からカビが入らないようにきれいにコーティングします。

こうした生処理の加工をだいたい午前中に終え、ここから鰹節を乾燥させていきます。

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▲まずは約80℃の乾燥室の中で2日間かけて乾燥させます。続いて薪の煙が立ち込める燻製室へ。約60℃でじっくりと燻香をつけていきます。毎日11時に薪に火をつけ、夕方には火を消す。そうすることにより、寒暖の差で鰹の身が締まるんだそう。ここまで約3週間掛かります。


荒節はこれで完成!
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▲金属探知機にかけ、異物混入をチェックして出荷されます。

半年かけて丁寧につくられる本枯節はもはや発酵食品!

本枯節の工程はまだまだ続きます。

まずは黒いタールの部分を削ってカビがつきやすくします。
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昔は湿気にあるところにおいて天然のカビを生やしていたそうですが、今は培養し濃縮したカビを水で薄めて噴霧。
その後もっともカビが生えやすい、温度28℃、湿度90%に管理した熟成庫に入れます。

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▲生え始めたカビは青みがかっています。このカビは味噌つくりに欠かせない麹菌と同じく身体にとっても良いもの。この状態の鰹節は荒節とは違い、発酵食品なんです!

カビが生えた後は天日干し。
冬場は乾燥しているので、水分を欲しがるカビは節の中の水分を吸って大きくなり、節は固くなります。
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さらに天日干しにするとカビはだんだん小さくなるので、再び熟成庫へ。
熟成庫と自然乾燥の工程を繰り返していくと、節の中の水分も抜けてより乾燥します。
それを3回ぐらい繰り返し、4〜6ヶ月かけて本枯節は完成します。

こうした一連の作業は全て手作業で行われます。
魚には個体差もありますし、特に本枯節は形も要求されるので機械化は難しいそうです。

知れば納得! 指宿鰹節のブランド力

工場見学後、有限会社山吉國澤百馬商店代表取締役社長の國澤伸二さんにも同席いただき、お話をうかがいました。

――一言に鰹節と言っても、本枯節はさらに手間暇かけてつくっているものなんですね!

國澤伸二さん、知洋さん(以下敬称略) そうですね、なので本枯節をつくっている工場はどんどん減っているんです。
やっぱり人手不足が大きな要因ですね……。
うちの会社でも海外の方を雇用しています。

増永昭仁さん(以下敬称略) 山川水産加工業協同組合全体で見ても、主流は本枯節から荒節に移行しています。
登録業者数自体も減少していて、昔は80社近くありましたが、今は26社になりました。

――荒節と本枯節の価格差は?

増永 1.5倍ぐらいでしょうか。
もうちょっと差があってもいいような……。

――今まで本枯節は高いなと思っていたけれど、この工程を見れば2倍ぐらいの差があっても納得の価格です!

國澤 スーパーに並んでいれば、やっぱり値段でしか判断できないですよね。
でも料理によっては価格が安い荒節の方が合っているものもありますし、一概に荒節が安いからだめということではないんですよ。

――なるほど、それぞれ役目があるんですね。
鰹はどこで獲れるんですか?

國澤 太平洋がメインですね。
うちが使っているのは、屋久島沖やインド洋が多いです。
獲った鰹は漁船の中で凍結して水揚げされます。
季節よっては生のまま仕入れることもありますよ。

――鰹節の加工作業は年間を通して行っているんですか?

國澤 今はそうですね。
冷凍設備がなかった頃は、近海で鰹節が獲れる時期だけ作業したり、獲れる場所に移動しながら加工を行っていたんです。

うちは昭和22年に高知県土佐市で創業。
その後指宿にも工場を持ち、鰹が獲れる時期に合わせて土佐と指宿を行き来し、こちらに落ち着きました。
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▲(左)有限会社山吉國澤百馬商店の専務取締役の國澤知洋さん、(右)代表取締役社長の國澤伸二さん



食材豊富な指宿の鰹節が海を渡る

――新しい取り組みについてうかがいます。
まずは組合としての動きについて教えてください。

増永 2017年4月に山川水産加工業協同組合のロゴマークをつくりました。
鹿児島の鰹節はやっぱり枕崎のイメージが強いんです。
でも産地証明も厳しくなり、各地域でブランドを作っていこうということで「指宿鰹節」ブランドを立ち上げました。
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――イメージの統一は大事ですよね。

増永 それまでは納品するダンボールも工場ごとに違っていたのですが、組合から補助金を出してロゴマークを入れた段ボールを使用することでイメージづくりを進めています。

――周囲の反応はいかがでしたか?

増永 取り扱い業者の意識が変わりましたね。
それまでは鹿児島をひとくくりで見ていたのが、指宿と枕崎の違いを認識してくれるようになりましたし、徐々に浸透してきているかなと思います。

また、市としても指宿は温泉だけではなく、そら豆やスナップエンドウなど食材も豊かな食の町として売り込んで行こうという動きになりました。

――山吉國澤百馬商店さんとしてはどんなことに取り組まれているんですか?

國澤 鰹節の海外普及活動ですね。
ちょうど先日もベトナムで開催された日本フェスティバルに出展してきました。
ベトナムに限らず東南アジアでは和食が人気で、お好み焼きやたこ焼きも食べるそう。
鰹節にも馴染みがあるみたいなんです。

反対に日本では、鰹節が何からできているのか知らなかったり、存在自体を知らないお子さんもいるのが現状ですね。
何年か前に物産展で鰹節を削りながら実演販売をしていた時に、女子高生から「なんで木を削っているの?」なんて言われたことも(笑)。
なので全国各地の小学校で食育の講座も行っています。

――鰹節から出汁をとって料理をする家庭も少なくなってきていますもんね……。

増永 でも今、団塊の世代の方を中心に鰹節削り器を購入される方が増えているんですよ。
この世代の方は、子供の頃におばあちゃんやお母さんのお手伝いで鰹節を削った経験を持つ方も多く、リタイアされて時間ができたから鰹節を削るところから丁寧に料理をしたいという方もいらっしゃるんです。
ぜひ若い方たちにも削り器を使って出汁を取ってほしいですね。

和食の原点であり、世界からも注目される鰹節。
今回の取材を通して、日本の尊い食文化を支える全国各地の人やものについてもっと知りたくなりました!

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