船上から始まる鮮度との戦い、愛媛県佐田岬のしらすの話

「本日生しらす入荷しました」
漁港近くの食堂まで足をのばした時、この看板を見かけるとちょっと嬉しくなります。
しかしなぜ生しらすはなかなか味わうことができないの?
そもそもしらすって何の魚?
旬はいつ?
小さいけれどあなどれない、しらすの秘密に迫ります。

しらすは大きくなったら何になる?

しらすは大きく育つと何の魚になるのでしょう?
それは主にカタクチイワシです。
マイワシやウルメイワシの稚魚もしらすとして流通していますが、流通量としてはカタクチイワシの稚魚が最も多いとされています。
しらすの旬は年に2回で春と秋。
生しらす入荷の看板を見かけるのもこの季節です。
しらすが水揚げされる産地は太平洋沿岸で、瀬戸内海、駿河湾、相模湾なども漁獲量が多いことで知られています。

今回訪れたのは、愛媛県西宇和郡伊方町にある佐田岬半島。
四国最西端に位置し、瀬戸内海と太平洋をつなぐ豊後水道に突出する日本一細長い半島です。
まさにしらす漁獲量の多い海に囲まれ、かつプランクトンが豊富な一帯ということで、全国でも有数のしらす漁場となっています。
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この半島でしらす漁を行なっているのが朝日共販株式会社
自社専属の漁師と漁船を持つ網元で、獲れたてのしらす加工も行っています。
また、新鮮しらすを楽しんでもらうための施設として『しらすパーク』を運営しています。
こちらでは、工場直売店、しらす食堂、工場見学コース、佐田岬の資料展示スペースなどを併設し、しらすの魅力を存分に味わうことができます。
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漁船に乗ってしらす漁を初体験

ではしらすはどのように獲るのでしょうか。
実際に漁船に乗ってしらす漁を体験してきました。
漁体験.jpg
朝日共販株式会社では、毎日12艘(そう)の船と20名の漁師が日の出から日の入りまで漁を行っています。
漁は2艘の船で網を引く「パッチ網漁法」というもので行われます。
しらすはデリケートなので、網は人間が歩くぐらいのスピードでゆっくりと引き揚げます。
創業90周年を迎えた朝日共販株式会社ですが、創業当初は数100キロある網を手作業で引き揚げるという大変な作業を行っていましたが、機械化が進むことで生産性も高まり漁師の暮らしも豊かになっていったそうです。
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▲今回のしらす漁体験では1艘引きの様子を見せてもらいました


獲れるしらすのサイズは場所や季節によって異なるそう。
納入先の好みに合わせて選定したり、サイズに合った加工を行うそうです。
また、春は小ぶりで柔らかな食感、秋はもう少し大ぶりで脂がのって、異なる旬の味わいを楽しむことができます。
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獲ったしらすは船上にあるイケマという保管場所へ吸い上げられます。
この時、漁師はしらすの量を見て海水と氷のバランスを決め、しらすと一緒にイケマに投入します。
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水温は高くてもだめ、かといって氷が多すぎてもしらすは白くふやけたような状態になってしまうそうで、このブレンド加減が鮮度を保つ秘訣だとか。
水揚げが終わると、獲れたしらすの量に関わらず急いで港へと戻ります。
これは鮮度が命のしらすをいち早く加工するためで、船は漁場と港をなんと1日に6~8回も行き来するそうです!

船の上から加工まで20分! 超新鮮釜揚げしらすの味わいやいかに

港では獲れたてのしらすを工場へ運ぶ準備が整っています。
そのため漁を終えてから工場に届くまでの時間は、約20分。
漁場が工場の目の前にあるという立地は、あしの早いしらすにとっては好条件です!
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朝日共販株式会社の工場は敷地面積3000坪、工場の広さは1500坪と、しらすの工場の中で日本有数の広さを誇ります。
まずは自動釜の中でしらすをボイル。
完全無添加で、加えられるのは讃岐の塩のみです。
100度で約3分間ボイル、その後一気に20度まで冷却し、釜揚げしらすが完成します。
素早く冷ますことで雑菌の繁殖を防ぎ、鮮度が保たれるそうです。
漁場で水揚げされてからここまでの時間、わずか1時間!
このスピードで加工までできるのは全国でも稀な環境です。
船の上から始まる鮮度との戦いは日々こうして繰り返されています。

こちらの漁場でしらす漁が行われるのは4月から11月までの7ヶ月間です。
しかし朝日共販株式会社では一年を通して安定して鮮度の良い商品を消費者へ届けるため、約500トン収納可能な冷凍倉庫を保有し、特殊な技術で急速冷凍したしらすを保管しています。
こうした冷凍技術もここ10年で向上し、より新鮮でおいしいしらすを全国に届けられるようになったそう。
そして「水揚げから出荷まで魚に手を触れない」というポリシーのもと、選別機にかけられて出荷されます。
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▲生しらすと、獲ってから1時間で釜揚げされたしらすを贅沢に乗せた丼ぶり。生しらすの甘味も釜揚げしらすの凝縮された旨味も絶品です! 横に添えられているのは「あかもく」という海藻。ワカメ、メカブと同じ褐藻類の海藻で、地域によっては「ぎばさ」「ぎんばそう」と呼ばれています。やさしい磯の香りと粘り気がしらすの旨味を包み込みます


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▲ピザにしてもアヒージョにしても、より風味が引き立つ小魚丸ごと完全食のしらすがあれば料理のバリエーションは無限に広がります

地域活性化に向けて佐田岬ブランドを発信

このように網元でありながら工場で加工も手掛ける朝日共販株式会社は、従業員数200名を超え、年商60億円の企業です。
創業90周年を迎える老舗企業ですが、ここまで来るには苦難の道のりがあったそう。
現在代表取締役を務める福島大朝さんは、ここ愛媛県伊方町生まれ。
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大阪の大学に進学し、大阪で就職するつもりだった福島さんですが、大学4年生の時に漁業を営んでいたお父様が倒れ家業を継ぐことになります。
福島さんが入社された頃はまだ機械化も進んでおらず、漁から加工まで全て手作業という大変な重労働でしたが、当時は海に活気があり魚価も良かったため、漁業に明るい未来を感じ、また漁師という仕事を自らの天職だと思っていたそう。
しかしバブルがはじけ、原油が高騰して魚価が下がり、今までの3倍近くの漁獲量をあげないと利益が得られなくなります。
その時に思い付いたのが6次産業化です。
工場や食堂を持つ企業の経営者として漁業の価値を高めて従業員の働く環境を整えるという改革を行い、地域に雇用を生むことで地元にも貢献するということを目指しました。

そしてこの度新たな取り組みとして、2020年4月にリニューアルオープンする伊方町観光交流拠点施設『佐田岬はなはな』の運営管理を朝日共販株式会社が行うことになりました。
佐田岬はしらすに限らず、さざえやあわび、鯛など豊かな海の幸や、柑橘類をはじめとした山の幸にも恵まれた場所でもあります。
施設ではそうした佐田岬の魅力を直販所、食堂、カフェを通じて存分に楽しむことができます。
福島さんはここを拠点に佐田岬ブランドを発信し、再び地域住民のため活性化の一役を担っていくことを目指しています。

町全体が再び動き出そうとしている愛媛県西宇和郡伊方町。
想いと旨味が凝縮されたしらすをぜひ一度ご賞味あれ!

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株式会社ヒュー
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