“食べ込んできた”記憶と知識で、企画の種を蒔く。 センブラール佐野嘉彦さんインタビュー・前編

“食べ込んできた”記憶と知識で、企画の種を蒔く。 センブラール佐野嘉彦さんインタビュー・前編

ワインに、パルミジャーノ・レッジャーノなどのチーズ、カンパーニュのパンにクラフトバター、どれも美味しそうで興味をそそられる写真をインスタグラムに掲載しているのは『sembrar』代表の佐野嘉彦さん。かつては料理通信に在籍されていて、hueでも一緒に仕事をしてきた仲間です。スペイン語で「種を蒔く」という意味の“sembrar”(センブラール)を屋号に、2018年6月に独立。編集や執筆などを中心に食まわりの分野で活動をされています。その楽しそうなお仕事っぷり!おいしそうな写真が並ぶSNSを見るたびにお話しを聞いてみたい、と思っていました。 

昨年は3度にわたりイタリアを訪れ、現地のチーズを取材されてきた佐野さんに“フードコミュニケーター”としてのお仕事やこれからの展望について伺いました!

編集から執筆、時には撮影やスタイリングも

久々にお会いした佐野さんから改めてお名刺をいただくと、名前より大きく書かれた「しなやかに、食べよう。」という文字に目が奪われます。厚みのある、でも柔らかな手触りの紙に、黒でもグレーでもない優しい色で活版印刷された文字。裏面は英文で、コーヒーミル、パン、チーズ、ワイン、日本酒のイラストと「food communicator」という肩書きも。
「実は自分の仕事にしっくりとくる肩書きが未だに見つかっていないんですが、海外でも、この人はどんな人で、何が得意なのかわかるように、イラスト的なピクトグラムと一緒に“food communicator”と添えました」。なるほど、アイデアが詰まった名刺は、受け取った側もなんだかワクワクしてきます。

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以前からチーズプロフェッショナルとして活躍されてきた佐野さん。独立してすぐに手掛けたのが『ツウになる!チーズの教本』(秀和システム) の執筆だったそうです。チーズプロフェッショナル協会による監修のもと基本のチーズ50種類を中心に、初心者がみてもわかりやすいよう、それぞれの特徴や食べ方が詳しく紹介されています。全192ページのボリュームがあるこの本を、わずか1か月半というスピードで執筆されたことに驚かされます。


佐野嘉彦さん(以下敬称略)「執筆は大変でしたが、この本がその後の仕事の基礎になり、どんなチーズの案件がきてもすぐに取り掛かれるようになりました。雑誌でチーズのセレクトを頼まれたり、専門誌での連載だったり、昨年はワイン専門誌のなかでパルミジャーノ・レッジャーノを紹介する記事があり、これは企画から編集、取材、執筆、そして恥ずかしながら写真も私が撮影させていただきました」


え!撮影も?とお話を伺いながらびっくり。イタリアでの現地取材ということもあり、取材をしながら一眼レフで撮影したそうです。「カメラの技術的なことはわからないんですけど」と言いながらも、どの写真も生産者さんの表情や、美味しそうなチーズが魅力的に映し出されています。台割やページレイアウトが頭の中で仕上がっているから、どんな写真が必要で、この写真で何を伝えたいのか、判断しながらシャッターを切れるのは大きな強みです。

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 ▲いずれも佐野さんが撮影。自然光をうまく使った美味しそうな写真です。


佐野「以前、料理通信社が主催したセミナーでhueの大手さんが解説されていた「自然光で美味しく撮影するコツ」を参考に、構図や光の向きを考えて撮影しています。あとは現場でこれまでご一緒してきたプロのフォトグラファーのみなさんから教わったことを思い出しながら、見よう見まねで挑戦しています」

この現地取材記事に限らず、『ツウになる!チーズの教本』や他の企画でも自ら撮影した料理写真がたびたび登場します。海外取材の際に見つけた食器やキッチンツールを活かした撮影のスタイリング、そして時には料理の再現まで佐野さんが担当することもあるそうです。


“食べ込んできた”美味しい記憶や知識

佐野「私は撮影や調理に関してはプロフェッショナルではないけれど、今までの取材や仕事の中でたくさんのシェフやソムリエの方などに出会い、とにかくたくさん、食べ込んできたので。耳年増というか(笑)。その知識や記憶を駆使しています」

“食べ込んできた”という言葉には説得力があります。独立される前は、レストラン評価ガイドブック『ZAGAT』や料理通信社、渋谷のチーズ工房『CHEESE STAND』などで編集やウェブ、広報としての経験を積み、様々なジャンルのシェフによる一流の料理を目の前で見て、プライベートでもお給料のほぼすべてを“食べること”につぎ込んできたそうです。

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 ▲チーズやワイン、名刺に書いた得意なジャンルに関しては、編集や執筆に限らず、イベント企画やワークショップ、時には司会やセミナーの講師なども引き受けるそうです。

今年は、ワイン専門誌の中でパンの連載を持ち、家で楽しむパンとワインの美味しい組み合わせを紹介。例えば1回目は「食パン」がテーマ。今流行りの“ふわふわ・もちもち系”や、王道の“サックリ系”、またライ麦入りの“こだわり系”など3種類の食パンをセレクトし、それぞれに合うちょい足し食材とワインを紹介する企画です。ペアリングの基本が頭の中にあるので、それでアタリをまずつけておいて、事前にすべての組み合わせを実際に試しているそう。

また、パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会の企画では日本酒をテーマに、メディア向けにペアリングのワークショップを実施。ここではパルミジャーノ・レッジャーノとタイプ別の日本酒のペアリングを、「チーズの削り方」に合わせて紹介されました。

佐野「例えば、粉状に削ったチーズは口に入れた瞬間にふわっと溶けて香りが一気に広がるので、純米大吟醸の華やかさが合う。でも、ごろっとした塊のチーズは口の中で噛みしめるので、そのテクスチャーやフレーバーの広がりを考えて、じんわりしたうまみを感じる山廃の純米酒が合うと提案しました。香りと味わいの性質やタイミングを合わせることでマリアージュの効果があがります。パルミジャーノ・レッジャーノは削り方次第で味わいが変わることが面白いし、日本酒の特性と併せて体験してもらいたいと提案して、実現したセミナーでした」


美味しいものをより楽しむためのアイデアや工夫は、いったいどうやって思いつくんですか?とたずねると「それはもう、夜な夜な一人で実験して見つけるんです」。これこそが佐野さんの“食べ込んできた”という言葉そのものです。

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イタリアチーズの魅力を伝える


「昨年の一年間で全精力を注いだ仕事」と見せてくれたのは『イタリアチーズ通信講座』のテキストです。ワインインポーターの『Vino Hayashi』から依頼があったこの講座は、毎月3種類のイタリアチーズとテキストがセットになっていて、受講者に届けられるというもの。佐野さんはこのテキストの編集、取材、執筆を担当されたそうです。

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佐野「イタリアのワインは土着品種が多いのが魅力なのですが、チーズも同じです。日本人って多くの人が、例えば青森に生まれても一度は東京に出てきたりするじゃないですか。でもイタリアの人は「この村で生まれて、死ぬまで村から出たことない」という人が普通にいるんです。だから日本以上に、郷土文化が色濃く残っている印象があって、地場の品種や郷土料理も魅力的です。昨年はベテランのフォトグラファーと現地在住のスタッフと私の3人で、イタリアの各地を取材で回り、この講座のテキストを作りました」

毎月のテキストは、訪れた土地の風土や町の紹介、そしてテキストと一緒に届くチーズと生産者の情報、テイスティングシートに、その模範解答。さらにQ&Aのコーナーやコラム、エデュケーションのページなど、読み応えある全28Pの構成。学びの多い内容なのに、掲載されている写真やレイアウトが本当に楽しそうで、一緒にイタリア旅を楽しんでいるような気持ちになります。今はコロナ禍もあり、旅行が難しい時期だからこそ、こういった食べて、学んで、旅気分が味わえるテキストは需要が高くなりそうです。

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ワインエキスパートやチーズプロフェッショナルとして講師もされ、編集・執筆、イベントの企画や司会など“おいしいもの”の魅力をあらゆる角度から伝える佐野さん。
でも「食」のフィールドに身を置こうと決めたのはどんなきっかけがあったのでしょうか。
次回の記事では、佐野さんが食の仕事にたどり着いたルーツや、新たな時代の働き方についてお話をお聞きします!どうぞお楽しみに。


佐野さんがナビゲート!家で食べて巡るチーズの旅
【イタリアチーズ通信講座】
5000年の歴史を持つ"Formaggi Italiani(イタリアチーズ)"。毎月3種の選りすぐりのローカルチーズを全12回の講座を通じて、自宅で味わいながら学べます。目指すのは「"おいしい!"の向こう側」。地方色豊かなイタリアを旅するように・・・佐野さんが手掛けたテキストとともにイタリアのチーズと食文化をじっくり学べます。

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株式会社ヒュー
株式会社ヒューは「食」を中心とした広告や商品パッケージの撮影から、レシピの開発・提案・クッキングの手配や出版物・WEB・デザイン・SNSを使ったコミュニケーションツールなど多彩にご提案が出来る「食の総合プロデュース会社」です。
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