オーナー小倉ヒラクさんに聞く、発酵×シズル『発酵デパートメント』・後編

オーナー小倉ヒラクさんに聞く、発酵×シズル『発酵デパートメント』・後編

東京・世田谷代田に誕生した『BONUS TRACK』にある『発酵デパートメント』
オーナーは、「発酵デザイナー」の小倉ヒラクさんです。

元々アートディレクターだったヒラクさん、発酵醸造学という味噌やお酒などの発酵食品ができる仕組みに興味を持ち、デザイナーとして発酵醸造メーカーのアートディレクションやアニメ、絵本等の制作を手がけているうちに微生物学の世界にのめり込み、発酵文化の研究者とデザイナーのハイブリッド「発酵デザイナー」になりました。ヒラクさんにお店をつくった経緯から、日本の発酵文化の今、そして発酵のシズル感についてお話をうかがいました。


はじまりは、『Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅〜』

――まずは『発酵デパートメント』をつくった経緯について教えてください。

小倉ヒラクさん(以下敬称略) 僕は2018年から2019年の間に全国47都道府県、約70ヵ所を巡って、ローカル発酵文化を訪ねる旅をしました。
この旅の記録を発表したのが、『Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅』という展覧会です。
2019年4月から約3ヶ月間、渋谷ヒカリエのd47 MUSEUMで発酵から日本を再発見する旅というテーマで僕が出会った日本全国の発酵文化を紹介したところ、来場者数は約5万人と超ブレイクしたんです。

――シズルブログの読者の中にも行った方は多いと思います!

ヒラク その時に展示だけじゃなくて実際に商品が買えた方がいいなと思って、ミュージアムショップもつくったんですけど、これがまた信じがたいほど売れまして!会期後半のむちゃくちゃ人が入った時期なんて、閉館後の棚を見ると、まるで空き巣が入ったみたいな何にもない状態が連日続いたんですよ(笑)。

で、そこに小田急グループのデベロッパーの偉い方が来て、「これをお店にしないか?」と。
会期の終わり頃、展覧会チームでも話し合って、せっかく醸造家や地域とのつながりができたのに3ヶ月でおしまいというのは無責任なんじゃないかという議論が出たんですよね。じゃあこういうものを永続的なものにするためには店舗をつくるべきではないかと話になったのが、今回の『発酵デパートメント』の始まりです。

ヒラクさん01.jpg

――なるほど、あの展覧会から始まったお話だったんですね。

ヒラク ただし当初の構想では、ここ『BONUS TRACK』でもミュージアムショップと同じ5坪ほどの規模で小さなグロッサリーショップをやる予定でした。
でも契約2週間前にこのエリアで一番大きいテナントを借りないかという話が出て。
その広さは35坪、家賃も7倍です(笑)。

それだけキャパシティがあるならグロッサリーショップだけだともったいない。
そこで、小売、飲食、イベントという3本柱でお店をスタートさせたのが、2020年4月1日です。

世界がどうなっても、発酵文化は続くよどこまでも

――というタイミングで緊急事態宣言ですか……。

ヒラク いやぁ、本当に大変でしたね。
物販だけは続けて、飲食は2ヶ月半ぐらい、イベントは3、4ヶ月できない日々が続きました。
この『発酵デパートメント』を始めるにあたって僕はオーナーという立場で、そこまで現場に立つつもりではなかったんです。
研究者やクリエイターとしての仕事もありますし、めちゃくちゃ旅もしているので、
店には旅の途中でちょっと寄るぐらいにしてあとは良きに計らえ~という感じで。
でもコロナのことがあって、スタッフの安全のためにも自転車と徒歩圏以外の人は出勤禁止にしたんです。
そしたら来られる人が2人しかいない!
その2人プラス僕の3人で、毎日段ボールを開けて、商品を並べて、醸造家の人たちと発注の連絡を取り合って、伝票を整理して……という毎日でした。

でもそのおかげで、商品のことはもちろん、発酵文化を継承している人たちの事情についてもより深く考えられました。
また、オープン前は発酵好きの人たちばかりが来る店を想定していたところ、お客さんの大半が近所の人たちになり、発酵というものが一般の人にとってどういう存在なのか考え直す良いきっかけになりました。

ヒラクさん07.jpg

――コロナ禍でもお店を閉めずに続けられたんですね。

ヒラク なんでかと言うと、僕らがやっていることは不要不急の逆で、毎日必要な食材を売っているので、近所の人たちのためにも閉めちゃだめだと考えたんです。結果的にはステイホームで自炊の欲が高まったこともあって、物販についてはコロナを想定していなかった時点で予定していた売り上げの2倍に!

それと同時にECサイトも手づくりで立ち上げました。
そこでは『発酵サブスク』という1ヶ月に1回普段絶対に手に取らなさそうな調味料を無理やり送り付けるというサービスもスタート。
これがまたすごいブレイクしたんです。

――あの時期は急に味噌づくりを始めたり、いろいろな料理に挑戦する人がけっこういましたよね。

ヒラク 元々このお店の存在価値は、全国に発酵文化を守っている人たちがいること、そして世界中で何千年と続いてきた発酵文化をいかに継承していくかということを伝えることですが、店としての機能を止めなかったことで、そういう人たちの役にも立てたんです。
あの時期って、百貨店やセレクトショップ、アンテナショップも店を閉めましたよね。
だからそういうところと取引をしていた地方の発酵食品のメーカーの商品が宙に浮いてしまったんです。
だから僕、一時期はよろず相談所みたいになっていて、全国から電話がかかってくるんですよ、
「ヒラク君元気? 生きてる? うち、死にそう! うちの商品を買ってくれない?」みたいな。
「そのわけ分かんないやつ、うちで売ります! たぶんなんとかなります」って。
来たら本当にわけ分かんないものもあったり(笑)。ヒラクさん06.jpg
そういうものをどうやったらお客さんに分かりやすく伝えられるか考えて、店や『発酵サブスク』で売りました。
現代の食卓や生活の中でものづくりの伝統の存在感をキープする、
そしてそれは世の中がどんな状態になってもやめちゃいけないという志を持って過ごした3ヶ月でしたね。

発酵のシズル感とは?

――オープンから半年経って飲食部門も本格始動し、次々と新しいメニューを提案されている今お聞きしたいのですが、ヒラクさんは発酵のシズル感についてはどう考えていますか?発酵食品と聞いて思い浮かぶものは納豆や味噌など色合いも華やかではないものが多いイメージがありますし、物によっては見た目がおいしそうじゃないものもありますよね?

ヒラク 発酵のシズル感って生きている感ですよね。
今まさにリアルに生きている、生き物感。
そういう代謝物が感じられることが発酵感なのかなと思います。
発酵のシズル感は味覚を除くと、匂いとテクスチャーと視覚という3つの要素から成り立っていて、どれも大事です。
たとえばスパークリングワインだと、栓を開けた時のポンッという音、匂いを嗅いだ時の芳しい香り、そして飲んだ時のシュワッと感ですね。
テクスチャーは、塩辛のようなネットリ感とか、漬け込み系のシロップのヌメヌメ感かな。
今まさに発酵してブクブクしているとか、シュワシュワシュワとか、キラキラしているのも微生物が生きている感じがするでしょ?

ヒラクさんと瓶.jpg
発酵瓶02.jpg

――こちらの発酵食品はカラフルで、キレイですね!

ヒラク かわいいでしょ?
日本の伝統的な和食に限定してしまうと全体的に茶色っぽくなりがちだけど、うちではアジアを中心とした世界中のものを取り入れた、フラットな料理を提供しているので見た目もけっこう映えるんですよ。

発酵瓶01.jpg

世界中の発酵好きが集まる『発酵デパートメント』へ

――世界的には発酵の注目度合いはどうですか?

ヒラク 盛り上がっているところと、そうではないところがあって、ムーブメントとして盛り上がっているのはぶっちぎりで日本ですね。

あとは北欧でも盛り上がっていて、数年前から『NOMA』というレストランが日本の発酵文化にフォーカスして、ヨーロッパのガストロノミー界隈で話題になっていますね。一時期『エル・ブリ』を中心にモレキュレラガストロノミー(分子ガストロノミー)が流行ったのと同じノリで、『NOMA』発のファーメンテーションキュイジーヌが注目されましたね。その流れで僕もヨーロッパに呼ばれて、現地で対談や講演もしました。

各国の反応を見ると、日本発信の発酵ムーブメントはこれからますます世界中に広がっていくと思うんですよね。
だから僕はクールジャパンってアニメや漫画ではなく発酵だと思っていて、すごく求心力も持っていろんな人たちとコラボレーションをしていける領域だと考えています。

ヒラクさん02.jpg

――なぜ日本が発酵のムーブメントの中心になっているのでしょう?

ヒラク 日本はマスインダストリーと近代化がアジアで最初に行き詰った国なんです。
つまり安定した品質のものをたくさん作り、他の国のトレンドを取り入れてオリジナルを越えるものをつくることに行き詰まりが来た時に、自国のプロダクトやカルチャーをどうつくるのか、自分の足元を見つめ直したと。
で、その時に発酵というものがものすごいキャパシティがあると気付いた流れだと思います。

この発酵文化のキャパシティは、日本と同じかそれ以上に中国と韓国、そしておそらく北朝鮮にもあります。ただそれらの国はまだそのフェーズに到達していなくて、発酵食品とか土着的なものはまだあまりかっこよくないものに見られているんですよね。
10年、20年経ったら日本みたいに盛り上がって、おもしろいことになるんじゃないかと思っています。

――日本において発酵文化の盛り上がっている中、この『発酵デパートメント』をどんなお店にしていきたいですか?

ヒラク この店、世界最強の発酵ショップになる可能性が非常にありましてですね!
世界中にガストロノミーや発酵学関係の研究所もありますし、知り合いもいますけど、その中でも僕らがやっていることって、物販にしても飲食にしてもユニークでクオリティーが高いんですよ。なので発酵とか微生物が好きな人はどんな国の人でもまずはこの店に来い、あるいは行けというメッカみたいな存在になるのがいいんじゃないかなと思っているし、そのキャパシティは十分に持っています。

だから早く国境があいてほしいな。

そうなるとこれから大事になるのは、外国の人が来ても対応できる仕組みづくりなので、まずはバイリンガル対応かな。
ようやく店としての機能が落ち着いてきたところなので、これからは外に開いていくことが次のステップです。

ヒラクさん03.jpg

―――――
世界に誇れる日本の発酵文化を五感で楽しめる『発酵デパートメント』。
あなたの人生を変えるかもしれない、新たな出会いと発見が待っています!

著者プロフィール

著者アイコン
シズル撮影専門のクリエイターチーム・ヒュー
ヒューは食の撮影に特化したフォトグラファーが多数在籍しています。スチール撮影からパッケージ撮影、動画などシズル感のある表現で「おいしい」が伝わるビジュアルをご提案していきます。
お問い合わせ

関連記事