「プリンのシズルはどこにある?」身近だけど知らないことだらけなプリンの世界・後編

株式会社無垢の最高品質責任者で、国際プリン協会の会長であるプリンのスペシャリスト、“プリンせんせい”こと濱口竜平さん。
2019年2月、低温殺菌牛乳やノンホモジナイズの牛乳、平飼いや放し飼いの鶏の有精卵を使用したプリンの専門店『MUKU』(東京都世田谷区奥沢)をオープンした濱口さんを2回にわたってご紹介します。
前編では、濱口さんのプリンの普及活動についてうかがいました(過去の記事はこちら)。
後編では、これからの夢や、誰よりもプリンを深く愛する濱口さんが考えるプリンのシズルについてお話をうかがいました。

濱口さんが無垢な材料を選んだ理由

――お話をうかがっていると、プリンに限らず食全般や生産者の方に対する深い愛情を感じるのですが、何が濱口さんを目覚めさせたのですか?

濱口竜平さん(以下敬称略) 最初はプリン作りだけ行っていたのですが、あるパティシエと話をしていた時に「プリンは簡単で素材の味が前面に出るので、材料さえ良いものを揃えれば、パティシエじゃなくてもおいしいものが作れる。でもプロのパティシエは自分の知識とか技術を活かしたいから(簡単に作れる)プリン屋さんなんてやらないよ」って言われたのです。
それなら僕は良い材料を見つければプロのシェフよりもおいしいものが作れる! と思ったのです。
ここから材料探しの旅が始まりました。
そうすると問屋さんやインターネットに書かれていること以外の、世の中にはまだあまり知られていない酪農や養鶏の現実や、無垢で素敵な材料がいっぱいあることが分かって、知れば知るほどのめり込んでいったのです。


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それと同時に知ったのは、大量生産・大量消費の世の中で、牛や鶏がストレスに囲まれ辛い思いをしているという現実。
例えば採卵用の鶏はただの産卵マシーンのように、A3サイズ程度の床面積にメス同士2羽が押し込められているだけでなく太陽の光を一度も浴びることなく2年程度で一生を終えます。
これは牛も同じような状況で、あの巨体で後ろを向けないような狭い空間の中で閉じ込められて、角を切られて、しっぽを縛られ、本来草食動物なのに穀物主体のエサで育てられ、5年程度で一生を終えるのが大半です。

そういう牧場や養鶏場が多い中、中には牛や鶏をなるべく自然に近い環境でストレスを与えないように飼育している人たちもいます。アニマルウェルフェア(家畜福祉)という考えにも共通しています。
たとえば、岩手県のなかほら牧場です。
なかほら牧場では一年中牛を放牧しており、国内でごくわずかに行われている山地酪農のひとつでもあります。

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こちらには牛舎もなくて、牛1頭当たりの面積は1ヘクタール!
さらに牛全頭に名前をつけています。
普通の牧場では牛舎に入っていて牛追いをしないから名前を呼ぶ必要もないし、個体認識番号しかつけられていません。
なかほら牧場ではスタッフの方々が日々牛の名前を呼び、コミュニケーションを取っているので、それぞれの牛の健康状態はもちろん性格まで知っているのです。

――なんて幸せな牛なんでしょう!

濱口 養鶏場でもごくわずかですが、屋内外の広々としたスペースでオスとメスを放し飼いしているところもあります(一般的な養鶏場にオスはいません)。
大量生産が当たり前の世の中で、牛や鶏をなるべく自然に近い環境で飼育している人たちのことを知ったので、たとえ原材料費は高くなっても僕はこういう無垢な材料を使いたいなと思ったんです。
それによって微力だけど生産者が業態を維持する力になることができますしね。

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▲写真提供 なかほら牧場

生産者の想いを伝えるためにプリンを作る

――濱口さんは今でも生産者のもとを訪れていらっしゃるのですか?

濱口 そうですね、うちのプリンで使う材料も1ヶ所に固定しないで常により良い材料を求めて生産者を訪ねています。
牧場と養鶏場を合わせて50軒以上は行きましたね。

また、プリンのコンサルティングの仕事もしているので、クライアントさんの地域の中で良質な材料を探したり、最近では牧場や養鶏場の方からぜひ見学しに来てくださいというお話をいただくこともあります。

――全国各地を回られている中で、今地方はどんな問題を抱えていると感じますか?

濱口 生産者の方は経営が苦手な方が多い、ということでしょうか。
また高齢化で跡継ぎもいないので自分の代で畜産や酪農や養鶏や農業を辞めるという方も多くいらっしゃいます。
でもその反面、今まで作るところから売るところまで全てJAなどを通していた農家さんが、最近は自分でインターネットを使って売り先を見つけているという方もいらっしゃいます。
せっかく生産者側が一生懸命頑張ってくれているので、食べる側ももっと現状を知ってもいいなあと思うし、そういう現状を伝えるツールのひとつとしてもプリンを作っています。
だからプリンを売る時もなるべくお客さんとコミュニケーションを取って、生産者の想いや現状も伝えるようにしていますよ。


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Made in Japanのプリンが世界を救う

――濱口さんのこれから夢について教えてください。

濱口 牛と鶏は世界中にいてあまり輸出入に頼らなくてもいいので、プリンという商品にすることで雇用の増進につながるし、外貨も獲得できると考えています。
その時に伝えたいのは僕のプリンの作り方です。
僕のプリンの製法は、蓋つきの瓶で蓋を閉めながら蒸すのですが、この作り方で衛生面を考慮して製造すると冷蔵庫で1ヶ月ぐらい日持ちします!
ロス率も低いですし、ビジネスとしても良いことばかりです。
こういうMade in Japanのプリンの作り方を世界中に広めて、地域活性化にもつなげていきたいですね。

――国内ではどんなビジネスを考えていらっしゃるのですか?

濱口 もう既に行っているのですが、クライアントさんのプリンのOEM(他ブランド製品の製造)を受注しています。
具体的にはその店の料理のテイストやクライアントさんの希望に合わせたプリンを製造しています。
例えば、あるラーメン屋さんはにぼし系のドロッとしたスープなので、口の中をさっぱりさせつつ、にぼしの香ばしさを消さないようにするために、麦茶テイストのプリンにすればラーメンやのぼしの余韻も楽しめるかな? とか。
OEMからスタートして、売れるようであれば作り方を伝えてコンサルティングとして関わっていくことも考えています。

また、酪農や養鶏の経営に携わりたいです。
先程お話ししたなかほら牧場さんにも東京に運営会社があり価値を伝える売り方や経営をしっかりやっているので、牧場側は牛の世話をはじめ牛乳の瓶詰や、ヨーグルト、アイスクリーム、バター、プリンまでの製造関係に専念できています。
全て自社でできるところは強みですよね。
僕も経営が得意ではない酪農や養鶏の事業者さんをサポートすることで、生産者の方の力になれたら嬉しいですね。

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無垢な材料はシズルを作る

――誰よりも深くプリンを愛する濱口さんにとって、プリンのシズルとはなんですか?

濱口 一般的なプリンのシズルは、艶だったり、カラメルのしたたる様子なのかなと思うのですけど、もう少し深い意味でプリンが牛乳と卵という生命そのもので作られているという本質的な部分にこそ裏シズルというか真のシズルがあるかなと思います。
僕の考えでは裏シズルっておいしさの手前にあることだと思います。
原材料にどういう想いで作っている人たちの材料が使われているのか。
大切に育てられた牛や鶏の無垢な材料を使った商品には情緒や魂が宿っていますよね。

――表現する側もそれを理解しないといけないということですよね?
表向きの解釈で表現することは簡単なのですが、その先にあるものを表現することが難しいのです。
だから食べてから撮るだけでも表現は変わってくるし、原材料を作っている現場を見てから撮るのとではまた全然違ってきますよね。
写真では視覚にしか訴えられないので全てを伝えることは難しいけれど、その先のストーリーを知るきっかけづくりができればいいなと思っています。

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2回にわたってお届けした、身近だけど実は知らないことだらけだったプリンの世界。
生産者の想いは、濱口さんによってシズルあふれるプリンとなって丁寧に伝えられています。
これからの濱口さんのご活動もどうぞお楽しみに!

店舗情報:
プリンのMUKU
住所:〒158-0083 東京都世田谷区奥沢 3-31-10
アクセス:奥沢駅より徒歩1.5分/自由が丘駅南口より徒歩8分
営業時間:11時〜18時 毎週木曜定休
電話番号:03-6451-7675
メールアドレス:info@mukulife.jp


※「世界に羽ばたけ、ナチュラルなスーパーフード」身近だけど知らないことだらけなプリンの世界・前編はこちら

著者プロフィール

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