聞けば聞くほど飲みたくなる、『大和桜酒造』杜氏・若松徹幹さんの芋焼酎の話

今回訪れたのは、鹿児島県北西部に位置するいちき串木野市。
東シナ海と山々に囲まれた地形や温暖な気候など豊かな自然に恵まれたこの土地に、芋焼酎『大和桜』をつくっている蔵があります。
お話をうかがったのは、『大和桜酒造株式会社』5代目杜氏・若松徹幹さんです。
芋焼酎のつくり方やこれからの可能性についてお話をうかがいました。

焼酎は醸造酒と蒸留酒のハイブリッド

――まずは『大和桜酒造』の歴史について教えてください。

若松さん(以下敬称略) 嘉永年間(江戸時代末期)創業で、僕は5代目です。
元々は醤油をつくっていて、明治に入ってから焼酎をつくり始めました。

『大和桜』のラベルは、なんとニッカウヰスキーのラベルやポスターを手掛けたデザイナー・大高重治氏の最後のデザインなんです!
彼は竹鶴政孝氏さんも重用したデザイナーで、ご夫婦のお墓のレリーフも手掛けられています。
当蔵の宝物ですね。

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――どこか見覚えのあるデザインだと思ったら、大御所でした!
焼酎はどうやってつくられるのでしょう?

若松 うちでは、鹿児島県産のお米を洗って蒸し、焼酎用の麹菌を振って麹米をつくり、水と焼酎用の鹿児島県協会2号酵母と一緒に甕の中に入れて一次仕込み、そこに主原料となる蒸したさつまいもを加えて二次仕込みを行います。
そこでできた醪(もろみ)を蒸留して、1~2年の熟成期間を経てから出荷しています。

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▲江戸末期から明治にかけてハンドメイドで作られた和甕。ほぼ骨董品です!

ただこのやり方では量がつくれないので、一般的な蔵ではドラムという大きな機械で麹をどかんと作っちゃうところが多いですね。
うちみたいに伝統製法でつくっているところは鹿児島でも限られています。

でも芋焼酎の製造工程は、大手も小さいところもほぼ同じレシピですし、完成品も化学的に見れば99.7%、成分は同じなんです。
それがコンマ数%の差から味わいの違いにつながっていくところがとってもおもしろいところなんですよ。

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ランドスケープありきで生まれたお酒

――そもそもなぜ鹿児島で芋焼酎がつくられるようになったのでしょう?

若松 この土地は火山灰が堆積してできたシラス台地なので、米づくりには向いていません。
でも酒はつくりたい。
そこで生まれたのが、さつまいもを原料にしてつくった芋焼酎です。
さらに焼酎用の麹菌は、クエン酸を出すので酸っぱい甘酒みたいなもろみができるんですが、それが自然の防腐剤となってこの南国の地でもアルコール発酵することができるんですよ。

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――なるほど、芋焼酎はこの土地の気候や風土と切っても切り離せない関係にあるんですね。

若松 そうなんです!
今、日本酒ではローカルで米をつくるということを売りにしているけれど、焼酎はそうせざるを得なかった。
単純に「地元の食材を使っているからローカル」というだけではく芋焼酎はその土地の風土や気候があってこそできた酒であることを、これから広めていきたいですね。

芋焼酎には旬のさつまいもの味と香りが凝縮!

――焼酎づくりは何名で行っているのでしょう?

若松 芋はおばちゃん達が切ってくれますが、二次仕込みまではほぼ一人でやっています。
僕はしょっちゅう各地のイベントに飛び回っているイメージがあるみたいなんですが、仕込みの時期は蔵から動かないんですよ(笑)。

――お一人とは驚きです!
仕込みの時期はいつ頃ですか?

若松 9~12月で、これはさつまいものハーベストシーズンに当たります。
実は芋焼酎には収穫したての新鮮な芋しか使えません。
芋焼酎は醸造のプロセスを経た蒸留酒です。
蒸留とは、ピークの時の花の香りを閉じ込めて香水をつくるように、旬のさつまいもの味と香りを凝縮する錬金術なんです!
だからこの時期は毎日掘りたての泥だらけのさつまいもを溝まできれいに洗い続けます。
僕のことをイベントでしか見たことない人が初めてこの蔵に来ると、意外とちゃんと働いているから驚くんですよね(笑)。

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でもこれってすごく大事なことでね、自分が現場に立つことで品質マネジメントになるんです。
その姿を見ると業者の人もいい加減なものは持って来られなくなります。
それに例えダメなものがあっても僕は黙って自分の仕事を淡々と続けます。

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――それは何よりもプレッシャーですね。

若松 その繰り返しで良いものを持ってきてもらう。
10年ぐらいはかかりましたけど、そうやってお互いに信頼関係を築いていきました。

過去も未来も日本の救世主・さつまいもの力

――貴重な焼酎、買える場所は限られているのでしょうか?

若松 出荷場所はあまり限定しないようにしています。
ブームの時に往々してあったのは、いかに手に入りづらくするかということ。
でも僕は手に入らないことが価値になるのはダサいと思ったんです。
それって本当にその酒が欲しいわけではない。
そこにしかなくてつくり手の想いを“pass the baton”してくれる酒屋さんはもちろん、同じように価値観を共有でき、自分がおもしろいと思ったところにも、うちは自由に出荷しています。

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――芋焼酎の海外での評判はいかがですか?

若松 海外では無色の蒸留酒は安物の酒として見られますし、おまけに原材料であるさつまいもは家畜の飼料だから驚かれるんですよ。
でも、今フードロスなど様々なアクションがある中で、痩せた土地でも育ち、歴史上でも数々の飢饉から人々を救ってきたさつまいもを原料とすることで、さつまいもの価値を上げているという点も啓蒙していきたいですね。
そこから焼酎ブーム後の新しいフェーズが見えてくるのかな。

でもまずは国内ですね。
焼酎がさつまいもの蒸留酒であることや焼酎のおもしろさを僕の年代で分かる人が少ないので、きちんと伝えていきたいですね。

軽妙な語り口で芋焼酎の魅力を熱く伝える若松さん。
若き担い手によって日本の食文化の明るい未来がつくられています。

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