食から広がる壮大なプロジェクト『ひより保育園』の話・後編

鹿児島県霧島市にある『ひより保育園』
姉妹園として2018年3月につくられた『そらのまちほいくえん』は、鹿児島市の中心部である天文館の繁華街のビルの1~3階にあります。
さらに3階には地域との交流スペースを設けられており、アーティストや専門家を招いたワークショップやセミナーなど幅広い世代の方が交わる場となっています。
またこちらの保育園には『そらのまち総菜店』が併設され、地元の方々に愛されています。
街中のビルにある保育園と、広い園庭のある保育園。
周辺環境は異なりますが、どちらにも共通していることは「食」を中心にした保育園であるということ。
代表を務められている古川理沙さんに保育園を始められた経緯やこれからのお話をうかがいました。
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鹿児島市内にある姉妹園『そらのまちほいくえん』

――『そらのまちほいくえん』をオープンした経緯を教えてください。

古川理沙さん(以下敬称略) 『ひより保育園』の開園前から、鹿児島市内にも保育園をつくってほしいという要望があったのと、鹿児島県民の憧れである天文館に保育園をつくり、それで町が今以上に活性化できればと考えました。
また、『ひより保育園』を見学に来てくださる方々の中に「ひより保育園は広い敷地や庭があるからこういう教育ができるけど、うちはそういう環境ではないからできない」とおっしゃる方も少なくなかったので、私たちの目指す保育は場所ありきではないことを伝えたいという想いもありました。

この建物は元々書店で、書店が店を閉じた後はパチスロ店。
私たちが保育園として入居する前は3、4年空きテナントのままでした。

『そらのまちほいくえん』『ひより保育園』同様、3年かけて段階的に定員を増やしています。
来年がその3年目で、園児数が定員いっぱいになると約80組の親子がこの通りを毎日徒歩で2往復することになります。

――それは市場としては大きいですね!

古川 はい。小さいことかもしれませんが、大きいことだと思っています。 
商店街の中の空き物件もだんだん埋まってきて、通りの皆さんからも「街が明るくなった」と喜んでいただいています。

『そらのまちほいくえん』『ひより保育園』とコンセプトは同じで、「食べること」に力を入れています。
また、子どもたちって自分の将来を考える時、当然ですが「知っている職業しか想像できない」という現実があります。
ここでは、例えば開店前にお店の前をきれいに掃除する大人たちの姿や、真剣に仕事に向き合っているたくさんの大人たちを日常的に目にすることができます。
そういう大人たちから愛されて育った経験が彼らの「根っこ」になって、一人でも「自分はこの街に育てられた」と感じる子が生まれたらステキだなと思っています。
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――『そらのまちほいくえん』には『そらのまち総菜店』が併設されていますね。

古川 本当は『ひより保育園』の近くにも作りたいんですが、『そらのまちほいくえん』の方が先になってしまいました。

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――総菜店は誰に向けてつくったのでしょう?

古川 まずは保護者の皆さんです。
保育園に子どもを預けているということは、両親ともにお仕事をしていらっしゃるということです。
我が子のために食を大事にしたいという思いはあっても、毎日仕事をしているとなかなか思うようにいかないこともある。
そんな中でたまに罪悪感なく手が抜ける場所があれば、心にゆとりを持って子どもとの時間が過ごせるのではないか。
私も娘が2人いますが、バタバタと仕事を終えてお迎えに行って、おなかをすかせた子どもを連れて買い物に行き、晩ご飯ができあがる頃には子どもたちはもう眠くて……という日々を過ごしていたので、お迎えついでに晩ごはんが調達できると助かるなと、単純に自分の欲しいものをつくったという感じでしょうか。

さらに保育園で働く職員にも仕事帰りに利用してもらえればいいなと考えました。 

また、このあたりは一人で店番をしてらっしゃるお店なども多いので、旬の食材で作られたお弁当をパッと買って帰れることをとても喜んでいただいています。
不定期ですが、総菜店のメニューにその日の保育園の給食と同じメニューが並ぶことがあります。
街の皆さんと園児とが同じものを食べている。
「同じ釡の飯を食う」という言葉がありますが、そういうことも居心地のいい街を作る上で、小さいけれど意味があることだと思っています。

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また、総菜店には、保育園のことを知ってもらうという目的もあります。
『そらのまちほいくえんに興味を持ってくださった保護者さんでも、「園見学を申し込む」ということは少しハードルが高く感じられたりしますが、総菜店であれば気軽に給食の味を楽しめたり、スタッフの雰囲気を感じたりできます。

古川さん自身が受けた食の英才教育

――古川さんが保育園を始めたきっかけは?

古川 もともと私は、外国人に日本語を「外国語として」教えるという仕事をしていました。
大学卒業後、韓国で教鞭をとっている時に、プリンストン大学の牧野誠一先生という方に師事し、全米外国語教育協会(ACTFL)の資格を取りました。
振り返ってみればそれ以来、授業だけでなく私の会社経営のやり方などにも大きな影響を与えた資格です。
一言で言うと、どうやって教えるかではなく、どうやって「できなくて悔しい」とか「もっと学びたい」と思ってもらうような接し方をするかということに重きを置いたメソ ッドです。
実際にそのやり方で学習者がグングン力をつけていくのを目の当たりにしていたので、先生が手取り足取り丁寧に教えてあげる教育とは違ったやり方も、一つの選択肢としてあってもいいのではないかと考えました。

また、13年前に起業した会社が、出産祝いの専門店をやっていたことも大きなきっかけの一つになりました。
起業してずいぶん後になってから気づいたんですが、うちの商品をお受け取りになる方は全員、今出産が終わったばかりの女性だということ。
出産後の悩みって一過性のものが多いので、振り返る頃になると「どうして私はあの時こんなに悩んでたんだろう」と思えるような小さなことも、渦中の本人にとっては大きな問題だったりします。
だから同じ女性であっても、親と(今この瞬間の)私とでは問題の捉え方が大きく違ったりということも多くて。
しかしうちのお客さんであれば、例えば3ヶ月前に商品をお届けした方は今日商品をお届けする方の「ちょうどいい先輩」だったりするんです。
これから自分が直面するであろう課題を、ほんの少し前に乗り越えたばかりの人たちなので。
そうであれば、私たちがそれらの情報をうまく整理することで何かのお役に立てるかもしれないと思い、過去に商品をお届けしたお客様たちや、知り合いの栄養士から情報を集めて離乳食についての小冊子を作って出産祝いと一緒にお届けするようにしました。
だいたい「出産」の次に直面する課題が「離乳食」だからです。
その冊子が、『ひより保育園『そらのまちほいくえんの土台になっています。

――古川さんご自身はどんな教育を受けてきたのでしょう?

古川 実家は両親とおじ夫婦の四人で飲食店を営んでおり、私は小さい頃から厨房やカウンターをうろうろしていました。
小学校に上がる前、おじが私にペティナイフを渡し、「これで鉛筆削りとリンゴの皮剥きができるようになったら店にあるものを使っていいよ」と言ってくれたんです。

そういう経験があったからか、私も自分の子供たちには保育園の頃からキッチンに立たせていました。
今私の子供は小学校5年生と3年生の姉妹ですが、上の子が年長さんの時には下の子の遠足のお弁当を作っていましたよ。
もちろん気まぐれな子どもなので、毎回というわけではないですが。 

――それはすごい!

古川 子どもが包丁を持てば怪我をすることもあるし、お味噌汁がすごく濃くなったり、玉子焼きは何度も失敗してスクランブルエッグになったり。
でも、小さい怪我を繰り返しながら自分の感覚を育てていくことが、大きな怪我を未然に防ぐ唯一の方法だと私たちは考えています。
大人の私たちも同じように包丁で手を切ったり、味付けを失敗したりしますから、子どもだから手を切るというわけではないんです。
むしろ子どもたちは月齢が低ければ低いほど、危ないものを正しく怖がる力があります。
「これは危ないものだよ」ときちんと教えた上で正しく使う機会を持つことはとても大切です。

想いを丁寧に伝える情報発信力

――こちらの保育園はホームページの写真や動画、SNSなど情報発信力もすごいですよね。

古川 そうですね。
私たちが普段考えていることを多くの方に知ってもらいたいという想いもありますし、うちで働きたいと興味を持ってくださる先生方とのミスマッチを未然に防ぎたいという想いもあります。
『ひより保育園』『そらのまちほいくえん』も開園ギリギリまで園舎がなかったので、ホームページやロゴなどのデザインや文章で園の雰囲気を感じ取っていただけるように力を入れました。

――写真や動画はどなたが撮影されているのでしょう?

古川 職員が撮っています。
私も一部の職員もプロのカメラマンから撮影の基本について教わりました。

――今の時代、お子さんの顔写真を出すことも色々と難しいと思います。

古川 入園時にお子さんのSNS掲載については全保護者さんにご意向を確認し、それに沿う形で発信をするようにしています。
自分のお子さんが掲載されて喜んでくださる保護者さんの方が圧倒的に多いです。
だからこそ「かわいく、魅力的に撮る」ことを大切にしています。

――どの写真もお子さんたちのことを熟知しているからこそ撮れる、自然な表情で、日常の良い瞬間を切り取っているなと思いました。
関係値ができていないと撮れない写真ってあるんですよね。

古川 一人一人にフォーカスをあてて、食事のシーンなど普段の様子や友達との関係性が分かるような写真を撮るようにしています。
そういう写真が連絡帳代わりにもなっているんです。
ご両親だけでなく、遠方にいるおじいちゃんやおばあちゃんも楽しみにしているそうで喜ばれています!
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食の力を幅広い世代に向けて届けたい

――これからやりたいことや動き始めていることがありますか?

古川 まずは、うちの卒園児たちが通える小学校を作りたいと思っていて、今色々と勉強をしているところです。
また、保育園やワークショップなどでの取り組みを多くの人に知ってもらいたくて、出版業も始めました。
本を出版することによって、子育て中のみなさんの気持ちがもっと楽になったり、日々努力を重ねている現場の先生たちの自信に繋がったりするとステキだなと思っています。

その他には、保育園で使っている味噌やダシなど鹿児島の食材を使った商品の開発や子ども包丁などの企画販売なども行なっています。
私たちの力は小さいですが、よりよい「食」のために 日々踏ん張っているみなさんの支えになりたいという想いでいろいろな活動を行なっていますので、今後も鹿児島の食のおいしさを広く発信していければと考えています。


「食」を通して学び、すくすくと育っていく園児たち。
10年後、20年後、園児たちがどうなっていくのか楽しみです!

INFO:
『ひより保育園』の食育活動をベースに、園外の方にも料理の楽しさを味わっていただきたいという想いから企画されたレシピ本が完成しました!
幼稚園や保育園に通う子どもたちでも、パッと見て内容が理解しやすいよう、現場の先生たちのアイディアをぎゅっと詰め込んでいます。
詳細はこちら

著者プロフィール

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株式会社ヒュー
株式会社ヒューは「食」を中心とした広告や商品パッケージの撮影から、レシピの開発・提案・クッキングの手配や出版物・WEB・デザイン・SNSを使ったコミュニケーションツールなど多彩にご提案が出来る「食の総合プロデュース会社」です。
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