農業をこえて、新たなものをつくりだす『 のうえんこえる』・城月直樹さんインタビュー後編

茅ケ崎で無農薬・無化学肥料で野菜を育てている『のうえんこえる』の城月直樹さん。
農業を始める前はヒューと同じ広告撮影のプロデューサーをしていました。広告業界からの転身。
そんな城月さんに今のお仕事、これからの取り組みについてお話をうかがいました。

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熊澤酒蔵さんでの直売所が少し落ち着いた午後、城月さんが耕作する畑を見せてもらいました。
車で10分ほどの場所に畑はあります。
さんさんと日が注いで、モンシロチョウがふわふわと気持ち良さそうに飛んでいます。

「見てください、これが無農薬の現状ですよ」と指差す先には
虫に食われて穴があいた野菜がちらほらあります。
除草剤、殺虫剤、殺菌剤の類を一切使わない分、
物理的にネットをかぶせて虫を防ぐなど手間をかけています。

城月さん(以下敬称略)「まだ土が出来上がっていないというか、まだまだなんです。
もっと土の状態を作りこんでいけば虫がつかない野菜になると僕は思っているので。そこは研究ですね」

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▲スーパーで買った野菜に大きな虫がついていたら「ぎゃ!」とびっくりするけれど、城月さんの畑で見かけた虫は、野菜にしがみついてむしゃむしゃ葉っぱをおいしそうに食べています。「そうだよな、それ絶対おいしいよな~」と妙に共感してしまいました。


シェアをして共に成長しあえる地域や仲間

有機農家での研修、その後農業法人で4年間勉強しながら働き、農場長まで務めた城月さん。
最初に農業を学んだこの茅ケ崎の土地で自分の農園を立ち上げます。2016年のことでした。
最初から潤沢に資金があるわけではないので、まずは畑を一枚。
農業用の機械は同じ土地で農業をしている仲間とシェアをして始めました。
地元で貸してもらえる畑を探しながら今では6枚の畑を耕し、田んぼは仲間と共同でお米を作っています。
お米の収穫をした時はみんなで一緒に“収穫祭”を開催したそうです。

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▲畑はすべて合わせると約8000平米。奥さんと二人で耕すことを考えるととても大きい!


城月「みんなお金じゃない方向にシフトしていると思います。
地域の小さいコミュニティがたくさんできて一緒に生きていくというか、共生しあっている感じ」

「作って売る」というビジネスは“一人勝ち”だけが正解ではないと改めて気づかされます。
地域や仲間、さまざまなコミュニティと一緒に歩んでいく、『のうえんこえる』の姿がうらやましくも感じました。


これから20年、30年、40年と生きていく世代にとって

いま“サスティナブル”や“SDGs”という言葉を耳にする機会が増えています。
少しづつ意識や価値が変わっている実感はあるものの、
これから20年、30年、40年と生きていく私たちの世代は何をするべきなのか。

目の前に立ちはだかる問題はあまりにも大きく、
個人でできる取り組みがちっぽけに感じられて、もどかしい気持ちになります。

今回『のうえんこえる』を訪ねたのは、かつて一緒に仕事をしていた城月さんが、
どんな気持ちで農業を続け、環境や食の問題をどんな風に見つめているのか、
会って聞いてみたいと思ったからでした。そこに何かのヒントがあるように思えたからです。

城月「環境の変化は本当に身をもって感じています。今年は5月に雹が降ったり、
台風や長雨のストレスで根腐れする野菜もあった。
一昨年は寒過ぎて、昨年は暖か過ぎる。作型も狂ってきているし、
地元のおじいちゃんも、この70年こんな事はなかった、と言っています。
でも僕はこんな時だからこそ新規就農者は強いと思うんです。
経験がない分、常に情報を更新していかないと。今までの経験は学びながらも、
毎年変わる環境に対応していけば乗り越えられるかもしれない。
毎回勉強です。だから農業は飽きないのかも」

農業を取り巻く環境の厳しさを振り払うような、城月さんの言葉がとても印象に残ります。

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城月「環境や食の問題に真剣に取り組んでいる凄腕のシェフがいて、
その方が“ゼロウェイストビストロ”で食事提供したり、
割れたトマトで美味しいトマトソースを作ってくれたりしています。
僕もフードロス問題に取り組みたいので、これに参加しています。
例えば無農薬で育った野菜は虫が食っているのもあるし、形が悪いものもある。それを捨てずに提供しています」

ふと、ヒューのオフィスにある“バラし冷蔵庫”が思い浮かびました。
撮影で余った食材は捨てずにここへまとめてスタッフが自由に食べる、というものです。
会社としては本当に小さな取り組みですが、
意識を変えるための小さな一歩。それをもどかしく感じる必要はなかったのかも知れません。

五感を育てる“畑ピクニック”

“食育”という視点で『畑ピクニック』も開催している城月さん。
参加する子供たちに野菜や土を身近に感じてもらえるよう、一緒に収穫し料理して食べるイベントです。

城月「子どもたちは裸足で土の上を走りまわったり、寝そべったり。
いっぱい土に触れて日を浴びて、五感を育ててほしい。この時期しか磨けない感性があると思うから」

畑ピクニックの様子を写真で見ていると、子供はもちろん大人も楽しそうな表情です。
芋を掘って楽しいのは、確かに子供だけじゃない。大人だって感性を磨いたり、新たな価値観に出会える機会です。

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(写真提供・のうえんこえる)

20年に20回しか作れない、そんな思いで育てる白菜

よく陽があたる畑の真ん中には白菜が並んでいます。

城月「この白菜は1年に1回しか作らない。と言う事は20年の間に20回しか、
この白菜は作れないんです。だからおいしいものが育つと震えるほど感動します。
これからはAIや技術の進化も認めないといけない。
将来は工場のように野菜が育つ日が来るのかもしれない。
でも、土の中の微生物と一緒に太陽を浴びて育った野菜には一つ一つに温かみや安心感がある。
もし、近くに思いのある生産者さんがいたら応援してあげてほしいです」

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取材が終わったあと直売所で買ったキャベツを家でさっそく食べてみました。
あまりにも新鮮でみずみずしいので、火を通して料理するのがもったいない!
少しの塩を振って口に入れるとキャベツの甘みが広がります。
思わず“震えるほどおいしい”という城月さんの言葉が浮かんできました。
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「農家ってリスクがある職業だと思うんです。
台風一発でお金になるはずの野菜がダメになっちゃったり、後継者も少ない。
だからこそ、他の業種とどんどん繋がって新しいものを生み出していきたいと思います。」

畑でそう話してくれた城月さん。『のうえんこえる』の上には垣根をこえて広がる青空と、
柔軟で伸びやかな志がありました。だからどんな時もたくさんの人が集まってくるのかも知れません。


『のうえんこえる』の野菜販売の情報はこちらのフェイスブックで更新されています。

撮影・浦野 航気(hue)

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