「料理道具から生まれるシズルとは?」老舗料理道具屋『釜浅商店』・後編

料理道具の聖地、合羽橋。世界的に見てもこれだけ料理道具の専門店が集まる場所は珍しく、プロ・アマ問わず国内外から多くの人が訪れています。
その商店街の中心部に今年創業111年を迎える料理道具屋『釜浅商店』はあります。
2019年7月1日に新商品『釜浅のごはん釜 3合炊』を発売した、4代目代表・熊澤大介さんにうかがったお話を全2回にわたってご紹介します。
後編ではパリにある支店のお話や、料理道具とシズルの関係についてうかがいました。 

フランス・パリの一等地に支店を出店! 

――『釜浅商店』は2018年にパリ支店を出されましたが、海外出店先としてパリを選ばれた理由について教えてください。

熊澤大介さん(以下敬称略) パリは食の都ですし、そこで認めてもらうことに可能性を感じました。
また、フランスには気に入れば丁寧に長く使う文化がありますし、そういう国民の気質として、ものの本質についても理解してもらえるのではないかと考えたんです。
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パリに出店したもう一つの理由は、元々うちのお客さんも多かったということ。
今、パリのフランス料理店にはたくさんの日本人シェフいます。
その中には元々日本にいた時にうちのお客さんだった方も多く、現地でもうちの道具を使っていると同僚から、「どこで買ったの?」と聞かれるとか。
そこから少しずつ口コミで広がっていったんです。 

――なるほど!
そういう広まり方もあるんですね。
実際に店舗展開をしてみて、現地の方からどんな反応がありましたか? 

熊澤 お店を出したのは1年前ですが、その5年前からポップアップストアを計5回ほど展開することで、さらにうちのことを知ってくれる方も増えていきました。
時間をかけて地固めをしてきたので、パリ支店も受け入れてもらえています。 
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海外からも絶賛される日本の包丁 

――パリ出店以外にも世界各地でイベントを行っていらっしゃいますが、海外の方は日本の料理道具のどんなところに興味を持ちますか?

熊澤 特に包丁に対する反応はいいですね。
やはり切れ味には驚かれます。
日本と西洋では、包丁に対する考え方が違います。
日本の包丁はいかに切り口をきれいに見せられるかということを重視します。
たとえばお刺身は、切った時に角がきちんと立っていることが重要です。
それが口に入れた時の食感、そして味につながっていくんです。
それに対して西洋の包丁は、ものを切り分けるための道具であり、ぶった切ってでも切り分けられればいいものでした。
ところがここ最近では、日本料理の繊細さやきれいさが広まり、その技法についても各国の料理に取り入れられています。
そこで必要となってくるのが、日本の包丁なんです。 
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――今までも海外で日本の包丁は売られていたのでしょうか?

熊澤 ありましたが、決まったブランドがけっこうな値段でただ並べて売られているだけなんですよね。
買ったはいいけれど、手入れの方法については誰も教えてくれない。
実際に日本の包丁を買った海外の料理人の方からは、「切れなくなったからしまい込んでいる」とか「錆びちゃったから捨てちゃった」なんていう話も!
売る時に手入れの部分まできちんと伝えられていないからこういうことが起こってしまうわけで、せっかく日本の料理道具に興味を持ってくれたのに、こんなものかと思われてしまったらもったいないですよね。
こういう中途半端な情報で料理道具が使われていることに対して危機感もあって、自分たちで現地に赴いて合羽橋と同じような接客で伝える必要を感じました。 

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料理道具に宿るシズルを探る

――今回熊澤さんからお話をうかがうにあたって、料理道具とシズルの関係について考えてみました。
以前うちのスタジオで木のまな板の上で卵焼きを切る撮影があったんです。
スタイリストさんが新品のまな板を買ってきてくれたんですが、撮影するといまいち味が出ない。
そこで社内に「自宅にあるまな板を持ってきてください」とアナウンスを流し、まな板オーディションを行いました。
集めてみると、味のあるものと、使い込まれて少し汚いものとの境界線が難しいんですよね。
欲しかったものは、程よく手入れされていて包丁の傷跡が残っているもの。
それは絵としてメインの卵焼きの下でちょっとしか映らないんですが、それがあるかないかでは大違いなんです。
その時、料理道具のシズルを感じましたね。
そのシズル感は新品にちょっと傷を付けただけじゃ出せないなと。

熊澤 なるほど!
道具に背景や物語が見えるからでしょうね。
うちは鉄のものが多いんですが、あれはやっぱり使って育てていく道具なので、買った今日よりも使い込んだ数年後の方が確実に良い道具に育っていますよ、とお伝えしています。
うちで扱っている商品は、華美な装飾があるわけでもありませんし、派手さもありません。
機能を果たすということを突き詰めていった結果、素材やサイズが決まっていったものです。
そこに趣が感じられたり、かっこよく見えるということが「用の美」なのかな。
その空気感もシズルにつながっているんじゃないかなと思います。 

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職人の想いを伝える道具屋

――熊澤さんのこれからの夢について教えてください。

熊澤 基本的には同じことをやり続けるだけだと思います。
ただ今の時代、合羽橋で待っているだけではだめで、自分たちから出て行かないといけないのかなと。
パリに出店したり、イギリスやアメリカでイベントを行うのは、扱っているものに対して自信がありますし本当に良いものだと思っているので、より多くの人に知ってもらいたいという想いがあるんです。
でも無理やり宣伝するだけではうまく伝わらないと思うんです。
丁寧に伝えていくことで、同じような考えを持った方が集まったりと、自然発生的に輪が広がっていきます。

また、リブランディングも人の輪が広がるきっかけとなりました。
異業種の方からもおもしろそうな話をいただくようになりましたし。
同じような感覚や考え方を持った方たちとこれから新しいことにも取り組んでいきたいですね。 

――伝統や歴史は伝えていかなければ途絶えてしまうんですよね。

熊澤 僕らはものを作っているわけではありません。
作ってくれる方たちがいて初めて成り立つ商売なんです。
だからその方たちときちんと向き合っていかないといけないし、その方たちの想いを代弁していかなければいけません。
先日の新商品である南部鉄器は製造工程も分業制なので、作っている方たちでも完成形が見えなかったり、ましてどんなところで売っていて、どんな人が使っているかなんて分からないと思うんですよ。
だから今回の新商品発表についても様々なメディアなどで取り上げていただいているので、そういうことは共有するようにしています。
それが仕事のモチベーションや信頼関係につながっていくと思います。 
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丁寧に手入れをしながら使うことで育っていく料理道具。
そこからはシズル感も生まれます。
『釜浅商店』には食卓を、そして暮らしを彩る料理道具があります。

INFO:
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